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第一章
第78話 魅惑の香味野菜
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「うーん、おいしいけどもうひとつだなぁ」
それが昼食の弁当を食べての、俺の感想だった。
いや、別に悪くは無いのだが……どうしても満足には届かない。
内容も奇抜なわけではないのだ。
フランスパンに似たハード系のパンを切って、そこに衣をつけて焼いた鳥肉と、香味野菜や葉もの野菜を一緒にはさんだだけ。
素材の違いはあるものの、よくもまぁ地球と似たような料理文化があるものだと関心していたほどである。
塩が足りないかともおもったが、それもなんか違うんだよな。
早い話が、特に悪いところをあげろといわれても、すぐには思いつかないのだ。
だが、何かが足りない。
「そうかえ?
われはうまいと思うのじゃかなぁ」
俺の低評価に、ドランケンフローラが異を唱える。
何か違うものでも食べているのかとおもいきや、彼女のメニューも俺と同じだ。
定食しか出せないといっていたし、違うものが入っている事は無いだろう。
いったい何が悪いんだろうか?
なんとなくスッキリしなくと、俺はふたたびパンを齧る。
そして飲み込んだ後、鼻に抜ける香りで気づいた。
「いや、なんというか、肉の匂いがキツいというか……」
「肉の匂い?」
だが、そういっても彼らには伝わらないらしい。
横で同じように食事をしていたアンバジャックも首をかしげた。
「特にそうは思いませんけどねぇ」
「種族によって好む味付けが違うとか?」
「それはあると思いますが、これはむしろ肉食獣の因子を持つトシキさんのほうが好きな味かと」
言われて見れば、俺の体には肉食獣であるライオンやクマの因子が入っている。
それに、肉自体は人間だった頃より美味しく感じているような気がするぞ。
あえて言うなら……。
「肉の匂い消しが、ちょっと弱いかもな」
風味の強い香味野菜をいれて肉の匂いを消しているようだが、俺が慣れ親しんだスパイスなどと比べるとやはり効果がいまひとつなのだろう。
せいぜい、ニンジンとかミツバを入れて匂いを消している程度の感覚だ。
あと、畜産物の品種改良もあまりされていないだろう。
なので、いくら血抜きをうまくしても、臭みは強く筋は硬いのだ。
A5の和牛なんかがどんな風に生み出され、育てられているかを考えてみるといい。
いくらファンタジーな世界とはいえ、生半可な努力でアレが再現できるものか。
「でも、下味のつけ方にもよるんだろうな。
ニンニクかショウガがあればけっこう違うと思うんだけど」
だが、俺が何気なくつぶやいた一言に、妖魔たちが反応した。
「ニンニク? ショウガ?
なんじゃそれは」
「聞いた事の無い代物ですね」
「俺の故郷の植物だよ。
香りが強くて、肉の臭みを消してくれるんだ」
「ほほう、それは興味深いな」
だが、そのときである。
「お前ら、何してるんだ?」
そんな声と共に、俺のパンから鳥肉が消えた。
「あぁぁぁぁぁっ!
ジスベアード! お前、なんてことしやがる!!
俺の飯くったなお前ぇぇぇぇぇぇ!!」
「鳥肉ぐらいで叫ぶなよトシキくん。
立派な大人になれないぞ?」
「立派じゃない大人はだまっとれ!!」
そのドヤ顔、めちゃくちゃムカつくんですけど!?
「はぁ? 俺は立派な大人だろ?」
「立派な大人が子供の昼飯を掠め取るか!!」
俺が爪がたたないように肉球部分で脛を蹴り上げると、ジスベアードはゲラゲラと笑いながら今度はアンバジャックの肉に手を伸ばし、平手ではじかれた。
比較的温厚なアンバジャックの額に、一瞬だけ青筋が浮かんだ気がするのだが、できれば見間違いだと思いたい。
「まぁまぁ、とりあえずジスベアードさんにはあとでタップリと謝罪と賠償を請求するとして。
先ほどの植物の話をきかせていただけませんかね、トシキさん」
訂正。 たぶんこいつ……一見して平穏だが、やられたら徹底的に仕返しをするタイプだ。
しかも、かなり陰湿な方法で。
「その植物、われわれも興味あるのぉ。
ちと、頭の中でイメージしてくれぬか?
そのイメージを元に、こちらで再現できないか試してみたいのじゃよ」
ドランケンフローラの言葉に、俺は思わず問い返した。
「そんなこと……できるのか?」
「まかせてください。
これでも、植物に関しては専門家ですから」
なるほど。
門外漢だからさっぱりわからないが、できるというのならば可能なのだろう。
しかし、前に地の精霊たちに記憶を覗かれたあとはけっこう大変だったんだよなぁ。
思い出したくも無い黒歴史をことあるごとに思い出すという副作用が発生して、しばらく寝つきがわるくなったっけ。
俺が引き受けようかどうか悩んでいると、ジスベアードまで首を突っ込んできた。
「なんか面白そうな話だな」
「おぬしにも働いてもらうぞ、ジスベアード。
香辛料だけがあっても、鶏肉がなければ検証が出来ぬ」
「……というわけで、先ほどトシキくんのご飯を横取りした賠償として、美味しそうな鳥肉を要求します」
アンバジャックが妙に迫力のある笑みを浮かべると、ジスベアードはヤレヤレといわんばかりに肩をすくめる。
「……へいへい。
いまの状況でお前さんがたに町をうろつかれても迷惑だからな。
誰かに使いに行ってもらうとするか」
あ、しまった。
これ、断るタイミングを逃した感じだ。
ごく自然に話を進められたぞ。
「では、トシキくんはこちらを向いて。
まずニンニクというものを心の中にイメージしてください」
すっかり俺が引き受けたと思い込んだアンバジャックは、俺の顔の絵に大きな手をかざす。
……どうしよう。
今になって、ものすごく逃げたくなってきた。
それが昼食の弁当を食べての、俺の感想だった。
いや、別に悪くは無いのだが……どうしても満足には届かない。
内容も奇抜なわけではないのだ。
フランスパンに似たハード系のパンを切って、そこに衣をつけて焼いた鳥肉と、香味野菜や葉もの野菜を一緒にはさんだだけ。
素材の違いはあるものの、よくもまぁ地球と似たような料理文化があるものだと関心していたほどである。
塩が足りないかともおもったが、それもなんか違うんだよな。
早い話が、特に悪いところをあげろといわれても、すぐには思いつかないのだ。
だが、何かが足りない。
「そうかえ?
われはうまいと思うのじゃかなぁ」
俺の低評価に、ドランケンフローラが異を唱える。
何か違うものでも食べているのかとおもいきや、彼女のメニューも俺と同じだ。
定食しか出せないといっていたし、違うものが入っている事は無いだろう。
いったい何が悪いんだろうか?
なんとなくスッキリしなくと、俺はふたたびパンを齧る。
そして飲み込んだ後、鼻に抜ける香りで気づいた。
「いや、なんというか、肉の匂いがキツいというか……」
「肉の匂い?」
だが、そういっても彼らには伝わらないらしい。
横で同じように食事をしていたアンバジャックも首をかしげた。
「特にそうは思いませんけどねぇ」
「種族によって好む味付けが違うとか?」
「それはあると思いますが、これはむしろ肉食獣の因子を持つトシキさんのほうが好きな味かと」
言われて見れば、俺の体には肉食獣であるライオンやクマの因子が入っている。
それに、肉自体は人間だった頃より美味しく感じているような気がするぞ。
あえて言うなら……。
「肉の匂い消しが、ちょっと弱いかもな」
風味の強い香味野菜をいれて肉の匂いを消しているようだが、俺が慣れ親しんだスパイスなどと比べるとやはり効果がいまひとつなのだろう。
せいぜい、ニンジンとかミツバを入れて匂いを消している程度の感覚だ。
あと、畜産物の品種改良もあまりされていないだろう。
なので、いくら血抜きをうまくしても、臭みは強く筋は硬いのだ。
A5の和牛なんかがどんな風に生み出され、育てられているかを考えてみるといい。
いくらファンタジーな世界とはいえ、生半可な努力でアレが再現できるものか。
「でも、下味のつけ方にもよるんだろうな。
ニンニクかショウガがあればけっこう違うと思うんだけど」
だが、俺が何気なくつぶやいた一言に、妖魔たちが反応した。
「ニンニク? ショウガ?
なんじゃそれは」
「聞いた事の無い代物ですね」
「俺の故郷の植物だよ。
香りが強くて、肉の臭みを消してくれるんだ」
「ほほう、それは興味深いな」
だが、そのときである。
「お前ら、何してるんだ?」
そんな声と共に、俺のパンから鳥肉が消えた。
「あぁぁぁぁぁっ!
ジスベアード! お前、なんてことしやがる!!
俺の飯くったなお前ぇぇぇぇぇぇ!!」
「鳥肉ぐらいで叫ぶなよトシキくん。
立派な大人になれないぞ?」
「立派じゃない大人はだまっとれ!!」
そのドヤ顔、めちゃくちゃムカつくんですけど!?
「はぁ? 俺は立派な大人だろ?」
「立派な大人が子供の昼飯を掠め取るか!!」
俺が爪がたたないように肉球部分で脛を蹴り上げると、ジスベアードはゲラゲラと笑いながら今度はアンバジャックの肉に手を伸ばし、平手ではじかれた。
比較的温厚なアンバジャックの額に、一瞬だけ青筋が浮かんだ気がするのだが、できれば見間違いだと思いたい。
「まぁまぁ、とりあえずジスベアードさんにはあとでタップリと謝罪と賠償を請求するとして。
先ほどの植物の話をきかせていただけませんかね、トシキさん」
訂正。 たぶんこいつ……一見して平穏だが、やられたら徹底的に仕返しをするタイプだ。
しかも、かなり陰湿な方法で。
「その植物、われわれも興味あるのぉ。
ちと、頭の中でイメージしてくれぬか?
そのイメージを元に、こちらで再現できないか試してみたいのじゃよ」
ドランケンフローラの言葉に、俺は思わず問い返した。
「そんなこと……できるのか?」
「まかせてください。
これでも、植物に関しては専門家ですから」
なるほど。
門外漢だからさっぱりわからないが、できるというのならば可能なのだろう。
しかし、前に地の精霊たちに記憶を覗かれたあとはけっこう大変だったんだよなぁ。
思い出したくも無い黒歴史をことあるごとに思い出すという副作用が発生して、しばらく寝つきがわるくなったっけ。
俺が引き受けようかどうか悩んでいると、ジスベアードまで首を突っ込んできた。
「なんか面白そうな話だな」
「おぬしにも働いてもらうぞ、ジスベアード。
香辛料だけがあっても、鶏肉がなければ検証が出来ぬ」
「……というわけで、先ほどトシキくんのご飯を横取りした賠償として、美味しそうな鳥肉を要求します」
アンバジャックが妙に迫力のある笑みを浮かべると、ジスベアードはヤレヤレといわんばかりに肩をすくめる。
「……へいへい。
いまの状況でお前さんがたに町をうろつかれても迷惑だからな。
誰かに使いに行ってもらうとするか」
あ、しまった。
これ、断るタイミングを逃した感じだ。
ごく自然に話を進められたぞ。
「では、トシキくんはこちらを向いて。
まずニンニクというものを心の中にイメージしてください」
すっかり俺が引き受けたと思い込んだアンバジャックは、俺の顔の絵に大きな手をかざす。
……どうしよう。
今になって、ものすごく逃げたくなってきた。
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