逆ハーエンドかと思いきや『魅了』は解けて~5年後、婚約者だった君と再会する

志熊みゅう

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邂逅と懊悩

5. 邂逅

ローズが『ファビュラスでマーベラスな騎士様』の派遣で勝手に盛り上がっているから、しばらく『バー・ローズ』に顔を出すのをやめようかと思ったけど、一応どの店も帳簿や衛生状態の確認は自分でやりたいので、忙しくない時間に視察に行くようにしている。

「リリーたん!この前の騎士様、今日来てくれるらしいわよ♡」

「はあ~?!勝手に話進めないでよ。いいなんて言ってないでしょう。」

「またまた~!マイダーリンも一緒だから緊張しなくても大丈夫だって。」

そういえば、マイダーリンもまだ紹介されていないんだよなあ。誰なんだろう?もちろん騎士隊全員を把握しているわけではないが、よく店に来る人ならある程度は顔なじみだ。

ちゃりん、ちゃりん。
入口の方で鈴が鳴る。お客さんだ。

三人連れの騎士の中に、燃えるように赤い髪に緑の瞳の青年がいた

―アベル ボナパルト

彼を最後に見たのは6年半前だろうか。毛髪と瞳の色は変わらないが、やんちゃそうな表情は鳴りを潜め、騎士らしい精悍な顔立ちをしている。ネモフィラからは第四騎士隊で副隊長に昇格したと聞いていた。第四騎士隊は魔獣討伐部隊だ。マールは魔獣の生息地ではないし、沿岸警備騎士隊は第三騎士隊の分隊だ。どうして彼がこの町に?

「リリ…リリなのか!?」

「…」

ほっとしたような縋るような眼でこちらを見つめてくる。多分失踪する前の私だったら、戻ってきてくれたと泣いて喜んだだろう。今となっては驚くほど何の感情も湧かない。

「…生きていてよかった、…元気そうでよかった。本当に本当に。」

そういって、声がかすれた。緑の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

「ローズ、今日はもう帰る。」

「え、ちょっと!リリーたん!」

そのまま振り返らず、裏口から外に出て、転移魔法でその場を去った。

***
結局今週分の帳簿のチェックができていなかったので、翌日閉店後『バー・ローズ』に訪れた。

「はい、モスコミュール♡ちょっとリリーたん、昨日のあれは一体全体どういうことなのよ?!せっかく人がファビュラスでマーベラスな騎士様を紹介してあげようと思ったのに~。」

帳簿の確認中だというのに、ローズが酒を出してきた。最近本部から派遣されてきたという『ファビュラスでマーベラスな騎士様』って、もしかして...。

「まさかと思うけど、ローズの言う『ファビュラスでマーベラスな騎士様』って、あの赤毛の人?」

「ビンゴ♡彼、超イケメンでしょ!!お貴族様なのに全然偉ぶらないし、火魔法も使えてすごく強いらしいわ!炎の騎士って呼ばれてファンクラブもあるのよ!ほら魔獣討伐専門の第四騎士隊って他の部隊より危険な業務が多いらしいじゃない?いつ死ぬか分からないから、今まで恋人も婚約者も作らなかったみたいなの。戦地で娼館通いする騎士も多いのに、そういうのも全然ないって!あんたまだ隠してるみたいだから、リリーたんが貴族出身ってことは伝えないけど実はお貴族様な訳だし、ちょうどぴったりと思ったわけ~!それにリリーたんのこと、飲食店とか化粧品販売とか手広く事業やっているカワイイ子がいるんだけど、全然男運ないからいい人を紹介したいって話したらすごく興味持ってくれたの。どうかなって思ったんだけど…。」

「…ローズ、あのね。ちょっと落ち着いて聞いてね。あの人、私の…私の元婚約者なの。」

「…はあああああ?!あの妊娠中に心変わりしたっていうクソ男!?」

ローズが男らしい雄叫びをあげた。

「彼は子どものことは知らないわ。妊娠したことを伝える前に浮気されて口利いてくれなくなっちゃったの。」

「いや、十分クソだわ。ごめんねぇ、まさかそんなことになっているって知らなかったのよ。。」

「浮気に関しては『魅了の呪い』にかけられて、おかしくなっていたらしいんだけど、結構ひどいことも言われたし、もううんざりね。」

「『呪い』って、もしかしてあの王子さまがかけられて静養されてたってやつ?」

卒業パーティーで大々的な"断罪劇"をしてしまったので貴族の世界では有名な話だが、庶民にはヴィクトル殿下を狙って呪いがかけられた、解呪されたが一旦廃太子として半年間は静養すると発表された。さすがに王族が『魅了の呪い』にかけられたと公表するのは、ばつが悪かったんだと思う。

「そうそれよ。彼も半年間、謹慎になったはず。侯爵家の次男で私の家に婿入り予定だったのに、浮気して婚約者が失踪したから、次の婿入り先が見つからなかったのよ。どうしてそれが、いつの間にそんな美談になっているの?」

「あんたの話聞いたら、ファンクラブも解散するわね。っていうか『魅了の呪い』って何なの?」

「私もよく知らないわ。闇魔法らしいけど。まあ魅了って言ってもかけた相手に好意がないとかからないらしいから、言い訳はできないはずよ。はい、この話はもうおしまい。帳簿の確認するから静かにしていて。」

そう言って帳簿に目を落とした。
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