悪役令嬢プリシラの怠惰な生存戦略

志熊みゅう

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 その後しばらく体調不良で学校を休んだ。最後の方はただのサボリだったが、さすがに誰にも文句を言われなかった。王宮から何度も人が来て、取り調べを受けた。特に「ヒロイン」「攻略対象」「悪役令嬢」「リリアンの謎解き学園」とは何かと、しつこく聞かれた。私はめんどくさいことが何より嫌いだ。全て分からないと答えた。

 捜査の結果、クィン先生はやはり隣国のスパイだった。リリアンは「私がヒロインだ」「どうして攻略対象の王太子が私に見向きもしないんだ」「あの悪役令嬢かまととぶりやがって」と、独房の中で叫んで暴れているとのことだった。リリアンの実家、エリントン男爵家は、娘が王太子の婚約者と公爵令嬢を誘拐したこと、隣国のスパイの手助けをしたことから、お取り潰しが決まった。

 さすがにあの二人さえ捕まってしまえば、ゲームのシナリオのせいで殺されることはないだろうと私は確信した。学園を卒業したら、モーリスに領政と社交を任せて、私は邸に引きこもってロイヤルニートとして楽しく生きていこう。胸が高鳴った。

 学園の成績は常にぎりぎりだったが、何とか卒業はできた。モーリスは総代に選ばれ、ありがたい言葉を卒業式の壇上で述べていた。私は半分眠りながら、その話を聞いた。

「これでやっと領地でゆっくりできるわ。」

 帰りの馬車で私はこぼすように言った。

「そうだね。プリシラ。早く君がゆっくりできるように、さっさと結婚式も挙げてしまおう。」

「そっか。契約結婚でも、式は必要だもんね。」

 結婚式の用意は、私が知らないところで、モーリスと両親がほぼ済ませていた。ドレスを選ぶのすらめんどくさいと言ったら、モーリスがいつの間にか私にぴったりのドレスを用意した。結婚式は領民から祝福されたが、事務作業のように淡々と終わった。さすがは愛のない結婚だ。

 結婚後は私たち夫婦は自邸の離れに住むようになった。両親に干渉されない離れでの生活は予想以上に快適だった。モーリスはよく働いてくれるし、「領地を出なくていい」「社交はしなくていい」と言ってくれるから、社交シーズンも快適に引きこもることができた。たまに賭けに負けて領地視察に連れていかれるが、それ以外の時間は、チェスやカードゲームに勤しみ、読書にも興じた。私の望んだ理想のぐーたら生活がそこにはあった。

 ただ、公爵家に跡継ぎが必要だからといって、毎日のように抱かれるのはそれなりに大変だった。彼も入り婿だからプレッシャーというものがあるのだろう。仕方ないことだと思うことにした。おかげで、すぐに新しい命を授かった。

 生まれた子どもは男の子だった。待望の跡継ぎの誕生に公爵家は歓喜に沸いた。モーリスは宣言通り、使用人を増やし、私のニート生活を死守してくれた。でも、なぜか夫婦の営みは初めての子を産んだ後、すぐに再開された。愛のない結婚って自分が言ったくせに。それからまた妊娠。次の子は女の子だった。

 その後も出産の度に閨の回数を減らしてほしいと頼んでいるが、いつも賭けに負けて流されてしまう。今はなんと5人目の子を妊娠中だ。使用人はたくさんいるし、自分の時間を過度に奪われなければ子どもは好きだし、幸せかと聞かれれば幸せだと思う。

 そんなある日、ふと思い出した。モーリスはバッドエンドで、ヤンデレを爆発させて、ヒロインであるリリアンを監禁することを。

 ――もしかして私、はめられた?
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