チャラい系騎士と魔女と呼ばれた王女

灰猫あさ

文字の大きさ
8 / 13
第一章

ノマドの騎士の打算混じりの好意

しおりを挟む
お茶会の日の一件以降、アロンダイトは頻繁に図書室に訪れていた。
急に読書に目覚めた…訳ではもちろんない。目的はほぼ毎日図書室に入り浸っているティターニアである。
だがそれは純粋な恋心からではなかった。

カマエメラム伯爵家は歴代騎士の家系だ。アロンダイトの父で現当主であるホランダイトもまた、かつては腕の立つ騎士だった。その腕は第一騎士団の団長を務めるほどであった。
今現在は利き腕である右腕の怪我により騎士を退いてはいるが、左手で戦ってもその辺の若い騎士なら簡単に倒してしまうほどの腕は保っており、今でも騎士達の憧れの存在である。

アロンダイトはそんなカマエメラム伯爵の一人息子だ。それ故に生まれた頃から当然のように伯爵家の跡取りとして育てられた。
なかなか子宝に恵まれなかったカマエメラム伯爵夫妻にやっと生まれた子供。しかも男児となれば伯爵夫妻も周辺の者も大喜びであった。
父であるホランダイトは、まだよちよちと歩くようになったばかりであったアロンダイトに自ら剣を指導するほどに喜び、アロンダイトに多大な期待を寄せていた。
しかしそんな状況はアロンダイトにとって大きなプレッシャーとしてのしかかっていた。周囲からの期待も偉大な父親の存在も、彼には重荷でしかなかった。

しかし最初は周囲の期待に応えようと、アロンダイトも必死に努力をしていた。
だが、アロンダイトがどんなに努力をして頑張っても横から軽々と追い越していく存在があった。
ゼラニューム侯爵家の次男、ユージーン・ゼラニューム。
…そう、幼なじみのユージーンである。
爵位はゼラニューム家の方が上であったが、父親同士の仲が良かったことから同時期に生まれたアロンダイトとユージーンは幼い頃から交流する機会が多く自然に父親たちと同様に仲良くなった。
しかし、それは同時に周囲からアロンダイトとユージーンが比べられるきっかけになってしまった。
何をしてもユージーン、もしくは父親と比べられ、「ユージーン様はもっと凄い」「父君が子供の頃の方が凄かった」と周囲から言われるアロンダイト。
家柄でも勉学でも剣術でも…、なんでも自分の上をいくユージーンの存在は次第にアロンダイトの心を追い詰めていった。
そして追い打ちとなったのは、父までもがユージーンのことをべた褒めしていたことだ。これに関しては決してホランダイトは息子であるアロンダイトとユージーンを比べた訳でも悪気があった訳でもなく、ただ親友の子供を素直に優秀だと褒めていただけだったのだが…。
普段自分には厳しく滅多に褒めることなどない父が、他でもないユージーンを褒めたという事実はアロンダイトの心を折るにはじゅうぶんであった。

心が折れ、やる気を失ったアロンダイトは努力することをやめてしまった。
努力したところでどうせ自分はユージーンや父親の存在には勝てない。
ならば最初からいい加減で不真面目な出来の悪いヤツだと思われる方が良い。努力しても幼なじみや父親に勝てない可哀想なヤツだと思われるよりマシだ。
それに、不真面目に振る舞えば周囲から向けられていた期待も無くなるだろう。その方が気楽だ。
そんな風に考えるようになってしまったのだ。

その頃からアロンダイトは女遊びに耽るようになった。貴族のご令嬢から、使用人、踊り子、娼婦…様々な女性と浮名を流すアロンダイト。
しかしどんな噂が流れてもアロンダイトは女性に困ることはなかった。
父親の功績からカマエメラム伯爵家が辺境伯ほどの権力を持っていた為にそれに惹かれて自ら近づいてくる女性も多かったからだ。

加えてアロンダイトがかなりの美形であったことも理由のひとつだろうか。
女性も羨むほどに長いまつ毛に縁取られた快晴の空の色のぱっちりとした瞳は柔らかく優しげな印象を与え、太陽のように輝く金色の髪は少しくせっ毛で子犬のような甘い顔つきをより魅力的にみせる。
アロンダイトのこの甘いマスクに今までどれだけの女性が魅了されてきたことだろうか。

色んな女性を渡り歩くその様子からノマドの騎士というあだ名がついているアロンダイト。だが、今までに本気になった女性はいない。
どうせ皆カマエメラム伯爵家の嫡男という肩書きや整った容姿などの上辺にしか興味がないのだと思っているからだ。
そして実際に今までアロンダイトに近づいてくるのはそのような女性が大半であったのだ。それが更にアロンダイトを歪ませていった。

そんな中、偶然出会った王女ティターニア。そして、アロンダイトはティターニアに好意と興味を抱いた。
打算混じりの好意と純粋な興味。
権力の最高峰であるアルストロメリア王国国王アルフレッドの第一子にして一人娘のティターニア。
彼女と親しくなるということは王家との親交を深めるということである。
カマエメラム家と王家との結び付きをアロンダイトが深められれば、周囲のアロンダイトを見る目も変わるだろう。
万が一にティターニアと婚約にでも至れば、出来損ないの騎士から未来の女王の夫へと一気にランクアップする。
そうなれば自分にはもう誰も何も言えない。全て自分の上を行くユージーンにも劣等感を抱かなくていい。
そんな風な思いでティターニアに近づいていた。
純粋な好意を抱いていない訳では無い。今まで出会った女性とは全く違うティターニアに興味を持っているのも事実だ。だが、アロンダイトの心の中に蓄積された黒いモヤがその純粋な気持ちを覆い隠してしまっていたのだった…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...