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第一幕 断罪の夢
20. お茶会
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殿下の従者から届けられた手紙には、週末に皇宮へ参上するよう記されていた。わざわざ"婚約者らしい装いで"と言伝があったので、その意図を汲み取り、私は殿下の瞳と同じ淡いブルーのドレスを選んだ。胸元には、かつて贈られたサファイアのネックレスを、久しぶりに身に付けた。そういえば、去年は誕生日の贈り物さえ送られてこなかった。以前はあれほど律義に届けられていたというのに。
皇宮を訪れるのも、妃教育を終えて以来のことだった。第一皇子の婚約者である以上、いずれはここで暮らすはずなのに……そんな未来をどうしても思い描くことができない。
「ユングリング侯爵令嬢、ようこそお越し下さいました。ご案内いたします。」
恭しく出迎えられ、従者に導かれて城内を進む。かつて殿下が学院に入学する前、幾度かお茶を共にした中庭を横目に過ぎ、さらに奥へ。皇族の私的な居住区へと足を踏み入れていく。
「――今日のお茶会は、中庭ではないのですか?」
「はい。マティアス殿下より、居室にお通しするよう仰せつかっております。」
嫌な予感がする。殿下の私室へ通されるのは初めてだ。従者が足を止め、重厚な扉を二度叩く。
「殿下、ユングリング侯爵令嬢をお連れしました。」
「入り給え。」
「本日は、ご招待いただきありがとうございます、マティアス様。」
そう言って、カーテシーで挨拶をする。殿下にエスコートされ、窓際におかれたテーブルセットに腰を下ろす。早速、テーブルに並んだお菓子を勧められた。
「これは最近、帝都で流行っている菓子店のクッキーだ。君の口にも合うといいのだが。」
「ありがとうございます、マティアス様。」
昔のように優しく話しかける殿下に戸惑う。それから、殿下は学院での私の交友関係に探りを入れるような質問を矢継ぎ早にした。私はステラ組の生徒の何人かを挙げ、それぞれとのエピソードをにこやかに話した。
「――それだけか?君はトヴォー王国からの留学生と特に仲がいいと聞いたが。」
訝しむように殿下が尋ねる。まさか殿下の口からリアスの話が出るとは。動揺を悟られないように紅茶を一口飲む。不思議な香りのするお茶だった。少し薬草臭いというか。
「リアス様ですね。実習でペアを組むことが多いですわ。私の魔力が強すぎるので、戦闘魔法の授業で彼しか私のお相手をできませんの。」
「いくらトヴォーが友好国だと言っても、気を付けるんだぞ。礼節をもって親切にするのは良いが、決して機密をもらさないように。」
ニオ共和国の諜報員であるライラ嬢と懇意にしている殿下に言われたくない。思わず目を見開いた。
「――実はな、エディット。私の学院での交友関係や評判が、第二皇子派の貴族の耳に入ったようでな。皇太子にフレデリクを推す声が徐々に増えているようなんだ。」
少し気落ちしたような声だ。まさかうちがボンデ伯爵に情報を売ったとは言えない。
「誰かに何か言われることもあるかもしれないが、気にしないでいて欲しい。この騒動は私が必ず治めるから。」
身から出た錆なのだが、どの口がいうのか……。人形のような微笑を浮かべながら、試すように尋ねる。
「あらそういうお話でしたのね。今日はてっきり婚約解消のために呼ばれたのかと思いましたわ。」
「私の婚約者は心配性だな。我が正妃にエディット以外の令嬢を迎え入れることはないよ。」
お茶会の誘いがあった後、兄から言われた。魔力量が少ないマティアス殿下が皇太子に就くには、おそらく私との結婚は必要条件。そして――世継ぎの誕生までが、その条件になっているかもしれない、と。
すると、急激な眠気が私に襲い掛かった。……まさか。
「ふふ……ようやく効き始めたか。」
殿下が不敵に微笑む。視界がぼやけて、そのまま眠りに落ちた。
皇宮を訪れるのも、妃教育を終えて以来のことだった。第一皇子の婚約者である以上、いずれはここで暮らすはずなのに……そんな未来をどうしても思い描くことができない。
「ユングリング侯爵令嬢、ようこそお越し下さいました。ご案内いたします。」
恭しく出迎えられ、従者に導かれて城内を進む。かつて殿下が学院に入学する前、幾度かお茶を共にした中庭を横目に過ぎ、さらに奥へ。皇族の私的な居住区へと足を踏み入れていく。
「――今日のお茶会は、中庭ではないのですか?」
「はい。マティアス殿下より、居室にお通しするよう仰せつかっております。」
嫌な予感がする。殿下の私室へ通されるのは初めてだ。従者が足を止め、重厚な扉を二度叩く。
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「入り給え。」
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そう言って、カーテシーで挨拶をする。殿下にエスコートされ、窓際におかれたテーブルセットに腰を下ろす。早速、テーブルに並んだお菓子を勧められた。
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「ありがとうございます、マティアス様。」
昔のように優しく話しかける殿下に戸惑う。それから、殿下は学院での私の交友関係に探りを入れるような質問を矢継ぎ早にした。私はステラ組の生徒の何人かを挙げ、それぞれとのエピソードをにこやかに話した。
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「いくらトヴォーが友好国だと言っても、気を付けるんだぞ。礼節をもって親切にするのは良いが、決して機密をもらさないように。」
ニオ共和国の諜報員であるライラ嬢と懇意にしている殿下に言われたくない。思わず目を見開いた。
「――実はな、エディット。私の学院での交友関係や評判が、第二皇子派の貴族の耳に入ったようでな。皇太子にフレデリクを推す声が徐々に増えているようなんだ。」
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すると、急激な眠気が私に襲い掛かった。……まさか。
「ふふ……ようやく効き始めたか。」
殿下が不敵に微笑む。視界がぼやけて、そのまま眠りに落ちた。
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