神がかり!

ひろすけほー

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傷痕 後編

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第37話「傷痕」後編

 「お、おま……なんだっ!?それは……」

 永伏ながふしが攻撃することも忘れ、怪訝そうに俺の上半身を凝視している。

 「……」

 波紫野はしの けんも珍しく言葉無くそこに注目し――

 「うっ」

 そして、思わず眉をひそめる波紫野はしの 嬰美えいみ

 一斉に集まる奇異な視線の数々。


 「……」

 ワイシャツの前ボタンが全て弾け飛び、俺は胸板から腹筋までを晒け出す形で素肌を全開にしていた。

 ――

 多くの者が不意打ちで眉を顰める……

 「……」

 ――不愉快な代物

 そこには傷だらけな俺の身体からだがあった。

 「……は……はは」

 ”無惨”という言葉が全てを表現した有様の俺の身体からだ

 古い傷が殆どだが――

 えぐられたような、焼かれたような、

 そして引き裂かれたような、

 とても直視出来ない凄惨な傷を無数に刻ませた俺の身体からだに……

 「……ちっ」

 「……さくちゃん」

 「さく……たろう」

 ショックを隠しきれない表情の面々が思わず立ち尽くしていた。

 「ははは……」

 折山 朔太郎オレはというと、

 ――案外、晒してみれば大したことはないな……


 心中で本気とも強がりとも言える独り言を呟きながら、

 同時に視線だけで”あるもの”を探していた。

 ――ああ、そうか

 そして俺は”それ”が普段からある場所を思い出す。


 「ペンだ、嬰美えいみ。それのポケットにペンが入っている」

 「え?」

 突然声を掛けられ戸惑う大和撫子。

 「あ、あの……」

 若干放心状態気味であった嬰美えいみが我に返り視線を上へと、俺の顔を見る。

 「上着の右ポケットに入ってる、それを……」

 先ほど放った自身の言葉をもって完全にくだらない過去の感傷を捨て去った俺は、彼女に自身の行為の意味には言及せず身勝手に指示を出す。

 「あ……は、はい」

 俺が雑に脱ぎ捨てた学生服を拾って綺麗に畳んで持っていてくれた現在いまは敵方の少女、

 慌てて手に持った学生服の右ポケットを探る嬰美えいみは……

 「あ、あった!?あったけど、ペン?……これでいい?」

 それを発見した少女はポケットから黒い油性マーカーを取り出して掲げた。

 「ああ」

 俺は頷き、それを投げて寄越すように促す。

 「テメェ?いったい何を?」

 「……」

 呆れる永伏ながふし達を尻目に、俺は受け取った油性マーカーで自身の左胸辺りに大きな円を描いていた。

 「おま……だからなにを!?」

 さらにもう一つ、二つ……

 「だいたい、こんなもんか?」

 そして俺は、貫かれて傷ついた左肩をぐるぐる回して状態を確認し、大きく両手を開いて挑発するレスラーの如く大仰おおぎょうに構えた。

 ――

 「そ、それは流石に……あり得ないよ、さくちゃん」

 俺の意図に気づいたのだろう、いつもどこか余裕がある波紫野はしの けんでさえ奇抜な行動に面食らった台詞を口にする。

 「てめえ……それは度胸を通り越してただの馬鹿だろうが」

 続いて気づいた永伏ながふしも怒りを通り越して呆れた顔で立ち尽くす。

 ――それは……どうかな?六神道しろうとさん達

 「来いよっ狙撃手スナイパー!千射万箭、いや!一射入魂っ!正、せい、せいっ!」

 俺の左胸の辺り……

 心臓にあたる部分に大きな丸、そしてその中に丸、丸……

 つまり、俺の身体には大きな”まと”が出来上がっていたのだ。


 「め、滅茶苦茶あおってるなぁ、さくちゃん」

 「さ、朔太郎さくたろう……」                                                  

 最早、苦笑いさえ引き波紫野はしの けん

 心配しんぱいでそうな嬰美えいみ

 呆れたままの永伏ながふし

 三者三様のギャラリーをよそに俺は狩人を挑発し続けた。

 「来ないのか?なら……」

 ザッ!

 俺は動いた!

 これまで散々撃たれてきた事などまるで記憶から抹消されたかの様に戦闘を再開する!

 「ちぃぃっ!ホントなんなんだ、てめえはっ!」

 呆れていた永伏ながふしも直ぐに迎え撃って来る。

 「……」

 有無を言わさぬ俺の行動に即座に対処する実戦馴れしたところは流石と言えるが……

 「オラよっ!」

 右太ももの負傷で動きの鈍った俺の出足を自身の出足で阻止するように前蹴りを放つガラの悪い男。

 ガツッ!

 「おおっ!?」

 それを体を捻って右肩を入れブロックし、衝撃の勢いでバランスを欠いた相手をそのまま押し潰しにかかる俺!

 俺は右太ももと左肩を、永伏ヤツは右肘を負傷しているがそれは全く関係ない!

 動きに関係ないのでは無い!

 野蛮を極めたバカ達にとって、闘う上でそれは”精神的ハンデ”にも”肉体的弱み”にもならないと言う事だ。

 「てめ、このっ!」

 「……」

 唯単ただたんにいつもより……

 片足、片腕の動きが悪いだけ、右肘が木偶なだけ……

 お互いそれだけだ!

 「野郎っ!!」

 「……」

 そう、これは試合じゃ無い。戦闘だ、殺し合いだからだ!

 「死にくされ!ガキがっ!」

 永伏ながふしが囮の前蹴りを放ち、崩れるような体勢のままで横に避けた俺のあごに左拳を撃ち抜く――

 ガコォォッ!

 「がっ……はっ……」

 しかし俺は、顔面を明後日の方向に仰け反らしたままで相手の左腕を掴んでいた。

 ――鉄拳をあえて受けたのは勿論……永伏ながふしの”巻風てんそん”封じだ!

 「け、化物けものめっ……ちっ!凛子りんこぉっ!!」

 ――

 しかし……


 「て、おい!?凛子りんこぉっ!!」

 今回は永伏ながふしの望むような援護は来なかった。

 ガキッ!

 俺の関節技で永伏ながふしの左肘関節が軋む。

 「ぐっ!くそだらぁーー!」

 膝蹴りで俺を牽制し、僅かに出来た隙間から無理矢理それを引き抜く永伏ながふし

 ――メキキッ!

 「ぐぞっ!」

 右肘を破戒された経験から今度は強引に、多少傷ついてでも左腕を引き抜いた永伏ながふしは、そこを押さえながら後ろに半歩下がった。

 「っ!」

 しかし――

 そんな機会チャンスを俺が逃すわけが無い!

 俺はその間に更に距離を詰める!!

 「てめぇ!凛子りんこぉ!なにサボってやがる!」

 シュオン!

 「!」

 永伏ながふしの首をめに跳び掛かった俺……

 今、まさに重なり合おうとした二人のシルエットの間に例の”光の矢”が割り込んで飛来する!

 ザシュ!

 激突音を発しながら土塊をばらまき、地面をえぐって突き刺さる光の矢。

 咄嗟に後ろに飛び退いて、それをかわす俺。

 シュオン

 光の飛翔物は息つく暇無く続いて迫るっ!

 「……」

 しかし、今度のそれは……

 初めて大きくまとを外して俺の後方に飛び去った。

 「なっ!?なんだと!」

 左肘を押さえながら、信じられないとばかりに叫ぶ永伏ながふし

 「…………だろうなぁ」

 だが俺は、その結果が然も当然と口端をあげる。

 俺は、連続して撃たれた二射めは避ける動作さえせずにその場に佇み、

 猛打者のフルスウィング直後にファールを確信したベテラン三塁手の如くに、それを余裕で見送ったのだった。

第37話「傷痕」後編END
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