地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう

文字の大きさ
8 / 8

8.

 月光草の告白以来、ファウストは信じられないほど私にべったりになった。新入生歓迎パーティーで、私のことをきれいだと話している令息が複数人いたらしく、ずっと心配だったらしい。休み時間はしょっちゅう私の教室に来るし、帰りは必ず教室の前で待っている。急な態度の変化にこちらはすぐにはついていけない。

 いつの間にかファウストは私のタウンハウスまでついてきて、バルドの授業にまで顔を出すようになった。けれどずっとバルドを牽制しているものだから、バルドも少しやりづらそうだ。せっかく成績優秀な一流の家庭教師に指導してもらっているのに、その指導を十分に受けられないのは少し惜しい気がする。

 誕生日会用のドレスは澄んだ空のような淡いブルーをベースにした、ふわりと広がるプリンセスラインのドレスが贈られてきた。ところどころ立体的な菫色の蝶のモチーフがついている。

「お嬢様、とてもよく似合っています!ファウスト様って、昔からお嬢様のことよく見てらっしゃいますよね。ずっと愛してらっしゃるんだろうなって思っていました。」

 ジーナが感慨深げに言う。
 
「あら、そうかしら。私はそんな風に思ったことはなかったけど。」

「ふふ、そうですよ。私には分かります。」

 誕生日当日は、これに以前もらった月光草のペンダントも合わせた。準備万端だ。ファウストは控室で私を一目みるなり、飛びついてきた。

「もう!せっかくきれいに着せてもらったのに、しわになっちゃう!」

「あまりにもきれいだったから。それにしてもよく似合っている。君がドレスを選ぶのが苦手なら、これからもたくさん贈る。」

「それは助かるわ。ありがとう。」

 ファウストのエスコートは紳士的で優しかった。年上のバルドの隣は安心感があったが、ファウストは少し不器用でも一生懸命守ってくれようとする。本日の主役である私をお姫様のように扱ってくれるのがうれしかった。

「あら、仲直りしたのね。本当によかったわ。」

 両親もにこにこと嬉しそうにしている。鉄鉱山の件もあるし、私たちが仲がいいに越したことはないのだろう。

 バルドも今日の誕生日会に招待していたが、初めにちょっと挨拶した以外は遠くから会の様子を眺めていた。ファウストが私を近づけないようにしていたというのが正しいのかもしれない。

 ファウストは、アンナマリア様や私がバルドを婚約者だと紹介していた令嬢たちに、自分が本当の婚約者だと律儀に言って回った。仕方がないから私も「ちょっと喧嘩をしてしまって、あの時は嘘をついて申し訳なかった」と謝罪した。皆、少し驚いた様子だったが、笑って許してくれた。

「ちょっと、ファウスト。そんな律儀に訂正して回らなくても。」

「だって、バルド殿が君の婚約者だと思っている人からしたら、俺が横恋慕しているみたいだろう。そんなの絶対ゆるせない。」

「あなたって意外と独占欲が強いのね。」

「ああ、そうだよ。だから覚悟して。」

 広間に音楽流れる。お待ちかねのダンスタイムだ。

「お手をどうぞ、我が君。そういえば、この前、ルチアはバルド殿と二曲踊ったね?今日は最低でも三曲は付き合ってもらうから。」

「ええ!そんな無茶よ。」

 そのあとファウストは、私が足を攣って動けなくなるまで手を離してくれなかった。 動けなくなった私を、ファウストは満足げに抱きかかえ、耳元で囁いた。

「ああ、やっとこれで君を独り占めできる。」

 そしてそっと私のおでこに口づけを落とした。広間一杯に歓声が響く。

 婚約者(偽)をレンタルしたつもりが、本物の婚約者の激重執着愛を目覚めさせてしまった。こうして、私の偽装婚約は幕を下ろしたのだった。

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!

たまこ
恋愛
 大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。 2023.5.8 HOTランキング61位/24hランキング47位 ありがとうございました!

王子と令嬢の別れ話

朱音ゆうひ@4月1日新刊発売!
恋愛
「婚約破棄しようと思うのです」 そんなありきたりなテンプレ台詞から、王子と令嬢の会話は始まった。 なろう版:https://ncode.syosetu.com/n8666iz/

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~

真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。 自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。 回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの? *後編投稿済み。これにて完結です。 *ハピエンではないので注意。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。