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2.落ちる俺
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あぁ、くそ! 今更故郷になんか帰れるかよ! 散々反対されて、ようやく出てきたのに。どの面下げて帰れってんだよ!
仲間と登ってきた山道を、今は一人で駆け下りている。村を出てから初めて一人っきりになって、これからどうしたらいいかわからない。他のパーティーに加えてもらおうにも、特技なしの村人じゃ厳しいだろうな……。
情けなさと悔しさで泣けてきた。今はとにかくアルたんたちから離れたくて、必死に走った。坂道だから、スピードはどんどん出る。
涙で視界が霞んだ。走りながら涙を拭うけど、涙はあとからあとから溢れてくる。涙が止められないことが余計に情けなくて、さらに涙が出た。鼻水も。
そんな有様だったので、俺は坂道がカーブに差し掛かっていることに気付くのが遅れてしまっていた。
あっ……これやばくね? 普通ならなにも問題のない距離だけど、なにせずっと坂を駆け下りてきたので限界を超えた速度に達している。止まろうとしても急には止まれない。
「うおぉぉぉぉーっ!」
雄叫びを上げてギリギリで踏み止まろうとするがバランスを崩してしまい、俺は急な斜面に転がり落ちた。本能的に頭を護ろうとしたが、どれだけ護れたかはわからない。
神様! 特に信仰はなかったけれど、胸中で叫んでいた。だって、今俺を救えるのは他に誰もいないじゃないか。
どのくらい転がっただろうか、祈りの効果があったのか岩などに叩きつけられることもなく、俺の体は回転を止めていた。
地面に手を突き、足を突き、ゆっくりと起き上がる。体中あちこちに痛みはあったが、取り合えず骨が折れたりはしていないようだ。
「いてててっ」
落ちたのが吹き溜まりのような場所で、積み重なった落ち葉がいくらか衝撃を和らげてくれたのかもしれない。
「ほんとついてねえな、今日は」
見上げると、斜面が急すぎて落ちた場所には簡単に戻れそうにはない。もっと登りやすい場所を探したほうがよさそうだな。また滑り落ちでもしたら堪らない。
「ん?」
落ち葉の中になにかが隠れている。
落ち葉をどかしてみると、それは石でできた小さな祠だった。なんでこんな所に?
しゃがんで間近で眺めると、正面に扉のような物が付いているのがわかった。当然、手を伸ばして開ける。
「うわぁぁぁっ!」
祠から黄色の煙が噴き出した。覗き込んでいたので、もろに吸い込んでしまう。
「ごほっ! ごほっ!」
なんなんだよ一体! どうやら危険なガスなどではないよう──でもないみたいだ。なんだか胸が苦しい。激しく締め付けられるようだ。
俺は、身に着けている革鎧を脱ぎ捨てた。持って歩こうかとも思ったけど、どうせもう役に立つこともない。質屋に持ち込んだところで、大した値も付かないしな。そういえば腰に下げていた剣も、転げ落ちた時にどこかへいってしまったみたいだ。こっちも、まぁあまり価値はない。
鎧を脱いだおかげでだいぶ楽になった気がする。まだ少し苦しいが。
斜面に沿ってしばらく歩くと、どうにか登れそうな場所を見つけた。ふぅ、なんとか道に戻れそうだな。このまま遭難なんてことになったら、いい笑いものだったよ。いや誰にも知られないだろうから、笑い話にすらならないか。
息苦しさもあったので一歩一歩、慎重に登る。あと少し。これを登り切れば、俺の不運も終わる気がする。落ちるところまで落ちたら、あとは上がるだけって言うしね。
「よっと──」
けれど、不運は依然として続いていたことを俺は思い知らされた。
山道には、ぼさぼさ頭に髭面で手に斧や鉈を持った山賊然とした男たちが5、6人たむろしていたからだ。
仲間と登ってきた山道を、今は一人で駆け下りている。村を出てから初めて一人っきりになって、これからどうしたらいいかわからない。他のパーティーに加えてもらおうにも、特技なしの村人じゃ厳しいだろうな……。
情けなさと悔しさで泣けてきた。今はとにかくアルたんたちから離れたくて、必死に走った。坂道だから、スピードはどんどん出る。
涙で視界が霞んだ。走りながら涙を拭うけど、涙はあとからあとから溢れてくる。涙が止められないことが余計に情けなくて、さらに涙が出た。鼻水も。
そんな有様だったので、俺は坂道がカーブに差し掛かっていることに気付くのが遅れてしまっていた。
あっ……これやばくね? 普通ならなにも問題のない距離だけど、なにせずっと坂を駆け下りてきたので限界を超えた速度に達している。止まろうとしても急には止まれない。
「うおぉぉぉぉーっ!」
雄叫びを上げてギリギリで踏み止まろうとするがバランスを崩してしまい、俺は急な斜面に転がり落ちた。本能的に頭を護ろうとしたが、どれだけ護れたかはわからない。
神様! 特に信仰はなかったけれど、胸中で叫んでいた。だって、今俺を救えるのは他に誰もいないじゃないか。
どのくらい転がっただろうか、祈りの効果があったのか岩などに叩きつけられることもなく、俺の体は回転を止めていた。
地面に手を突き、足を突き、ゆっくりと起き上がる。体中あちこちに痛みはあったが、取り合えず骨が折れたりはしていないようだ。
「いてててっ」
落ちたのが吹き溜まりのような場所で、積み重なった落ち葉がいくらか衝撃を和らげてくれたのかもしれない。
「ほんとついてねえな、今日は」
見上げると、斜面が急すぎて落ちた場所には簡単に戻れそうにはない。もっと登りやすい場所を探したほうがよさそうだな。また滑り落ちでもしたら堪らない。
「ん?」
落ち葉の中になにかが隠れている。
落ち葉をどかしてみると、それは石でできた小さな祠だった。なんでこんな所に?
しゃがんで間近で眺めると、正面に扉のような物が付いているのがわかった。当然、手を伸ばして開ける。
「うわぁぁぁっ!」
祠から黄色の煙が噴き出した。覗き込んでいたので、もろに吸い込んでしまう。
「ごほっ! ごほっ!」
なんなんだよ一体! どうやら危険なガスなどではないよう──でもないみたいだ。なんだか胸が苦しい。激しく締め付けられるようだ。
俺は、身に着けている革鎧を脱ぎ捨てた。持って歩こうかとも思ったけど、どうせもう役に立つこともない。質屋に持ち込んだところで、大した値も付かないしな。そういえば腰に下げていた剣も、転げ落ちた時にどこかへいってしまったみたいだ。こっちも、まぁあまり価値はない。
鎧を脱いだおかげでだいぶ楽になった気がする。まだ少し苦しいが。
斜面に沿ってしばらく歩くと、どうにか登れそうな場所を見つけた。ふぅ、なんとか道に戻れそうだな。このまま遭難なんてことになったら、いい笑いものだったよ。いや誰にも知られないだろうから、笑い話にすらならないか。
息苦しさもあったので一歩一歩、慎重に登る。あと少し。これを登り切れば、俺の不運も終わる気がする。落ちるところまで落ちたら、あとは上がるだけって言うしね。
「よっと──」
けれど、不運は依然として続いていたことを俺は思い知らされた。
山道には、ぼさぼさ頭に髭面で手に斧や鉈を持った山賊然とした男たちが5、6人たむろしていたからだ。
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