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奈落の麗姫(うるわしひめ)編

第十話「千変万化」前編

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別作品「たてたてヨコヨコ。,」の羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼル

 イラスト作成:まんぼう719さん


 第十話「千変万化」前編

 「”とおの字”よ、お前の様なれがいまだ現役とは、新政・天都原あまつはらとやらもつくづく人材不足よなぁっ!」

 ガシィィン!と豪快に振り下ろされた槍が火花を散らして刀を叩く!

 「ぬかせ”老虎ろうこ”!お主の様な錆び付いた槍を用いざるを得ない臨海りんかいこそが人無しであろうがっ!」

 ギィィン!と負けじとその槍を刀がはじき返す!

 「ふん、れがっ!」

 「老虎ろうこめっ!」

 言葉ともので激しく火花を散らして睨み合う二人の猛将……

 臨海りんかい軍将軍統括”比堅ひかた 廉高やすたか”と新政・天都原あまつはら軍将軍”岩倉いわくら 遠海とうみ”である。

 ワァァッ!

 ワァァッ!

 敵味方が入り乱れる乱戦渦中――

 「ふんっ!この九郎江くろうえに空き巣狙いに来たコソ泥にしては良く回る口だな、岩倉いわくら 遠海とうみ

 ギィィーーン

 ギャリィィン!

 鉄の火花と鉄の臭いがびこる血戦場――

 「まんまと隙を突かれた間抜けな家主に代わって負け惜しみか?比堅ひかた 廉高やすたか

 正統・旺帝おうていに軍船を供出させて大平おおだいら海を移動し、そして九郎江くろうえ沖のばん岬から上陸した新政・天都原あまつはら軍は、で迎え撃った臨海りんかい九郎江くろうえ守備隊と激突していた。

 ガシィィン!

 ギギィィーーン!

 決戦の地――

 尾宇美おうみから遠く離れた臨海りんかい”九郎江くろうえ”にて、国亡を占うもう一つの決戦は既に佳境であった!

 「隙?若にそんなものなど有り得る訳が無かろうっ!」

 ブオォォン!

 ”臨海りんかいの大虎”の巨体から、再び大気を唸らせ豪槍が振り下ろされる!

 シュ――バッ!

 「そうか?現に鈴原すずはら殿は我が姫に骨抜きであろう?」

 それを巧みにくぐり、鋭い剣先をもって応じる元・天都原あまつはら十剣じゅっけん

 「っ!!」

 ドカッ!

 懐に入り込んだ相手を蹴りで押し返す!

 「ぬぅ!」

 それを受け、その蹴りを見事になして半歩退く!

 ――比堅ひかた 廉高やすたか岩倉いわくら 遠海とうみ

 かつて……

 盟主国であった天都原あまつはらと、それに賊する小国群のひとつであった臨海りんかい

 所属は違えど同じ陣営で肩を並べて戦った歴戦の強者同士は……

 天都原あまつはら十剣じゅっけん”と臨海りんかいの”大虎おおとら

 同時代に同様に畏怖されし旧知の猛将同士であった!

 ギャリィィン!

 ガキィィン!

 二人は別地にて雌雄を決する戦いに身を投じているだろうおのおのあるじに従い、激しくしのぎを削り合っていた。

 「変わらずさかしい小技をっ!」

 「変わらぬざつさよっ!」

 激しくぶつかり合う猛将二人の戟刃げきじんは、雑駁ざっぱな兵士達など到底近寄る事も出来ない!

 老いたりと言えど、この戦場で二人の勇猛に近づくことが出来る者さえ……

 ヒュ――――ォン

 「ぎゃっ」

 ――いな!?

 ヒュ――バッ!

 「ぎゃひっ!?」

 臨海りんかい兵士を不殺の剣にて華麗に切り伏せ、

 トン

 軽やかに着地。

 「こ、このっ!」

 ヒュ――

 「っ!?」

 一瞬出来た隙間を、そよ風が吹き去るように疾走はしり抜ける影は……

 ――――ストン!

 二人の老将がしのぎを削る独壇場に”ふわり”と舞い降りた!

 「岩倉いわくらのお爺さん、個人的な郷愁に酔ってる場合ではないと思うんだけど?」

 二つに揺れる眩しいプラチナブロンドの美しい乙女……

 光る細身の西洋剣を左手に、驚天動地の剣技で駆け抜けて来た――

 サラサラとプラチナブロンドに輝く長い髪を整った輪郭の白い顎下ぐらいの位置で左右にまとめてアレンジした、変形ツインテールが目映く輝くまれなる美少女。

 「う……む」

 孫のように歳の離れた美少女にたしなめられ、岩倉いわくら 遠海とうみは所在無さげに唸る。

 「ぬしが……十二支えと 十二歌たふか

 一方、先日の臨海りんかい軍緊急会議で散々に議題に上がった美少女剣士の予測通りな登場に……

 比堅ひかた 廉高やすたかは傷だらけの厳めしい顔面をさらに固めて睨み付け、問うていた!

 「ごめんなさい、比堅ひかた……廉高やすたかさんだった?これもお仕事だから」

 ふるつわものでさえも震えて萎縮する!そんな隻眼のひと睨みを、その可憐な身に受けても何事も無く軽く流して、片手にて細身の剣を構える美少女剣士は――

 「だから……すぐに終わらせるね」

 臨海りんかい屈指の猛将を前にあまりに大言壮語を口にする!

 しかしその姿には微塵の気負いも誇張も無く……

 自然体に、華麗で美しく、

 そして――

 ヒュ――――バッ!

 プラチナに輝く二筋が尾を引いて揺れたかと思うと、その美少女は細い光刃と一体となって地を蹴っていた!

 「っ!?」

 その瞬間!

 数多の死線を越え、生き抜いて来た廉高やすたかの隻眼に映ったのは――

 美しく煌めいて輝く死の残光だ!

 それはまるで――

 シュ――――バッ―――――

 闇夜を切り裂く月光の剣。

 ―――――――――――ガシィィン!!

 「っ!?」

 しかし!

 恐るべき剣技の美少女がっ!

 その、澄んだ湖面に揺れる翠玉石エメラルドの月の如き幻想的な双瞳ひとみが……

 自らの剣を軌道ごと撃ち落とし、剣撃を完璧に阻んだ相手に見開かれて停止とまっていた。

 「ひ、比堅ひかた様ぁ、こ、ここは……お、お任せ下さいぃ」

 圧倒的”死地”に強引に割り込み、歴戦の猛将でさえ反応に窮した光りの一刀を難なく撃ち落とした人物は、到底それと思えないほど”おどおど”とした、おっとりお団子髪型ヘアーの女だった。

 「花房はなふさ 清奈せなか、うむ……」

 比堅ひかた 廉高やすたかは、その人物を確認して納得顔でその場を譲る。

 「…………へぇ」

 プラチナツインテールの美少女剣士はその一連のやり取りを見て、目前の女がおのれの障害ると理解したのだった。


 「おおーーーーい!羽咲うさぎぃーーじゃなかった!?十二歌たふかぁ!!ドンドン勝手に先行くなよぉっ!聞いてんのかぁぁ!!」

 そこへ空気を全く読めない……

 戦場とは思えぬ間抜け声を上げながら兵士をかき分け駆け寄る男がひとり。

 「盾也じゅんやくん、四番……いいえ、番外ロストナンバーの”多重世界の剣パラレルソード”を用意して」

 間抜け男の場違いな呼びかけを受けたプラチナツインテールの美少女剣士は、特徴的な翠玉石エメラルドの瞳を正面に立ちはだかる花房はなふさ 清奈せなに向けたままで、駆け付けたばかりの男に要求する。

 「ろ、番外ロストナンバーってっ!?お前、それはちょっとやり過ぎ……」

 ”ぜぇぜぇ”と息も絶え絶えな、盾也じゅんやと呼ばれた男はその指示に呆れ顔で異議を唱える。

 「あのね、盾也じゅんやくん。”この世界”の”戦士ソルディア”ってほんと厄介なのよ?騎士シュヴァリエクラスどころか聖騎士パラティンクラスがゴロゴロいるし、この前の”おっきな男性ひと”なんか、余裕で要塞級フォルトレスクラスは確実。”聖剣”を抜きにしたら、殆ど英雄級ロワクラスに匹敵しそうな人間ひとも数人は確認してるんだから!」

 「ま……マジかよ!?怖いな”この世界”」

 プラチナツインテール美少女の言葉を聞き、盾也じゅんやという男はその間抜けに面にダラダラと冷や汗を流していた。

 ――

 ”戦士ソルディア”、騎士シュヴァリエクラス聖騎士パラティンクラス要塞級フォルトレスクラス、そして英雄級ロワクラス……と聞き慣れない言葉と、

 極み付けは”この世界”という……

 まるで””自分達は部外者ですよ”と言わんばかりのていで話す異端な二人。

 そんな二人にしか解らないだろう会話を聞いているのかいないのか?

 「……」

 その間にも花房はなふさ 清奈せなは手刀を構え、間合いを図っていたのだった。

 「いいわ、なら取りあえず四番をちょうだい」

 シャ――キン!

 そしてプラチナツインテールの美少女は……

 彼女らが言うところの”この世界”では十二支えと 十二歌たふかで通る美少女は……

 手にしていた細身の西洋剣を腰の鞘に華麗に仕舞い、そして空いた白い左手を駆けつけた男の方へと伸ばす。

 「お、おう!」

 男は取りあえず納得したのだろう、肩に担いでいたぶくろをガシャリと地面に降ろした後、その中から一振りの片手剣を抜き出して投げる。

 パシ!

 視線を向けもせずに抜き身の剣を受け取った美少女……十二歌たふかはそのまま――

 ヒュ――――

 輝くプラチナの二筋を引いて瞬く間に前方に沈んで消える!

 「……」

 そんな一挙動を切り取っても只者でない事が明らかな剣士相手にも、基本通り無手にて迎え撃つ花房はなふさ 清奈せな

 しかしその瞬間から彼女の、清奈せなの瞳からは完全に”おっとり”は消失していた!

 バシュッ!シュバ!

 閃く二筋の銀閃!

 ヒュッ――――ザシュッ!

 弧を描き、風を切断わかつ鋭利な切っ先!

 高速で放たれた十二歌たふかの連続剣は……

 戦国世界、どの剣士の、どの剣術とも違う異質の美技で――

 「さすが!いつ見ても流麗かつ極限まで無駄の無い動きだなぁ」

 それを間近で見てきただろう、ぶくろを担いで来た盾也じゅんやという男も、すっかりれ……

 「盾也じゅんやくん、次っ!十一番!!」

 「お?おうっ!」

 ……る暇も無く、ツインテール美少女剣士の指示通りにそれを投げて渡す。

 ――ぱしっ!

 右手で十一番の片手剣を受け取った美少女は、左手に握っていた四番と呼ばれる剣を手放し、そのまま振り返りざま……

 シャラン――――シュバッ!

 抜き放ったと同時に振り抜いた!

 先ほどより明らかに速度を増した剣先!

 ドシュッ!  バシュッ!

 「六番!」

 再び相棒パートナーに要求し、持ち替えて放たれる連撃は――

 ブオォン!

 今度は風切り音からも、厚めの一撃を秘めた剣!

 「三番!」

 ガシュ!、ズバァァ!

 更に更に持ち替えて、今度の剣は…………と、

 次から次へと相棒パートナーから渡される剣を受け取りながら、用を成さなくなった剣を放棄して新たな剣を振りかざす美少女剣士。

 その戦闘形式バトルスタイルまさに”千変万化の剣”!!


 ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――

 対して!

 花房はなふさ 清奈せな身体からだ前面にて風を切って幾度も円を描く両腕は――

 バシッ!バシッ!バシ!

 そのことごとくを撃ち落とすっ!

 バシッ!バシッ!バシ!

 「……そう……ね」

 ヒュンヒュン――

 一通りの攻防を経て、手にしていた三番の片手剣を数回、空に閃かせた後でそっと地面に置くツインテール美少女。

 ――

 「う、羽咲うさぎ?……じゃなくて、ああもうめんい!!た、十二歌たふか!」

 十二支えと 十二歌たふかのサポートをしている盾也じゅんやという男は、いちいち呼び名が”ややこしい事この上ない”という不満顔のまま、美少女剣士パートナーの不可解な行動に疑問をぶつけていた。

 「盾也じゅんやくん、この女性ひとちょっと厄介だから……少し本気を出すわ」

 対して、翠玉石エメラルドの瞳を油断なく清奈せなに向けたままで美少女の可憐な唇はそう動いていた。

 「…………え?」

 サァァ――

 太陽光を反射して輝くプラチナブロンドが二束、優雅に風に踊る。

 「え、ええと?…………な、ない!?無い無いっ!!正気か羽咲うさぎっ!お前が本気って!全然洒落になってないって!!」

 途端に慌てて今まで以上に取り乱す男、

 鉾木ほこのき 盾也じゅんやは既にもう相棒パートナーの呼び方に気をつける余裕もない。

 「だぁいじょうぶだよ。ところで盾也じゅんやくんの”魔剣”も”この世界”では充分に機能しないんだよね?」

 相棒パートナーの慌てぶりを無視スルーして、プラチナツインテールの美少女は屈託無く微笑んでいた。

 「うっ……まぁ……出力が六割も出たら良いとこだと思う……けど」

 そしてそれに”つい”素直に答えてしまうあたり、鉾木ほこのき 盾也じゅんやの駄目男ぶりは顕在であった。

 「だよねぇ?はい、”番外ロストナンバー”」

 そんな男の性格をよく知る美少女はニッコリと微笑んでから、空けた左手を彼の方へと伸ばして再び催促する。

 「だっ!だから、おま……」

 「盾也じゅんやくんの剣が六割なら……そうだね、使い手わたしは三割ほどでいくから」

 「う……うぅ」

 駄目押しとばかりにパチリとウインクした美少女剣士に、完全にたなごころの上の男は渋々ながら……

 ――ズ、ズズズ……ガシャ!

 いまだ完全には納得いかないという表情かおのままではあったが、ぶくろから渋々と一本の剣を引き出していた。

 「俺達の勝手とは違う世界だからなぁ?そこんとこ……」

 見た目からもなにやらドス黒く怪しい剣気を纏った西洋剣を取り出した盾也じゅんやは、半ば諦めてそれを投げ渡す。

 「そうだね、多分死んじゃったりはしないと思うよ?この女性ひと、強いから」

 「は?」

 タッ!

 言うが早く、輝くプラチナツインテールの……

 十二支えと 十二歌たふかを名乗る美少女剣士は、曰く付きの剣を手に駆け出していた!

 「お!おいぃぃっ!!それってどうなんだぁぁっ!?」

 タタッ――

 叫ぶ男の声を背に、十二支えと 十二歌たふかの華奢な身体からだは敵前で砂煙を残し垂直にはじけて――

 ――ヒュバッ!

 直後、花房はなふさ 清奈せなの頭上に舞う!!

 疾風で一息に迫り、眼前で縦に消えるが如きの変則な動き……

 「……」

 ”それ”を平然と視線で追える清奈せなと!

 「……だよねぇ」

 その”見切り”を予測していた十二歌たふかは!

 地上と空中、おのおのの居場所で一瞬にして互いに視線を交錯させる!

 「……」

 身体からだの前面を宙で下に向けた美少女剣士と、

 「……」

 頭上を見上げる、見た目は愛らしい武闘士。

 しかし、さなが巻き込み跳びベリーロールの体勢で宙に浮かぶ十二歌たふかはあまりにも無防備で――

 「ふっ!」

 それを達人を超越した清奈せなが見落とす道理も無い!!

 ブォッ!

 小柄な清奈せなからは想像もつかない風切り音を伴い、自らの頭上に両腕で三角形をかたどった強烈な掌底しょうていを打ち上げる!

 「殲滅フェアニッヒトゥング!!」

 ズバァァァーーー!

 ――――――否!!

 掌底それよりも速く!プラチナツインテール美少女剣士の必殺剣が!

 所謂いわゆる、”後の先”と表現されるものでもない、後から動いて実際に被弾させるのは先という……

 足場のしっかりした地上から先行して放たれた掌底しょうていよりも、頼りない空中で遅れて抜かれた剣がそれを凌駕するという、事象逆転の事実がそこにあった!!

 ザシュゥ!

 十二歌たふかが放った”剣豪も裸足で逃げ出す”ほど見事な居合い斬りが頭上から清奈せなを強襲したのだ!

 「っ!」

 それでも!相対する武闘士ももの!!

 これに即応し、頭上で三角に組まれていた両腕を流れるような所作で円状に変化させ、くだんの鉄壁防御技を構築する!

 ――ど、どっちも……バケモノかよっ!!

 信じられない反応速度と対応力の応酬に!

 傍観者と化していた鉾木ほこのき 盾也じゅんやも言葉を無くしていた。


 ガシィィン!

 十二歌たふかの電光石火の居合い斬りが、例の如く清奈せなの盾に撃ち落とされるも――

 「ふっ……は!」

 翠玉石エメラルド双瞳ひとみは”ここからこそ”本番だ!そう言う様に閃く!

 ザシュゥ!――ズバァァ!――ドシュッ!――
 バシュッ!――ズシャッ!――ザシッ!――シュバッ!――
 ドスッ!――グシャッ!――ズバシャッ!――ズシュゥゥゥ――!!

 瞬時に!同時に!瞬く間に!

 四方八方!縦横無尽!矢鱈滅多やたらめったら!

 網の目の如くにやいばは同時に斬りつけられるっ!

 「っっっ!!」

 その速度は高速剣、高速連撃とは全くの別物だった!

 速いという次元では説明できない不条理のバーゲンセールである!!

 ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――

 「くっ!ふっ!はっ…………っ!?」

 花房はなふさ 清奈せなの絶技をもってしても……

 バシッ!バシッ!…………ザシュゥゥッ!!

 「くはっ!」

 こんな”モノ”は――

 「ぐっ…………!?」

 ”ほぼ”では無く!真実ほんとうに同時に無数の刃が襲い来たのだ!

 個人が対応できる範疇を大幅に越えた反則技である!!


 「だ、だから……やり過ぎだって……”この世界”で”魔剣”は……」

 鉾木ほこのき 盾也じゅんやはその攻防を立ち尽くすしか出来ずに見守っていた。

 ――そうだ、これは俺の”魔剣”がひとつ……

 ――”多重世界の剣パラレルソード

 いくつもの在るべき、いや、遭ったかもしれない可能性のやいば……

 「何本もの同じ剣を、いくつもの同じ剣撃を、あまの、唯一の、世界を重ね合わせて一瞬だけ同時刻、同じ場所に存在させる……可能性の魔剣」

 ――この”魔剣”を使いこなせる羽咲うさぎだから

 ――最強の”英雄級ロワクラス”である彼女だからこそ

 「この世界への過度の干渉はいって!そう言ったよねぇ?羽咲うさぎちゃぁぁん!?」

 ”自分にそう言っておきながら、羽咲おまえが率先してそれをするかぁ!?”という、そんな納得いかない状況に思わず絶叫する男。

 鉾木 盾也かれは一応、羽咲かのじょの”相棒パートナー”兼”彼氏こいびと”という立場ではある……

 だが悲しいかな、盾也かれの意見は大体無視スルーされるのが二人の日常スタンダードであった。


 ブシャァァァァァーーーー!

 と……些末事はさてくとして。

 遂に鉄壁の牙城が破られ、花房はなふさ 清奈せなは斬られた箇所から血飛沫を上げ、

 ドサッ――ゴロゴロゴロ!!

 たまらず後方へと転がって逃げていた!

 カシャァァーーン!

 それと同時に十二支えと 十二歌たふか……羽咲うさぎの持つ剣も酷使による結果だろう、柄とやいばの僅かな根元部分を残して砕けて霧散していた。

 「…………」

 そのままプラチナツインテールの美少女剣士は、無言にて傷ついた腕を押さえながら片膝立ちで対峙する敵を見ていた。

 「羽咲うさぎ?」

 その表情に再び違和感を覚えた鉾木ほこのき 盾也じゅんやは恐る恐る彼女に声をかける。

 そして問いかけに、プラチナツインテールの美少女剣士は静かに――

 「め……そこなった……この私が」

 そう呟いて返したのだった。

 第十話「千変万化」前編 END
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