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くるくる。

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私は昔から、何かとよく眠る体質だった。

よく眠る体質。と聞くと熟睡できる体質などを浮かべる人も多いと思うが、私のは度が過ぎていた。

母いわく、保育園で昼寝をさせ、起こす時間にいくらゆすろうが目も開けずに寝こけていたらしい。

感情が高ぶると眠ってしまう。そう医者に言われた。

だから、部屋にこもっていた。
気分が沈めば沈むほど、何十時間も眠ることは無かったから。

ある春の日、双子の姉に無理やり外に連れ出された。
姉はその時目に疾患を抱えており、常に誰かが付き添っておかなければならない。
姉は、それをいいことに私を付き添いとして外に出た。

向かった先はちょっとした山奥にある海で、姉はおぼつかない足取りで波際に立つ。
私もそれを真似して波際に立つと、風が起こり、桜の花びらが舞う。

姉は楽しそうに、波際で、くるくると、くるくると、舞うように回っていた。

桜の花びらと共に、くるくると、まるで花のように、回る。

くるくる。くるくる。

姉につられて私も回る。

なんだか、心に溜めていた暗い気持ちが、波と一緒に流されていくような気持ちになる。

「たのしいね」

姉が笑いながら私の方を見て言う。

姉は、知っていたのだろう。

私が眠っていたのは、感情の高ぶりのせいなんかじゃないことを。

原因が、恐怖心やトラウマにあったということを。

保育園で恐怖だなんて不思議?
原因としては、保育園に通っていた頃は先生に叩かれていたのだ。
そりゃあトラウマにもなる。

それでも、姉に否定されなかったことやこうしてここに連れてこられたことで、何故だか私の心は落ち着いた。

もう、大丈夫なのだ。

ぶわり。

強い風が、花びらの雨を降らす。

くるくる。

2人で笑いながら回る。

ざぁざぁ。

誰もいない海辺に、波の音がする。

ぽつぽつ。

自分の涙が、ワンピースを濡らす。

しばらく、泣いて、笑った。
その後、帰路に着く。

けらけら。けらけら。

帰り道には、私達の笑い声が響いていた。
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