恋文に告ぐ

古葉レイ

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恋文に想う6

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「お前に手紙、見られたくなかったんだ」

 日野に向かって、私はそう吐き捨てた。

 そうさ、可笑しければ笑うがいいさ。日野に女々しいと言い続けた私がだ。手紙なんて捨てろと言い続けた私がだ。ここに来て彼の手紙を一通も捨てていないとどうして言えよう。いや日野なら解っていただろうけれど、そういう問題ではないのだ。私がそれを大事に梱包する姿なんて、絶対に見せたくなかったのだ。

「手紙、全部捨てたって言っていたものね」
「どうせ捨てられない女だよ、私は」

 そして私は彼から貰った気持ちを、今なお捨てたいと思わないのだ。大事に取っておきたいのだ。私の宝物だから、当然なのだけれど。

「最初の一通はどの段ボール?」

 日野に問われて、はっとしてそれを探す。引っ越しが終わったら読もうと思って片付けたけれど、どこの段ボールだっただろうか。思っていた場所にない。日野が動かしたか。
 慌てて見まわして、赤の落書き段ボールを探す。そして『日野の阿呆』と書かれた段ボールを見つけて、安堵。

 そして日野の視線に気付いて、私はこほんと短く咳払いをした。そして、笑顔。

「それは……捨てた」
「うん、それね?」

 く。日野に即座に発見されてしまい……といっても私が掛け寄ったんだが……自分の焦りを後悔する。日野が段ボールの前に行くのを、止めようとするけれど部屋が荷物でごった返していて動けない。

 日野が私の身を抱き寄せて、段ボールに触れた。

「これが最初ですかー」
「やっぱ日野帰れ。あんた邪魔。ほんっと邪魔」
「厳重にテーピングされてるね」

 荷造り最初の一つ目が手紙だったのだ。もちろん思い返してついつい読んでしまい、全然はかどらなかったのは言うまでもない。私の大切な、心の拠り所。

「これを捨てればいんだよね?」

 そして日野は、唐突に意味不明な事を言った。

「っは?」

 日野の発言は、あまりの強烈さに脳が拒絶した。捨てる? 何をだ。湿度が増したような気持ち悪さが全身を駆け抜ける。日野、冗談も程々にしろや。

「いや、だって恥ずかしいし。春さん、捨てていいって言ったし。さすがに10年も前の手紙は恥っていうかね。春さん宛てのは入ってないよね?」
「っちょ、ちょっと!? それは止めろっ! 捨てていいのは別のっ!」
「捨てちゃおう、僕は春さんだけでいいもの。よく燃えるだろうね」

 日野が両腕で段ボールを持ち上げる。確かに私は『電車の吊革の君』への手紙を捨てていいとは言った。しかし私と彼が出会うきっかけとなった手紙を捨てられるのは、少し、いやかなり嫌だ。

 日野が歩き出す。段ボールを抱えて行くのを、必死で止める。後ろから抱きついて止める、けれど日野は、問答無用で進んでいく。いや、だ。

「やだ、捨てないで」
「これで焼き芋でもやけばいいよ……あ」

 燃やされる? 想像した瞬間、何かがぷつんと切れた。あ、と思った時には遅かった。ぶわと、目頭に熱が浮いた。駄目だ、捨てないで。私は精一杯、日野の背中にしがみ付いた。

「っ……やだ。すて、ない……で。返して、私のだ、それは、私のっ! それも私のっ、私のなんだっ! もうっ、私のだからっ!」
「ごめん、嘘。嘘です、焼きません。捨てませんから」

 私の必死の訴えに、日野が困惑し狼狽えている。かなり戸惑っていて、あたふたとしている。私の、ええと嘘泣きが功を奏したという事か。ふ、ふはは、ふはははははは。

「何で泣くの。冗談だってわかってるくせに」
「泣いて、ない、ばか、嘘泣きだ、ばか」

 鼻を啜りながら、日野に悪態を付く。彼の背中を涙で濡らしてしまった。とりあえず彼の手から段ボールを奪って抱え込む。フザケルなだ。絶対に渡すか。両足も使って段ボールを抱え込んで、日野に背を向けておく。よし、確保。

「春さん、耳まで真っ赤。ああ、ごめん。本当、涙腺緩いなあ。いつも男勝りなのに、映画とか観てもぽろぽろ泣くもんねえ。可愛い」
「うっさい。死ね、馬鹿。しぎゃー!」

 人の物を処分するとか言うな。お前が言うな。畜生。目許の涙を拭いながら、私は日野を威嚇する。

「近づいたら、ちん○噛み千切るぞ!」
「もう、何でこんなに可愛いんだろう?」

 いや、そんな凶暴な事を言う女の子を可愛いというのは日野くらいだと思う。とか突っ込みは置いといて。

「ああ、僕の愛しい春さん、好き過ぎて困る。押し倒していい?」
「犯罪者め、警察に捕まれ。訴えてやる」
「あはは、好きにしたら?」

 段ボールを抱きか抱える私に、日野が寄ってくる。私がとりあえず近い首に噛みつこうとしたら、彼の指が私の下あごに触れてきて、親指が口内に入ってくる。えいと噛む。日野が私を抱きしめてくる。更に噛む。「いたた」呟く日野の唇が、私の耳元に来る。

「もうダメ、限界。愛おしいよ、春さん、本当、このまま抱いていい?」

 呟かれたと思った瞬間、日野の舌が私の耳の中へといきなり、無許可で入ってきた。ぬるちゅぶ。卑猥な音が脳にまで届く。全身にぞくぞくと快感の落雷で全身が強張る。段ボールが潰れそうになり、慌てて放す。日野は、止まらない。

「うぁ、おい、いきなり舐めんなっ、ちょ、はぅ、こ、ら」
「感じやすいんだから、春さんってば」
「それはお前のせい、だろうが、ひ、ふあ、おい。今、そんな気分じゃ、ない」

 日野の舌が私の耳を犯してくる。ああぁぁ、耳弱いんだよっ。

「嘘。したいでしょ? だって春さん、僕が今日部屋に来た時から『したそうな顔』していたもん。それが証拠に、拒み方が弱い。本当に嫌だったら、蹴っていいよ。ほら、拒んで『したら絶交』とか言ってみて?」
「ぁ、ダメ、やだ、後にして、だって、引っ越しの準備おわんなっ、ん、終わらないと日野と一緒に、なれっ、ないって」
「後でしっかり手伝うから。大丈夫だって」

 日野の柔らかい笑顔が私の何かを歪めてくる。本当だろうか。本当に大丈夫なのだろうか。日野が言うのだから、きっと大丈夫なのかもしれない。間に合うのだ。そうか、間に合うなら、していいよね?

「むしろこのまま二人悶々としていた方が効率悪いよ?」
「ほん、とう? んぅあ、耳ぃ、待ってって」
「うん。僕が保障する」

 彼の断言に、「わかった」と私は短く頷いた。もう身体は日野を受け止めたくてうずうずしているのだ。ああ、日野といちゃいちゃしたいよう。したかったんだよう。していいんだったらさっさと言えよ、馬鹿。

「でもするスペースない、から。片づけてから、しよう?」
「布団だけ何気にあるもんね。今日寝るからだろうと思いつつ、コンドームさんがさりげなくあるあたりむぐ」
「お前、このまま死んでみない? 私のキスで窒息して死ね」

 日野の唇を奪う。しばらくの攻防で私がキスされる側に回るのはいつもの事だ。日野の舌が気持ち良い。床の上にくの字で倒れたまま、日野に覆い被さられている。私は、日野に溺れ犯されるような激しいセックスが大好きです。

「立ったままでもいい?」
「日野が、そうしたいなら、いいけど」

 日野の問いに顔から火が出そうになる。

 私は手を伸ばして、日野のベルトを外し、ズボンを下ろす。気持ちは既にトップギアだ。

 ぷるんと日野のそそり立つものが露わになり、うん、しっかり立ってると確認して、パンツの上から舌を這わせる。汗の匂いに興奮する。トランクスの隙間から見える片方の玉を、「ちゅっぽん」と咥え遊びながら、ゆっくりと日野の味を感じる。「パンツ下ろせよ」と言う私に、「いやぁん」とか言う日野の逆転態度。私の失笑、日野が舌を出す。下着を下させて、私はそそり立つ竿に手で触れ、舐めながら、先端を口に含んだ。んぷ。

「んっ、んぇう」
「ごめん、シャワー浴びてないけど」
「へいひ」

 日野の味をいきなり喉で感じながら、私は頭を上下に動かしていく。頬の中で日野のものを扱きながら、彼が気持ちよくしてくれているかをちら見で確認。良さそうなので続けれ、しばしの口腔劇。日野が甘い声を上げだしたあたりで、強く吸う。ぐぷるぽと音を立てて、日野のを吸う。しばし。日野の腰が震えるのを待って、

「っあは、あくぅっ」
「んぅぅぶぅ」

 日野の腰が震えて、私の喉を深く突く。口の中で日野のが肥大。どんと大きく口内に、苦い味が広がる。「んっう」むわりとした匂いに、私は唾液と、溢れそうな液を呑む。ごぎゅるり。日野が私の頭を撫でてくる。

「っ、はあ、あふ」
「あ、ふ、いっちゃ、った」

 嬉し気に笑う日野の照れた瞳を見返して、私はごきゅんと喉を鳴らした。

「ん。さ、あ。来て」

 唾液と精液の糸を残して、私は顔を上げ、ハーフパンツを脱ぎ捨てた。日野に凭れるようにして片方の足を持ち上げる。下着は足首に吊るしたまま、日野に股を全開だ。日野が寄り、私の熱い部分に固いそれを押し付けてくる。太ももと尻に手を掛けられ、私の体重の半分を彼に預ける。コンドームを手にして、歯で封を切る。見えないけれど、彼のあれを手で探し当て、日野のモノに装着。片手ですかさず付けられる私のテクを褒めろ。装着三秒、高速換装だ。

 私の特技の一つ、とか思っていると、日野がそっと、私の濡れたあそこに猛りを当てた。びくんと電気が走る。来るのね、もう。

「入れるよ」

 やや低い、囁くような声。その言葉だけで、くぅ、じんじんする。

 日野の手が私に触れる。あそこにも触れられて、気持ちだけでいっぱいになる。触れただけで、いっちゃいそうだよ、日野。

《続く》
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