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なんて羨ましいんだ 前編
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第45話「なんて羨ましいんだ」前編
「くだらない?この僕が?はは、あり得ない」
御端 來斗は俺に指を砕かれた痛みから額に脂汗を浮かべながらも、あらぬ方向を向いていた右手の中指と薬指をポキポキと元の位置に戻す。
続いて――
左手をポケットに突っ込み、そこから鈍く輝く奇妙な”珠”を取り出した。
「……」
ピンポン玉ぐらいの大きさの物が三つ、ピラミッド形に集約された置物?
それは恐らく蜂蜜色の髪の……
御端家の”天孫”とかいう”神器”だろう。
「御端の”天孫”は六神道の家々の、その源たる”神通力”を一手に引き受けて保管し、それを事あるごとに各家の”神器”に注入してきた」
御端 來斗は相も変わらぬ歪んだ顔のまま、頼んでもいないのに自分から色々と説明し始める。
「……」
――瑪瑙?翡翠?水晶?
いや、そのどれでも無い未知の物質だ。
俺は男の説明を聞き流して奴の手にある遺物に注目していた。
「……つまり、神々と六神道各家との中継的役割を行うのがこの神器の能力だ」
――そして
「……」
守居 蛍の大きくて垂れ気味の瞳は唯々、空虚な色でそれを見ている。
唯、空っぽの光を反射する瞳。
「……」
そして俺には、これから優男の口から出るだろう嫌な真相が容易に想像できていた。
「因みに”神器”は勝手に持ち出した物だけどなぁ、はははっ!」
なにが可笑しいのか……
ニヤけ顔で、全く以て悪気の欠片も無く嗤う蜂蜜金髪の優男。
「当然、僕とこの女は仲間という訳じゃ無い。僕は犯罪者の娘で行き場の無かったこの女を名門である”天都原学園”へ入学させるという破格の便宜を図ってやっただけだ。そうだな、慈善事業といえるかもなぁ?」
完全に他者を見下した瞳。
御橋 來斗の碧眼はそういったものに塗り潰された歪んだ瞳だ。
「よく言うな、慈善事業?ならそれは無償かよ?」
思わず放った俺の指摘に、御橋 來斗は待ってましたとばかりに意地悪く破顔する。
「ははっ!さっきも言っただろ!世の中は全て等価交換だってな!その女には僕の計画を実行するためにそいつが所持する特異な”能力”を提供してもらった……まぁ、その女はその女で何か他に目的があるようだったが、それがどんなくだらない事かは僕には関係ないし、興味も無い下賤な些末ごとだ」
ここぞとばかり、雄弁に語る御橋 來斗はそのままチラリと無言を貫く蛍に視線を向ける。
「この”馬鹿女”に学園という居場所を恵んでやる代わりに定期的に”神器”に神通力を注入させていた。僕とこの愚かな女はそれだけの関係だ」
なにが誇らしいのか、同列に扱うなと言わんばかりの高慢な表情。
「それだけ……か?」
俺はただ、自慢げな御橋 來斗の言葉をオウム返しに繰り返す。
「そう、それだけ、それだけでこの神器と守居 蛍の繋がりが出来る……その女に日常的にある程度の神通力を蓄積させ、さらに一度繋がったパスは、その女が”どこか”でその神通力を行使すれば更に反転した負の神通力、”瘴気”となってより効率よく貯まってゆく……」
御橋 來斗はベラベラと説明してからそこで一旦、言葉を切る。
「で……ははは、世の理は全て”等価交換”だろ?」
そして、とびきり邪悪な笑みを浮かべる。
「理通りなら抑も他人を助けることが出来る治癒の奇跡はそれと同じだけの”禍”の力を発生させる!通常なら徐々に世界に拡散してゆく事により、ひとつの凶兆は軽い事故や軽微な不幸って感じの事象に昇華されるのだろうが、それを一所に集約させてゆけば……解るだろう?」
「……」
なるほど理解した。
この男の性根が俺の想像以上に捻じ曲がってるということを。
「み、御橋 來斗っ!あなた!この地を護る”六神道”の一員でありながら恥ずかしくないのっ!!」
巨人と渡り合っている最中の波紫野 嬰美が遠くから割り込んで怒鳴る!
抜き身の刀で巨人に応戦しながらも、同輩の男の所業に我慢ならなかったのだろう。
「波紫野……嬰美?ははっ!お前の、お前や無知無能な女生徒共の”痴態”から搾り取らせて貰った取るに足らない神通力も、その”巨人”製造に多少は役にたったぞぉぉっ!」
その少女の正義感を逆なでするかの如く意地悪い表情で叫び返す御橋 來斗。
「っ!!」
そして――
”あの時のこと”を思い出さされた嬰美は、思わず羞恥に視線を逸らしてしまう。
「ガガァァッ!」
ドカァァァ!!
「きゃっ!」
そして、あからさまに隙の出来た彼女を巨人の鉄拳が襲っていた。
「はははっ!ばぁかっ!馬鹿女!」
それを見届け、ゲラゲラと下品に笑い転げる優男。
――ち、胸クソ悪い男だ
「え、嬰美ちゃん!集中っ!」
「くっ!」
波紫野 剣のかけ声を受け、嬰美は口惜しげに御橋 來斗をひと睨みすした後で目前の巨人に改めて刀を構える。
「六神道には理解らないだろう……理不尽に虐げられ続けた者の恨みなんてなぁ」
一転、巨人と交戦する黒髪少女達を完全に見下した冷たい瞳で眺める碧眼の優男。
「……」
――ああ、だめだ
そう、俺にはこっちの方が駄目だ。
人道を外れた悪事よりも、他者を貶める下卑た嘲笑よりも、
この……
「虐げられた?現にお前は御橋家とかいうご大層な家の後継者だろうが?」
被害妄想に染まりまくった思考が――最高にむかつく!
「…………は?」
俺が抑えられず零した言葉に、蜂蜜金髪で碧眼の優男の瞳が大きく見開いた。
「おいおい……そりゃないだろ?聞いてくれよ、折山 朔太郎ぉぉ!六神道ってのはとんでもない時代錯誤の石頭集団でなぁ!異国人の血を継いでいる僕なんかはずっと酷い扱いで恰好の差別対象なんだよぉぉっ!!」
そんな俺に対象を変えたのか?御橋 來斗は嬉々として今度は俺を煽り始める。
「ちがうわ、誰もそんなっ!」
戦いながらも未だ耳を傾けていた嬰美が反論しようと向こうで叫ぶが……
「黙れっ!!くだらない正義感だけの馬鹿女っ!!お前には言っていない!!」
「グゥガァァァーー!!」
「きゃっ!」
御橋 來斗の怒鳴り声に呼応するように巨人の攻撃が嬰美に集中する。
「ふん……とんだ邪魔が入ったけど、聞いてくれよ折山。どんなに優れていても……つまり、頭が良くても、技を極めても誰も認めてくれない。僕がどんなに選ばれた優れた人間でも、異国人との混血だって事だけで……僕からそれまでの生活を奪っておきながら、無理矢理跡取りに据えて置いておきながら……結局は”天孫”も引き継がせてもらえない……」
――此奴は何を語っている?
――俺に”それ”を訴えて何をしたいんだ?
碧眼で俺を見据えながら訴える優男は……
俺は……
折山 朔太郎は……
「だから……似た境遇の蛍を巻き込んだのか?」
――似た境遇……俺も多分そうだ
何が似ている?どこが?
俺の質問は自問ともいえた。
それは……
それは……ただ理不尽に不幸だと言うこと。
「巻き込む?不幸とはそういうものだろ?」
「……」
不運は誰にでも降りかかり、多少の違いはあれ、誰でも不幸と隣り合わせだ。
誰でも……多少の……
時にはそれは理不尽に偏ることを俺は……”俺達”は知っている。
「それが……お前の……抗う術か」
神様とやらが怠惰で見落としたらしい、どこにでもよくあるハズレの人生。
「だーかーらぁっ!!僕とその女は別々だって!お互いたまたま利害が一致する部分があっただけで、この女が僕の計画の真意を知らずに協力していたとしても?そんなこと知るかっ!!こいつが勝手に選んだ人生なんだよっ!!」
「……」
――なんか……イライラするな
俺は目前で手前勝手な理屈で喚き続ける御橋 來斗と、
それでも黙ったままの蛍を順に見ながら、
心中はそんな思いに煽られてゆく。
――なぜだ?
六神道もこの男も……
何処で何ををしようとも俺には関係ないはずだ。
――蛍が巻き込まれているから?
いや、それもなんか違う気がする。
――つまり
「本当のところ蛍に岩家を籠絡させ、近づいた生徒達に影で何らかの危害を加えさせていたのも……実はお前の指示じゃないのか?」
俺はそうでは無いと、疾うの昔に予測できていたが……
敢えてその質問を今ぶつけて自分の中に在る苛立ちの正体を確認する。
「はぁぁぁっ!とんだ濡れ衣だ」
すると蜂蜜金髪は大げさに呆れた溜息を吐いた。
「そんなことをして僕に何のメリットがあるんだ?本当に……折山、お前は愚かな事にその女を信じたいんだろうが、そいつはそいつなりに勝手に動いていたんだろうよ」
蛍に視線を移す御橋 來斗。
雑に蜂蜜金髪を掻き上げてあからさまな侮蔑を浮かべた碧眼を追って俺も蛍を見た。
「……」
そこにはやはり……
御橋 來斗の一方的な言葉を否定しない守居 蛍という少女がいる。
「入学以来、その女の取った行動がたまたま僕の目的にも一致した、それだけのことだ」
――ああ……
案の定だ。
案の定、御橋 來斗は自分のこと以外見ようとしない馬鹿。
だから”全て他人が悪い”ってか?
――”箱”を開けようとしない馬鹿
抑もの問題を否定し、自身の置かれた環境を認めず都合良く改ざんする。
自分では無く他者を、周りを否定して作り替えようとする馬鹿。
――それは本来
自分の人生を否定する愚かな行為ではないのか?
「……」
――そうか
苛立ちの正体はこれか。
俺は目前のクズを散々に観察して答えに至っていた。
――”近親憎悪”
「なんだ?野良犬、気色悪い目で僕を見やがって」
状況をスッカリ忘れて思わず凝視してしまっていた俺は本当に可笑しかった。
――そりゃイラつく訳だ、ははっ
「?」
そして俺は安易に”理不尽な不幸”から逃げた御同類に心から笑って言ったのだった。
「御橋 來斗……似てるな、やっぱり俺とお前は。どうしようもなくクズなところがそっくりだ」
第45話「なんて羨ましいんだ」前編 END
「くだらない?この僕が?はは、あり得ない」
御端 來斗は俺に指を砕かれた痛みから額に脂汗を浮かべながらも、あらぬ方向を向いていた右手の中指と薬指をポキポキと元の位置に戻す。
続いて――
左手をポケットに突っ込み、そこから鈍く輝く奇妙な”珠”を取り出した。
「……」
ピンポン玉ぐらいの大きさの物が三つ、ピラミッド形に集約された置物?
それは恐らく蜂蜜色の髪の……
御端家の”天孫”とかいう”神器”だろう。
「御端の”天孫”は六神道の家々の、その源たる”神通力”を一手に引き受けて保管し、それを事あるごとに各家の”神器”に注入してきた」
御端 來斗は相も変わらぬ歪んだ顔のまま、頼んでもいないのに自分から色々と説明し始める。
「……」
――瑪瑙?翡翠?水晶?
いや、そのどれでも無い未知の物質だ。
俺は男の説明を聞き流して奴の手にある遺物に注目していた。
「……つまり、神々と六神道各家との中継的役割を行うのがこの神器の能力だ」
――そして
「……」
守居 蛍の大きくて垂れ気味の瞳は唯々、空虚な色でそれを見ている。
唯、空っぽの光を反射する瞳。
「……」
そして俺には、これから優男の口から出るだろう嫌な真相が容易に想像できていた。
「因みに”神器”は勝手に持ち出した物だけどなぁ、はははっ!」
なにが可笑しいのか……
ニヤけ顔で、全く以て悪気の欠片も無く嗤う蜂蜜金髪の優男。
「当然、僕とこの女は仲間という訳じゃ無い。僕は犯罪者の娘で行き場の無かったこの女を名門である”天都原学園”へ入学させるという破格の便宜を図ってやっただけだ。そうだな、慈善事業といえるかもなぁ?」
完全に他者を見下した瞳。
御橋 來斗の碧眼はそういったものに塗り潰された歪んだ瞳だ。
「よく言うな、慈善事業?ならそれは無償かよ?」
思わず放った俺の指摘に、御橋 來斗は待ってましたとばかりに意地悪く破顔する。
「ははっ!さっきも言っただろ!世の中は全て等価交換だってな!その女には僕の計画を実行するためにそいつが所持する特異な”能力”を提供してもらった……まぁ、その女はその女で何か他に目的があるようだったが、それがどんなくだらない事かは僕には関係ないし、興味も無い下賤な些末ごとだ」
ここぞとばかり、雄弁に語る御橋 來斗はそのままチラリと無言を貫く蛍に視線を向ける。
「この”馬鹿女”に学園という居場所を恵んでやる代わりに定期的に”神器”に神通力を注入させていた。僕とこの愚かな女はそれだけの関係だ」
なにが誇らしいのか、同列に扱うなと言わんばかりの高慢な表情。
「それだけ……か?」
俺はただ、自慢げな御橋 來斗の言葉をオウム返しに繰り返す。
「そう、それだけ、それだけでこの神器と守居 蛍の繋がりが出来る……その女に日常的にある程度の神通力を蓄積させ、さらに一度繋がったパスは、その女が”どこか”でその神通力を行使すれば更に反転した負の神通力、”瘴気”となってより効率よく貯まってゆく……」
御橋 來斗はベラベラと説明してからそこで一旦、言葉を切る。
「で……ははは、世の理は全て”等価交換”だろ?」
そして、とびきり邪悪な笑みを浮かべる。
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「……」
なるほど理解した。
この男の性根が俺の想像以上に捻じ曲がってるということを。
「み、御橋 來斗っ!あなた!この地を護る”六神道”の一員でありながら恥ずかしくないのっ!!」
巨人と渡り合っている最中の波紫野 嬰美が遠くから割り込んで怒鳴る!
抜き身の刀で巨人に応戦しながらも、同輩の男の所業に我慢ならなかったのだろう。
「波紫野……嬰美?ははっ!お前の、お前や無知無能な女生徒共の”痴態”から搾り取らせて貰った取るに足らない神通力も、その”巨人”製造に多少は役にたったぞぉぉっ!」
その少女の正義感を逆なでするかの如く意地悪い表情で叫び返す御橋 來斗。
「っ!!」
そして――
”あの時のこと”を思い出さされた嬰美は、思わず羞恥に視線を逸らしてしまう。
「ガガァァッ!」
ドカァァァ!!
「きゃっ!」
そして、あからさまに隙の出来た彼女を巨人の鉄拳が襲っていた。
「はははっ!ばぁかっ!馬鹿女!」
それを見届け、ゲラゲラと下品に笑い転げる優男。
――ち、胸クソ悪い男だ
「え、嬰美ちゃん!集中っ!」
「くっ!」
波紫野 剣のかけ声を受け、嬰美は口惜しげに御橋 來斗をひと睨みすした後で目前の巨人に改めて刀を構える。
「六神道には理解らないだろう……理不尽に虐げられ続けた者の恨みなんてなぁ」
一転、巨人と交戦する黒髪少女達を完全に見下した冷たい瞳で眺める碧眼の優男。
「……」
――ああ、だめだ
そう、俺にはこっちの方が駄目だ。
人道を外れた悪事よりも、他者を貶める下卑た嘲笑よりも、
この……
「虐げられた?現にお前は御橋家とかいうご大層な家の後継者だろうが?」
被害妄想に染まりまくった思考が――最高にむかつく!
「…………は?」
俺が抑えられず零した言葉に、蜂蜜金髪で碧眼の優男の瞳が大きく見開いた。
「おいおい……そりゃないだろ?聞いてくれよ、折山 朔太郎ぉぉ!六神道ってのはとんでもない時代錯誤の石頭集団でなぁ!異国人の血を継いでいる僕なんかはずっと酷い扱いで恰好の差別対象なんだよぉぉっ!!」
そんな俺に対象を変えたのか?御橋 來斗は嬉々として今度は俺を煽り始める。
「ちがうわ、誰もそんなっ!」
戦いながらも未だ耳を傾けていた嬰美が反論しようと向こうで叫ぶが……
「黙れっ!!くだらない正義感だけの馬鹿女っ!!お前には言っていない!!」
「グゥガァァァーー!!」
「きゃっ!」
御橋 來斗の怒鳴り声に呼応するように巨人の攻撃が嬰美に集中する。
「ふん……とんだ邪魔が入ったけど、聞いてくれよ折山。どんなに優れていても……つまり、頭が良くても、技を極めても誰も認めてくれない。僕がどんなに選ばれた優れた人間でも、異国人との混血だって事だけで……僕からそれまでの生活を奪っておきながら、無理矢理跡取りに据えて置いておきながら……結局は”天孫”も引き継がせてもらえない……」
――此奴は何を語っている?
――俺に”それ”を訴えて何をしたいんだ?
碧眼で俺を見据えながら訴える優男は……
俺は……
折山 朔太郎は……
「だから……似た境遇の蛍を巻き込んだのか?」
――似た境遇……俺も多分そうだ
何が似ている?どこが?
俺の質問は自問ともいえた。
それは……
それは……ただ理不尽に不幸だと言うこと。
「巻き込む?不幸とはそういうものだろ?」
「……」
不運は誰にでも降りかかり、多少の違いはあれ、誰でも不幸と隣り合わせだ。
誰でも……多少の……
時にはそれは理不尽に偏ることを俺は……”俺達”は知っている。
「それが……お前の……抗う術か」
神様とやらが怠惰で見落としたらしい、どこにでもよくあるハズレの人生。
「だーかーらぁっ!!僕とその女は別々だって!お互いたまたま利害が一致する部分があっただけで、この女が僕の計画の真意を知らずに協力していたとしても?そんなこと知るかっ!!こいつが勝手に選んだ人生なんだよっ!!」
「……」
――なんか……イライラするな
俺は目前で手前勝手な理屈で喚き続ける御橋 來斗と、
それでも黙ったままの蛍を順に見ながら、
心中はそんな思いに煽られてゆく。
――なぜだ?
六神道もこの男も……
何処で何ををしようとも俺には関係ないはずだ。
――蛍が巻き込まれているから?
いや、それもなんか違う気がする。
――つまり
「本当のところ蛍に岩家を籠絡させ、近づいた生徒達に影で何らかの危害を加えさせていたのも……実はお前の指示じゃないのか?」
俺はそうでは無いと、疾うの昔に予測できていたが……
敢えてその質問を今ぶつけて自分の中に在る苛立ちの正体を確認する。
「はぁぁぁっ!とんだ濡れ衣だ」
すると蜂蜜金髪は大げさに呆れた溜息を吐いた。
「そんなことをして僕に何のメリットがあるんだ?本当に……折山、お前は愚かな事にその女を信じたいんだろうが、そいつはそいつなりに勝手に動いていたんだろうよ」
蛍に視線を移す御橋 來斗。
雑に蜂蜜金髪を掻き上げてあからさまな侮蔑を浮かべた碧眼を追って俺も蛍を見た。
「……」
そこにはやはり……
御橋 來斗の一方的な言葉を否定しない守居 蛍という少女がいる。
「入学以来、その女の取った行動がたまたま僕の目的にも一致した、それだけのことだ」
――ああ……
案の定だ。
案の定、御橋 來斗は自分のこと以外見ようとしない馬鹿。
だから”全て他人が悪い”ってか?
――”箱”を開けようとしない馬鹿
抑もの問題を否定し、自身の置かれた環境を認めず都合良く改ざんする。
自分では無く他者を、周りを否定して作り替えようとする馬鹿。
――それは本来
自分の人生を否定する愚かな行為ではないのか?
「……」
――そうか
苛立ちの正体はこれか。
俺は目前のクズを散々に観察して答えに至っていた。
――”近親憎悪”
「なんだ?野良犬、気色悪い目で僕を見やがって」
状況をスッカリ忘れて思わず凝視してしまっていた俺は本当に可笑しかった。
――そりゃイラつく訳だ、ははっ
「?」
そして俺は安易に”理不尽な不幸”から逃げた御同類に心から笑って言ったのだった。
「御橋 來斗……似てるな、やっぱり俺とお前は。どうしようもなくクズなところがそっくりだ」
第45話「なんて羨ましいんだ」前編 END
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