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第一幕 断罪の夢
25. 作戦
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タウンハウスでの家族会議のあと、父は何やら忙しそうで、顔を合わせていない。さらに、私も兄も卒業試験が佳境に入り、日々の大半を勉強に費やしていた。そして卒業試験が終わった日にまたタウンハウスに家族が集まることになった。
今晩は、卒業の前祝いも兼ねて、久しぶりに家族全員で食卓を囲んだ。今夜のメインは、ユングリング領の誇る鴨肉のロースト。私の一番の好物だ。皮はぱりっと香ばしく、噛めば溢れる肉汁に、シェフ特製の甘酸っぱいオレンジソースが絡む。ひと口ごとに、口の中に幸福が広がった。
ディナーの後は、ハーブティーをすする。父がおもむろに口を開いた。
「――君たち、全員下がってくれ。」
そう言われると、給仕を担当していたメイドが部屋の外に出た。そして父がぱちんと指を鳴らした。さっと私たちの周りに遮断魔法が張られた。
「例のエディットの亡命の件だが、上手く調整できそうだ。端的に言う。私たちはエディット・ユングリングという人物を抹殺する。そして、お前はトヴォー王国でエディー・ユカライネン伯爵令嬢として生きるのだ。」
「抹殺する?」
「ああ。妃教育で知り得た機密情報をもつ君を皇宮が自由にするわけがないからな。ならばいっそ殿下の作戦を逆手にとって先に死んだことにする。」
あまりに斬新な案に困惑する。
「死を偽装とは?死体はどうするのです?」
「エディットは卒業式出席後、皇宮で行われる舞踏会に向かう途中、一人で馬車に乗って死の谷に落ちたことにする。まさかあの谷に落ちた遺体を探し出せという人間はいない。」
死の谷というのは皇宮の北側にある谷だ。非常に深く、仮に落ちたら一溜りもない。しかし、王城の北側には貴族牢のある北の古城や処刑場しかない。皇宮に帝都から入場する場合は南門を使うのが一般的で、北門はあまり使われない。
「舞踏会の入場で、皇宮の北門を使うのは、怪しまれるのではないでしょうか?」
「当日は、エディットは馬車のトラブルで少し遅れて入場すると皇宮に連絡する予定だ。パーティーが始まった後、南門近くでボヤ騒ぎを起こす。それで北門に回ったと言えばきっと怪しまれない。」
「なるほど。」
「もちろん、延焼はしないようにすぐ消火に当たらせるつもりだ。」
「あと私が一人で馬車に乗るというのも違和感があるように思います。婚約者とはいえ、殿下が私をエスコートするとは思えませんし、いつも兄上と一緒にいる私が一人で入場するって言うのは不審がられるのではないでしょうか?」
すると、兄が少し気まずそうに口を挟んだ。
「すまん、エディット。当日、俺はシーラ嬢をエスコートすることになっている。彼女の婚約者のランデル伯爵が、どうしても参加できないようでね。シーラ嬢に頼まれた時は、エディットをエスコートするつもりだと断ったんだが、学生時代の思い出にどうしてもと言われて断りきれなかった。」
「でも、逆に都合がよかったみたいですわ。」
未来視で視た仲睦まじい兄夫婦の様子を思い出した。思わず笑みがこぼれた。
「……今はとてもそんな気分にはなれないけどな。」
兄がため息をついた。
「当日のエディットのエスコートはマティアス殿下に打診済みだ。エディットは卒業式後、すぐにトヴォーへ向かえ。作戦は完璧のはずだが、何か手違いがあるといけないからな。万が一、国境の警備が強化されると困る。」
「分かりましたわ。父上。」
「ユカライネン家の縁戚の子爵家にエディーという女性の貴族籍を作った。既に、ユカライネン伯爵と養子縁組をしてある。君はユカライネン伯爵令嬢として生きていくんだ。伯爵も君をユカライネン家に迎え入れることをとても喜んでくれている。」
「はい。父上。何から何までありがとうございます。私、トヴォーで必ず幸せになります。」
今までのフィーラ帝国での日々を思い、一筋の涙が頬を伝った。しかし同時に、隣国で別人として新たな人生を歩む未来に胸が高鳴った。
今晩は、卒業の前祝いも兼ねて、久しぶりに家族全員で食卓を囲んだ。今夜のメインは、ユングリング領の誇る鴨肉のロースト。私の一番の好物だ。皮はぱりっと香ばしく、噛めば溢れる肉汁に、シェフ特製の甘酸っぱいオレンジソースが絡む。ひと口ごとに、口の中に幸福が広がった。
ディナーの後は、ハーブティーをすする。父がおもむろに口を開いた。
「――君たち、全員下がってくれ。」
そう言われると、給仕を担当していたメイドが部屋の外に出た。そして父がぱちんと指を鳴らした。さっと私たちの周りに遮断魔法が張られた。
「例のエディットの亡命の件だが、上手く調整できそうだ。端的に言う。私たちはエディット・ユングリングという人物を抹殺する。そして、お前はトヴォー王国でエディー・ユカライネン伯爵令嬢として生きるのだ。」
「抹殺する?」
「ああ。妃教育で知り得た機密情報をもつ君を皇宮が自由にするわけがないからな。ならばいっそ殿下の作戦を逆手にとって先に死んだことにする。」
あまりに斬新な案に困惑する。
「死を偽装とは?死体はどうするのです?」
「エディットは卒業式出席後、皇宮で行われる舞踏会に向かう途中、一人で馬車に乗って死の谷に落ちたことにする。まさかあの谷に落ちた遺体を探し出せという人間はいない。」
死の谷というのは皇宮の北側にある谷だ。非常に深く、仮に落ちたら一溜りもない。しかし、王城の北側には貴族牢のある北の古城や処刑場しかない。皇宮に帝都から入場する場合は南門を使うのが一般的で、北門はあまり使われない。
「舞踏会の入場で、皇宮の北門を使うのは、怪しまれるのではないでしょうか?」
「当日は、エディットは馬車のトラブルで少し遅れて入場すると皇宮に連絡する予定だ。パーティーが始まった後、南門近くでボヤ騒ぎを起こす。それで北門に回ったと言えばきっと怪しまれない。」
「なるほど。」
「もちろん、延焼はしないようにすぐ消火に当たらせるつもりだ。」
「あと私が一人で馬車に乗るというのも違和感があるように思います。婚約者とはいえ、殿下が私をエスコートするとは思えませんし、いつも兄上と一緒にいる私が一人で入場するって言うのは不審がられるのではないでしょうか?」
すると、兄が少し気まずそうに口を挟んだ。
「すまん、エディット。当日、俺はシーラ嬢をエスコートすることになっている。彼女の婚約者のランデル伯爵が、どうしても参加できないようでね。シーラ嬢に頼まれた時は、エディットをエスコートするつもりだと断ったんだが、学生時代の思い出にどうしてもと言われて断りきれなかった。」
「でも、逆に都合がよかったみたいですわ。」
未来視で視た仲睦まじい兄夫婦の様子を思い出した。思わず笑みがこぼれた。
「……今はとてもそんな気分にはなれないけどな。」
兄がため息をついた。
「当日のエディットのエスコートはマティアス殿下に打診済みだ。エディットは卒業式後、すぐにトヴォーへ向かえ。作戦は完璧のはずだが、何か手違いがあるといけないからな。万が一、国境の警備が強化されると困る。」
「分かりましたわ。父上。」
「ユカライネン家の縁戚の子爵家にエディーという女性の貴族籍を作った。既に、ユカライネン伯爵と養子縁組をしてある。君はユカライネン伯爵令嬢として生きていくんだ。伯爵も君をユカライネン家に迎え入れることをとても喜んでくれている。」
「はい。父上。何から何までありがとうございます。私、トヴォーで必ず幸せになります。」
今までのフィーラ帝国での日々を思い、一筋の涙が頬を伝った。しかし同時に、隣国で別人として新たな人生を歩む未来に胸が高鳴った。
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