7歳からの魔王道

小戸エビス

文字の大きさ
7 / 53

第7話 転生のあるなし

しおりを挟む
 儂が儂自身を見失ったとき、ネイシャは儂を止めぬじゃろう。
 それは、ネイシャの怠慢ではなく、性分じゃ。此奴は前世の頃、自分がどうしたいかよりも儂に合わせようとするところがあった。
 転生した後もその辺りは変わっておらぬのじゃろう。

 それに、ネイシャはネイシャで、今の生活が楽しそうでもあるし。

「ところで魔王様、私、メイド服似合うでしょ。結構自信あるんですよ」

 唐突に言い出した。絶対楽しんでおる。
 ひとまず、適当に褒めておいた。

 じゃからまあ、もし儂がシンディとしての人生を選べば、褒められたことで小躍りしておるネイシャは、前世を放棄した儂に合わせるじゃろう。
 ……じゃが、そうなれば、ネイシャは一人で前世の記憶を抱え込むことになる。世話をされる儂は前世を忘れ、安穏と暮らしておるというのに。
 それでは、ネイシャがあまりにも……

「ネイシャ」
「はい、魔王様」
「安心せい。儂は前世のことを忘れたりはせぬ」

 ネイシャは一瞬、きょとん、とした顔をした後、笑顔になって「良く分かりませんが、分かりました」なぞと言いおった。
 まあ、此奴はこれでよい。儂がしっかりしておればよいだけじゃ。

 じゃが、具体的に、これからどうしてゆくか。

 儂が前世を忘れない、という点で一番確実なのは、今すぐこの家を出ることじゃ。魔族として再起するために。
 その辺りの計画は、前世のうちに、漠然とじゃが立てておいた。
 まず四天王と合流、あるいは儂単独でも、魔王城へ至る方法と、身体を魔族に変える方法を探し、確保する。
 これらの方法は前世のうちに各地に隠しておいたから、儂はその場所へ行くだけじゃ。長い時間の中で失われていたとしても、断片でも手に入れば再現の途はある。
 じゃが、今すぐその計画通りに動くのは流石に困難じゃ。儂はまだ7歳の身。ネイシャがおるとしても、世界中を旅して回るのは難しい。

 と、考えておったら、いつの間にかネイシャが横に座り、儂の頭を撫でておった。
 なでなで。
 まあ、別に良いので、好きなようにさせておく。

 ……で、じゃ。
 今、すぐには出て行かぬと考えた時、儂の中に何かを安心するかのような感覚が生まれた。
 身体のこととは別に、儂自身の中に、ここに留まりたいという思いがある。今までの7年間は幸せじゃったはずじゃから、多分それじゃろうな。
 ケーキを分けてくれた2人の兄。世話係でもないのにいつも遊び相手になってくれるサティア。それを許す当主である祖父と、家宰、メイド長。いつも朗らかな祖母と父母。
 この家には優しい人間が揃っておる。儂が黙っていなくなれば、皆、心配して探すじゃろう。

 なでなで。

 かと言うて、前世が蘇ったことを打ち明けて説得するのも、無理。前世というものに関しては、魔族と人間とで感覚が違うはずじゃ。
 魂は転生する、が、人間の世に広まっておる教えでは転生しないことになっておる。魂は何もないところから生まれ、肉体の死後、再びこの世に戻ることはない、と。
 故に、人間の教えでは、前世というものの存在自体が否定される。
 魔族の教えでは逆じゃ。この世に生まれる者は皆、前世という過去を持って生まれて来る。故に、前世の記憶が蘇ったとしても、忘れていた過去を思い出しただけのものとして捉える。前世という他人に人格を乗っ取られたとは考えぬ。

 なでなで。

 ……儂は便宜的に過去7年分の儂のことを「シンディ」と呼び分けておるが、シンディと儂は同一人物なのじゃ。儂の魂は前世の前世のそのまたずっと前から存在し続けておるもので、それが今はシンディの姿かたちでこの世に現れておるだけのこと。そして来世があるならば、その時はまた別の姿かたちを持って現れることになる。
 じゃが、この感覚は、転生の概念そのものを受け入れておらねば成り立たぬ。そしてこの感覚の違いは自分という存在の認識までも変え、あらゆる倫理観に影響する。
 この違いは魔族と人間の対立を深めた要因でもある。話して諭せることではない。

 なでなで。

 少し思考が逸れた。ともあれ、家の者に前世の話を聞かせるのは無理。
 今しばらくは、このままこの家で暮らすほかない。前世の記憶がない少女の振りをしながら、前世の記憶を忘れぬように。
 忘れぬように。
 そう、これが一番の問題じゃ。簡単なことのようで難しい。
 一体どのようにすれば……

 なでなで。
 ……ん? そういえば。

「ネイシャよ、お主、転生して記憶が戻った後、前世のことを忘れてしまいそうになることはなかったのか?」

 ネイシャもネイシャで、同じ課題に直面したはずじゃ。シンディと事情が違うにしても、前世の知識を隠しておらねば今のような立場にはおられぬじゃろうから。
 なら、この課題、どう乗り越えたのか。

「ん~、私の場合は人目を盗んで武術の修行をしてましたから、それで忘れなかったのでしょうか?」

 何の話か分からぬ様子じゃったので懇切丁寧に事情を説明すると、実に此奴らしい答えが返ってきた。
 じゃが、修行か。なるほど……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

最弱Sランク冒険者は引退したい~仲間が強すぎるせいでなぜか僕が陰の実力者だと勘違いされているんだが?

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
冒険者のノエルはSランクパーティーの荷物もちだった。 ノエル自体に戦闘能力はなく、自分のことを足手まといだとすら思っていた。 そして、Sランクになったことで、戦うモンスターはより強力になっていった。 荷物持ちであるノエルは戦闘に参加しないものの、戦場は危険でいっぱいだ。 このままじゃいずれ自分はモンスターに殺されてしまうと考えたノエルは、パーティーから引退したいと思うようになる。 ノエルはパーティーメンバーに引退を切り出すが、パーティーメンバーはみな、ノエルのことが大好きだった。それどころか、ノエルの実力を過大評価していた。 ノエルがいないとパーティーは崩壊してしまうと言われ、ノエルは引退するにできない状況に……。 ノエルは引退するために自分の評判を落とそうとするのだが、周りは勘違いして、ノエルが最強だという噂が広まってしまう。 さらにノエルの評判はうなぎのぼりで、ますます引退できなくなるノエルなのだった。 他サイトにも掲載

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...