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第2話 国ヒノモトの問題

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第2話

 フレイはダンジョンから抜け出した。
 その間にもお前にはわからない、その言葉がフレイの脳裏に響き渡るが、彼は思わず口にしていた。

「わかるわけないだろ、人の気持ちなんて。それで追放なんて。僕の何が悪いんだよ! 僕はみんなを救おうとしただけなのに。ハーフだからって……」

 ダンジョンを抜けると、そこは都市であった。人間がざわめき、ひしめき合っているのだが、彼らはフレイのことを見るなり、目をそらすものばかりであった。

 フレイはそれを気にせず、進んでいく。そのうち壁が現れ、その検問を何も受けず、潜り抜けていった。

そこから、道は消え、壁を囲むようにしてあるのは、同じようなトタン屋根の小屋であった。その小屋の壁ははがれかかっているものもあれば、屋根の一部が落ちている家もある。そのひしめき合う小屋の奥は広大な自然が広がっていた。文明というのは感じられない。

 そこで小屋の間でフレイは目の前に複数人が騒いでいることに気づく。
 見ると、そこにいたのは黒の派手な服を着た少女とそれに絡んでいる三人ほどの男性であった。彼らのうち一人は少女の方につかみかかったが、彼女はすかすようにして、姿勢を落としかわした。

 だが、それに怒ったのか殴りかかってくる男性たち。フレイはそれを見て、ため息をつくと、その場にかけていった。

「ちょ、ちょ、やめましょうよ。喧嘩なんて」

「てめぇ、人間を庇うのか!……ってお前、ハーフの予言士サマじゃねぇか」

 そうにらみつけてくる三人の男の顔や首の一部は岩で覆われていた。

「そんなのは関係ないでしょう。やめましょうみんな仲良く……」

「できるかぁ!?」

 そのまま男性はフレイに殴りかかった。だが、フレイはその行動を脳内で予測し、形に移す。暴漢の踏み出す方向に向かって足を突き出すと転ばせる。殴りかかってきた二人目もかわすと、重心をずらすようにして、腕を引き、前のめりに転ばせた。三人目は刃物を持っていた。

「なんでそんな物騒なものを」

「いつ、人間に襲われてもいいようにだよ!」

 振り下ろされる刃物。それを持つ手首に向けて蹴ると、ナイフが空中を舞った。
 痛みから手首を押さえる暴漢をじっと見つめると、彼らは「クソ、弟の方まで強いのかよ」とセリフを残し、その場を去っていった。

 それを見ていた少女はつぶやく。

「ありがと」

「どういたしまして……もそうだけどさ。勝手に外に出ないでって言ったばかりでしょ。ここら辺はレアの民族の居住地区なんだからさ」

「い、いやぁ。ほ、ほら私、武器作ってるし。戦いになっても大丈夫だし。えと……」

 ちらりと胸元から取り出したナイフを見せるも、彼女はあからさまに目をそらした。
 フレイは目を細めると、一言。

「セリナ」

セリナと呼ばれた少女は分かりやすく肩をすくめた。

「ごめんなさい……」

「まったく……」

「……と、というか。そっちこそ仕事はどうしたの?」

 その一言に返すことができず、空を眺めた。
 反応を見て彼女は小突いてきた。

「クビかぁ。もう何度目?」

「11回」

「よく覚えているんだね」

 その言葉に返事をせず、背中を丸めたフレイの隣につくと、彼女は言った。

「しょうがないよ。人間とレアの民族が分かりあえるわけがないから」

 フレイは視線を落とし、「そっか」と呟いた。
 
「ま、大丈夫だよ。フレイ君の実績があれば、またスカウトされるって」

「だな……この後はどうするんだ?」

 彼女が口元を緩ませながらも、目を細めたことでフレイは察して、「了解」と言った。
 
 この国「ヒノモト」には二種類の人類が存在する。

 一種類目は人間。人間は特に変わらずの人間である。そしてもう一種類がレアの民族である。レアの民族はその身体のいくつかの個所に岩のようなもので覆われる体質があった。

 ヒノモトの人口500万人のうち10万人がレアの民族とされ、彼らは差別を受けていた。
 レアの民族の特徴的な見た目と共に、一軒家であれば軽く飛び上がれるようなレアの民族のその身体能力の高さが人間に恨まれることとなった。
 レアの民族は一時こそ50万人はいたが、人間の開発した兵器によって、大きく減らされた。

 生き残ったレアの民族に充てられる仕事は、大体が命がけか人の尊厳にかかわるようなものばかり。住んでいる街まで分断されてしまっている。人間の街はダンジョンを囲むように位置しており、その周辺でダンジョンから出土される遺物の恩恵を受けており、壁に囲まれて存在していた。

それに引き換え、レアの民族街はスラムのようになっており、同じような小屋が多く並び、壁の外で暮らしている。

 フレイのハーフというのは人間の母親とレアの民族の父親のハーフであるから。彼は岩の特徴が背中の一部分にしか存在しない。特徴的な顔や全身に広がるような岩の跡は存在していない。普通の人間に見えてしまうことが余計に差別を受ける原因となっているのだろう。

(追放された理由も毎回これだ)

そして、純粋な人間であるセリナが先ほど受けていた暴力は、このレアの民族による人間に対しての仕返しと言うわけであった。

 フレイはセリナを連れ、来た道を戻る。都市は壁ばかりであるが、壁の外側からでもダンジョンの巨大な塔は見ることができた。

 壁門の横には体の半分はあるかのような巨大な銃を構えている兵士がいた。
 彼らは人間軍と呼ばれている人間だけで構成された集団から派遣された者たちであり、ギルドへ提供される武器よりはるかに優れた「兵器」を所持している。この兵器で都市の治安を守り、そして、この国「ヒノモト」の実権を握っていた。

ギルドの役割はあくまでダンジョンの資源回収であり、その多くはレアの民族で構成されている。彼らの反乱の危険性も考えて、提供される武器には規定が設けられていた。そのため、銃や彼らの持っている兵器などをギルドのメンバーは持つことを許されていない。

 彼らはフレイの顔を見ると、ため息をつきながらも門を開き、通す。

「じゃ、行ってらっしゃい」

 フレイは門の前で彼女に手を振り、見送ると、そのままレアの民族街へと引き返していく。
 そして門からあまり離れていない一つの民家に入っていった。

「ただいま」

 ただいまに返事はなかった。
 その代わりに寝息が聞こえる。玄関から短い廊下を抜けると居間に出ると、テーブルに突っ伏している髪もボサボサの女性がいた。

 その女性にフレイは何も言わず布団をかけた。
 そこで、この女性から声が聞こえた。

 フレイが振り返ると、それは言葉と言う形を伴っていた。

「パパも、メムロも友達も……みんな、みんな奪われた」

 その震えている涙声にフレイは「母さん!」と声を荒げていた。
 フレイの声に母さんと呼ばれた女性はゆっくりと顔を起こした。

「あ、おかえり。フレイ。どうだった?今回のダンジョン攻略はギルドマスターから直々に命令を受けたんでしょ? ケガとか、してない?」

 彼女は先ほどの声とは打って変わってそう言いながら、フレイの体をまさぐり始める。それに対し、フレイは「ケガとかないから。大丈夫だから!」と言い、「母さんこそ」と続けようとしたところで、涙を浮かべた母親を見て黙ってしまう。

 その時。

「フ……フレイさんは勇敢で優しいんですね」

 そんな声がフレイの耳元に飛び込んできた。
 母親はそんなことを言っていない。
 その声がする方に目を向けた。

 その先はかまどの前であったが、そこにいるのは褐色の肌を持つ背の高い白髪の女性であった。その服は白い民族衣装のようで布をまとっているかのようであった。

「誰だ?」

 フレイの母親は寝ぼけ眼をこすりながら、「セリナでも帰ってきたの?」と言い、フレイの見ている方向を見るが、彼女は首をかしげている。

「何もいないけど」

「え?」

 そうフレイが困惑の声を漏らしたとき、不意に耳元に声が寄ってきた。

「あの、私と。その」

 慌てて振り返ると、そこには先ほどの女性が立っている。ありえない。2秒前にはあのかまどの前にいた。それがいきなりこんな場所まで。
 
 フレイはぞっと寒気がしたのと同時に、家から飛び出していき、臨戦態勢をとった。
 家の中にいるあの謎の存在をどう討伐するか、と考える。イメージが浮かびそうになったところで。

「あの」

 だが、次に声がしたのは空中であった。
 フレイは構えるも、この女性は泣きそうな顔でつぶやく。

「えと、私は今フレイ君にしか見えないし、触れることもできません。今、あなたの服の中にいて、そこからあなたの脳内に向けて映像とか音声を流しているというか、なんというか」

 服の中……?フレイは体を探ると、ポケットの中からぽろ、と何かが落ちた。
 それは黒い腕輪のようで。

「それです。あの、ちょっと、申し訳ないんですけど、私と契約してくれませんか?」

 彼女から不安そうな声が聞こえたが、不安なのはフレイも同じであった。



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