異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

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第一章

第54話 怪しい隠れ里

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 身奇麗になった奴隷狩り共を引き連れて、今夜の宿営地を探していたときである。
 周囲の状況を調べに言ったイオニスが、すこし緊張した顔で戻ってきた。

「主様、村らしき場所を見つけました」

「おお、でかした。
 でも、"らしき"ってなんだ?」

 イオニスの言葉に妙な言い回しを見つけた俺は、特に考えもなく疑問を口にする。
 まさか廃村だろうか?
 すると、イオニスは嫌悪とも困惑ともつかない顔でこう告げたのだった。

「いえ、人は住んでいるのですが、どうも様子がおかしいのです」

「どうおかしいんだ?」

「村から外に続く道がひとつもありませんでした」

 その瞬間、意味もなく、まるで背中に氷を押し付けられたような感覚が走る。
 なんだそれは?
 いくら寂れた村でも、道のひとつぐらいは外につながっているだろう?

「あ、そうか。
 もしかしたら隠れ里かもしれないな」

 何か理由があって外の世界から隔離されている村ならば、わざと道を作らないことでその存在を隠していることもありえる。
 そう自分に言い聞かせて納得したのだが、イオニスの次の言葉でその平穏はあっけなく崩れた。

「あと、村人の顔に違和感を覚えるのです。
 ありていに言いますと、同じ顔をした女性、しかも妙齢の女性しかいません」

「よく……わからないんだが」

 理解しようとしても、その前に生理的な恐怖に襲われて思考がまとまらない。
 やめてくれよ!
 ホラーは得意じゃないんだ!!

「どうしましょう?
 村を訪ねてみますか?
 それとも迂回したほうがよろしいでしょうか?」

「いや、とりあえずどんな村なのかもう少し探ってくれ。
 いろいろと気味が悪いのは確かだが、いろいろと物資が足りないからそう簡単に迂回の判断は下せないんだ」

「かしこまりました。
 しばらくお待ちください」

 そう告げると、イオニスはふたたび村の調査に向かった。
 やがて戻ってきたイオニスは、ニコリともしない顔で結果を報告する。

「いろいろとおかしなところはありますが、目だった危険はありませんでした。
 何人か外部の者と思われる人間の男性を見つけましたので接触してみましたが……。
 聞き取りの結果、特におかしなところは感じていないようです」

「その状態がどうしようもなくおかしいんだけどね」

「ただ、周囲から隔絶しているせいか、旅人は歓迎してくれるのだとか。
 ……特に男性は」

「男性って、俺みたいな子供も含まれているのかなぁ」

 こんな風に隔離された場所で男が歓迎されるのは、血が濃くなることを防ぐためによくある話だ。
 つまり、肉体的にお子ちゃまである自分には需要がない。
 ……中身は立派な成人なんだがなぁ。

「そこについては成人男性しかいませんでしたので、判別はつきませんでした。
 もうひとつ気になるのは、食料のことです。
 村の中はもとより、周囲にも畑らしきものがほとんどないんです」

「やっぱり、その村に行くのはやめておこうか」

 うん、その村絶対におかしいわ。

「はぁ……ですが、羊が何頭か村の中に入ってしまいまして。
 おいてゆきましょうか?」

 イオニスがそんな提案をしたときである。

「メェェェェ」

 まるでその言葉を否定するかのように、巨大羊がいなないた。
 そして、勝手に村のある方向に歩き始めたのである。

「うわ、馬鹿、よせ!」

「ブメェェェェ」

 こうなると、俺の力ではどうにもならない。
 いっそイオニスとヨハンナだけ回収して一人で空へ逃げてしまおうか?
 そんなことを考えるたのだが、巨大羊の毛がウネウネと伸びていつのまにか俺の尻尾に絡み付いていた。

「うわぁ、なにしやがる!
 そ、そこは!
 やめろ、尻尾をつかむんじゃない!」

「メェェェェ」

「主様、どうやらせ危険はないといっているようです。
 この羊殿はこのあたりの森の王。
 その村のことも何か知っているやもしれません」

「だからといって、強引すぎるだろ!
 この、馬鹿羊!!」

 腹いせに羊の背中をゲシゲシと蹴りつけたが。まったく答えた様子はない。
 いっそ爪を立ててやろうかともおもったが、本気で喧嘩をするメリットもないので、ここは羊の意志を尊重してやることにした。
 まぁ、少なくとも悪意は感じられないからな。

 そして三十分ぐらい歩いただろうか?
 目の前の森が急に開け、予想以上に原始的な建物が並ぶ村が見えてくる。

 レンガなんてものはひとつもなく、竪穴式住居を髣髴させる建物は全て石と漆喰のようなもので作られている。
 技術的にも俺の作るドーム型のコンクリート建築とほとんど差がないだろう。

「旅のお方ですか?
 まぁ、帝王羊とご一緒だなんて珍しい」

「素敵な方々……今夜はここにお泊りになるの?
 どうぞゆっくりしていってくださいね」

 俺たちの姿を見つけると、いかにも農民といった感じの質素な服をきた美女たちが出迎えてくれた。
 たしかに、全員が同じ顔である。
 俺はちょっとビックリして言葉が出なかったが、奴隷狩りの連中はまったく疑いもせずに鼻の下を伸ばしていた。

 この村人たちの態度……露骨なまでに種馬を欲しがっているな。
 イオニスの調査だと目につくような危険はないみたいだし、村の要望を無碍に扱う理由はあるまい。

 まぁ、隊長だけはどちらかというと不満げな顔だが……。
 これは女性だからしかたがないかもしれない。
 それとも、自分の手下を取られたような感じでもしているのだろうか?

「イオニス、宿泊できる場所を手配してくれる?
 あと、この村にいる限り奴隷狩りの連中もある程度自由にさせてかまわない。
 性的な処理も節度をもってやる限り許可するから」

 俺のこの発言は、野郎共に歓声をもって迎え入れられた。
 こんな怪しい村でお楽しみしようだなんて俺には到底理解できないが、この村の要望を満たして連中のストレスを解消できるなら悪くない。
 性欲は抑圧すると変な方向に出口を求めてしまうので、ある程度発散させてコントロールするのが一番なのだ。

 そして今日の宿を確保すると、俺は人払いをした上でフェリシアを呼び出した。

「あら、トシキさま。
 今日はどのような依頼ですの?」

「やぁ、フェリシア。
 今日はちょっと変わった依頼があってね」

 そして少し首をかしげたフェリシアに、俺は本題を告げる。

「俺の記憶にある物語を、この世界の言葉で書物として記録してほしいんだ」
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