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飴玉
しおりを挟む彼女はご不満でした。
それはもう、酷くご立腹でした。
頬をぷっくりと膨らませて、シートベルトを胸に抱くように両腕を絡ませている様子に、僕はなんとも言えない気持ちでした。
「混んでたからしょうがないって」
「やだ」
僕の、なんのなぐさめにもなっていないフォローも、助手席に座る彼女には通じない。座高をかさ増ししてはいるものの、彼女は自らの意思を主張し、きちんと不満を述べる素敵なレディなのだ。
クラッチを踏みしめ、エンジンを掛ける。彼女が僕を睨みつけている。唇がアヒルのように尖っていた。
「帰りにコンビニで買おう?」
「だめ」
彼女は髪の毛を振り乱し、二回も首を横に振る。後ろに束ねた髪の束が助手席の背もたれを叩き、ぺちぺちと音を鳴らす。
僕は思い返す。彼女はきちんと待っていた。レジで精算をしている間、お姉さんの顔をじっと見つめたまま、微動だにしなかった。
後ろには会計の列が出来ていた。だから最初、僕はセルフレジに行こうとしたけれど、彼女は、それでは貰えないからと、列に並んだ。そして期待して待ったのだ。
「前はもらえたよ」
「うん。そうだね」
彼女は「何で?」と僕に聞いてくる。僕こそが聞きたいくらいだ。彼女は毎週のように、僕との買い物に付き合い、レジ前で待って、笑顔になる。
今日はたまたま、笑顔になれなかっただけなのだ。
僕は考えた。このまま出発したら、きっと不満が続く。その不満は尾を引いて、この後に続くに違いない。それは困るのだ。
凛々しくなった横顔を眺めながら、僕はハンドルを手に、笑顔になるための何かを考えて、
「もう、お姉さんだから、じゃないかな」
そう、告げた。
彼女は驚いた顔をした。
目を大きく見開いて、僕の顔を覗き込み、唇の端を持ち上げた。
ようやく見ることができたその表情に、僕は肩の荷が下りたような気持になって、ゆっくりと、「帰っていい?」と尋ねることができた。
「コンビニは?」
至極当然のように問いかけられて、僕の唇の端が、彼女と同じく持ち上がった。
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