魔王を倒すために、聖女と浮気して戦死した勇者を蘇らせます!

志熊みゅう

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 叔父の首を持って王都に戻ると、今までの逆賊としての扱いが嘘のように英雄として扱われた。私とエーリヒは、すぐに王と謁見した。

「ご苦労だった。シュヴァルツ侯爵令嬢。一族の名誉回復を約束しよう。褒美も与える。何でも言いたまえ。」

「ありがとうございます。」

「まさか、死んだ勇者をアンデッドとして使役して、魔王に討ちとるとは。逆転の発想ですね。」

 隣で宰相であるノイシュヴァンシュタイン公爵が媚びた笑みで笑う。なぜか、宰相の娘であるリーゼロッテ嬢もいる。親子そろって銀髪、碧眼だから目立つ。彼女は、もしかして、アンデッドとして蘇ったエーリヒを見に来たのか。こちらを見て目を輝かせている。

「シュヴァルツ侯爵令嬢、この度は素晴らしいご活躍でした。過去に逆賊の娘などと、恥ずかしい手紙を送ったことをお許しください。一つ、あなたにお願いがあります。そのアンデッドですが、私に頂けないでしょうか?何度も手紙をお送りしたように、私とエーリヒは生前愛し合っていたのです。」

 リーゼロッテ嬢が涙ながらにそう語った。アンデッドは、一般に魂を持たない存在。まさか、隣にいる虚ろな瞳のエーリヒに、意志や感情が宿っているとは思っていないのだろう。

 それにしても、彼女がエーリヒの死体にまで興味を持つとは思わなかった。欲しいと言ったものを必ず手に入れるわがまま令嬢とは聞いたことがあったが、ここまでとは。隣でエーリヒがわなわなと震えているのが分かった。

「――先ほど、何でも褒美を与えると、陛下が仰いました。では一つだけ、私から望みがあります。筆頭聖女を偽り、この国を滅ぼそうとしたノイシュヴァンシュタイン公爵令嬢リーゼロッテ嬢を反逆罪で訴え、公開処刑に処すことを望みます。」

「……あなた、何をおっしゃるの?!」

 リーゼロッテ嬢が目を丸くし、重い沈黙が室内に流れる。ノイシュヴァンシュタイン公爵が口を開いた。

「シュヴァルツ侯爵令嬢、あなた様は、勇者・エーリヒ殿の婚約者であったと聞いています。あなたには申し上げにくいが、この件については、我が娘も被害者なんですよ。彼は勇者であるという立場をわきまえずに、娘に手を出した。そして、我が娘の聖魔力が失われた。」

「うそをつくな!もともと彼女は小さな傷を治すくらいしかできないだろう?中央聖教会に金を積んで、筆頭聖女にしたくせに。」

 もうだまってられないと、エーリヒが叫び、ノイシュヴァンシュタイン公爵の胸ぐらをつかんだ。

「ひぃぃぃ!アンデッドがしゃべっている!!」

 ノイシュヴァンシュタイン公爵が腰を抜かして、叫んだ。

「エーリヒ、落ち着いて。陛下の御前よ。――ノイシュヴァンシュタイン公爵、リーゼロッテ嬢、これはシュヴァルツ侯爵家に伝わる"禁術"です。私は自分の命を代償として、彼の魂を腐った肉体に縛り付けている。彼を使役している時間の分、私の寿命は縮んでいます。――だから、彼を差し上げる訳にはいきません。」

「あ、ああ。何代か前のシュヴァルツ家当主が、冥界から魂を呼び寄せて、死者を蘇らせたっていう話は、本当だったのか……!?」

 ノイシュヴァンシュタイン公爵が、バケモノを見るような顔でこちらを見る。

「ええ。エーリヒの魂は未練は強すぎて、この世を彷徨ってましたけどね。それで公爵閣下、エーリヒ本人の証言を聞いても、エーリヒがリーゼロッテ嬢と関係を持ったと?では、この場ではっきりさせましょう。リーゼロッテ嬢をこちらに。私が、自白魔法で真実を聞き出します。」

「……。」

 この沈黙こそ、嘘だと認めたということだろう。

「陛下もご存じだったんですよね?もともとリーゼロッテ嬢には十分な素質がなかったことを。そんな人間を魔王討伐のパーティーに入れるなんて、我が婚約者に死にに行けと?」

「……すまなかった。確かに、はじめから力が及ばないことは知っていた。だが他の聖女たちも、危険が伴うこの任務には行きたくないと言ってな。自ら志願したのが彼女だけだったのだ。だから、王として、優秀な魔術師と剣士をサポートにつけた。しかし、こんなことになってしまった。きちんと聖女についても選抜をするべきだったと後悔している。」

「だからと言って、死者に濡れ衣まで着せて!!」

 涙があふれて止まらない。ちゃんとした聖女がサポートについていれば、今頃、私はエーリヒと結婚して、子どもだって授かっていたかも知れない。

「そうだな。ノイシュヴァンシュタイン公爵、これはけじめをつけるしかない。シュヴァルツ侯爵令嬢、この国には法律がある。私が一存で決められることは案外少ないんだ。彼女の処罰はきちんと捜査と裁判を経て決めさせてもらう。」

「――分かりました。」

「へ、陛下……。」

 リーゼロッテ嬢とノイシュヴァンシュタイン公爵が、膝から崩れ落ちた。

 それから私たちは、この事件の関係者としてしばらく王都に滞在した。捜査では、娘を筆頭聖女にするために、ノイシュヴァンシュタイン公爵が中央聖教会に多額の献金をしたこと、さらにリーゼロッテ嬢が、他の聖女たちを恐喝して、この任務が外れるように迫っていたことが、明らかになった。公爵家は降爵になり、領地の一部も没収された。そして、リーゼロッテ嬢は、私の要求通り、反逆罪に問われた。

 リーゼロッテ嬢の処刑は、しめやかに執り行われた。私たちはそれを遠くから眺めた。エーリヒの黒いローブの隙間から、生気のない緑の瞳が、処刑台を凝視していた。

「本当にこれでよかったのかしら?こんなことをしても、あなたは生き返らないのに。」

「でも、俺は満足した。」

「なんかエーリヒ死んでから、性格変わった?」

「いや、本質は昔から同じだよ。強いて言えば、生きている時は、みんなから認められたいって、多少は猫を被っていたかも知れないな。」

「そうなの?」

「ああ。でも死んだら、そういうのどうでもよくなった。例え君が使役をやめても、俺は君に憑りついて、絶対に離れないから。」

 彼の冷たい腕に抱き寄せられる。はじめ違和感があったこの冷たさも、今は愛着がわいている。

「じゃあ帰りましょうか。私たちの領に。」

「シュヴァルツ侯爵領は久しぶりだな。懐かしいよ。エルザ、また一緒に魔獣を狩ろう。俺もう死んじゃったから、君の焼いたホーンラビットのミートパイが食べれないのが残念だけど。」

「ふふ、そうね。」

「大好きだよ、俺のエルザ。死んでも離さない。誰にも渡さない。」

「ふふ、死んでもって、あなたもうとっくに死んでるでしょ。」

 彼は毎日、私にそう言うけれど、結局死んでも、裏切られたと思っても、彼を手放せなかったのは私の方だ。魔王討伐だってもっと他のやり方があったはずだし、今もこうして、己が命を代償にして、彼を使役している。

 実はこの術が"禁術"になっているのには、もう一つ別の大きな理由がある。この術を完成させた何代か前の当主は、既に冥界にあった妻の魂をこの世に連れ戻した。死者の魂は生者のしがらみに囚われない。いつしか蘇らせた妻に依存して、俗世と距離を置くようになり、最期は廃人と化してしまった。だから、私もそうなる前に彼を冥界に還そうと思った。だけどできなかった。

「ずっと一緒にいてね、エーリヒ。」

 ――生きている者が、死者と結ばれることなんて絶対にあり得ないのに。

***
あとがき
最後まで読んで頂きありがとうございます!
筆者好みの厨二病全開の本作でしたが、お楽しみ頂けましたら、幸いです。
現在連載中の新作も恋愛ファンタジーなので、もしよかったらこちらも覗いてみて下さい!

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
https://www.alphapolis.co.jp/novel/705612661/566989793

どうぞよろしくお願いします。
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