44 / 80
第二幕 トヴォー王国
17. 処刑
しおりを挟む
今までリアスは私を信頼しているのか、何でも話してくれていたが、あの調査書の件だけは言葉を濁したように絶対に教えてくれなかった。おそらくそれに関連した内容で、サリーン男爵が出張に出たが、その行先も教えてもらえなかった。
今週のユカライネン家のタウンハウスはにぎやかだ。義父のパートナーであるフランの晴れ舞台を拝みに、義父が執事のセバスティアンを伴って、王都に出て来ているのだ。なんでもとても権威のある音楽会でビオラを演奏するらしい。
機密事項もあるので、話せる範囲で義父に魔法研究所のことを報告した。エリアス殿下がリアスだったこと、業務で彼に振り回されていること。もちろん、リアスが子どもの姿になっていることは伏せた。これがバレると、第二王子派から命を狙われる可能性があるからだ。
「第一補佐官のお仕事はまるで第三王子のお守りね。」
「でも楽しいですよ。機密事項は教えてもらえないこともありますが。」
「へえ、エリアス殿下、呪われた状態でも、ちゃんとお仕事をしているのね。あ、そういえば、あんたの元カレ、とうとう皇宮を追い出されちゃったらしいわよ。」
「え、マティアス殿下ですか?」
「これはユングリング侯爵から届いた私宛の手紙。こっちはあんた宛のアードルフからの手紙。」
そう言われて、父と兄からの手紙を渡された。父の手紙には事実が淡々と記されていた。
ライラ嬢が媚薬を盛ろうとしたところを現行犯で逮捕されたこと。オングストレーム子爵家の家宅捜索で、ライラの自室からニオ共和国の使者との書簡が発見されたこと。彼女は裁判すら通さず急ぎで処刑されたこと。そして殿下は媚薬の影響が完全に抜けるまで幽閉され、無期限で国防の要とされるボルタ要塞に送られたこと――。
「……彼女、臨月で処刑されたそうです。お腹の子に罪はなかったんじゃないですかね。」
思わず血の気が引き、顔面が真っ青になった。
「マティアス殿下とニオのスパイの子が生まれてしまうと、厄介だと思ったんじゃない?」
義父は然もありなんという表情で、セバスティアンが注いだ紅茶をすすった。
「殿下がボルタ送りになったのも、むしろ功績を立てて再び皇宮に戻るための機会を与えられているようにも思えます。」
「相変わらず皇帝は第一皇子に甘いのね。」
次に、兄からの手紙にも目を通す。前回と同様、冒頭数枚にわたって「愛している」「会えなくて寂しい」といった言葉が、少しずつ言い回しを変えて綴られている。よくもこれだけの熱量で愛を語れるものだと、もはや感心すらしてしまう。
さて"本題"だ。興味深かったのは、ライラ嬢の逮捕が周到に練られた作戦の結果だという点だ。ニオ共和国に送り込んだボンデ伯爵の諜報員が入手した資料をもとに、使用された媚薬の種類を特定し、その効果の持続時間を割り出したという。そして、ライラ嬢がニオ共和国の外交官と接触した日から、次に彼女が媚薬を使用する日を正確に予測した。
そして迎えた当日、案の定、彼女は殿下の紅茶に媚薬を落とした。護衛の騎士がそれを目撃し、殿下が口をつける寸前で彼女を捕らえたという。もちろん、この捕物もボンデ伯爵とベルナドッテ公爵のお手柄。さすがである。
ライラ嬢は取り調べで、殿下の寵愛を取り戻したくて媚薬を使ったと話した。殿下と深く想い合っていたが、いつの頃からか殿下は急に他の女性にも目を向け始め、自分への関心が薄らいでしまった。だから媚薬を使ったと泣きながら訴えたという。スパイ行為については最期まで否定したという。
「殿下、処刑台でライラ嬢のことを、ネズミかゴキブリを見るような目で睨みつけたって。」
「あなたって婚約者がいながら口説いた相手なんでしょう?媚薬の効果が切れたと言っても、一度は政略関係なく愛し合った相手なのに、下衆ね~。」
あの男から離れることができて本当に良かった。心からそう思った。
「ニオ共和国の外交官も諜報活動は否認しているそうよ。媚薬の件も『ライラ嬢に個人的に頼まれて、同郷のよしみで渡しただけで、まさかそんな用途に使うとは思わなかった』と供述しているって。」
ニオ共和国は長きにわたる内乱で産業は荒れ果て、民も疲弊しているという。総統・レンダールは国内批判を封じるために、軍備を拡張し、常に侵略の好機を窺っている。この国にいてもニオ共和国の脅威は同じ。この穏やかな生活が脅かされるかも知れない恐怖に、背筋がぞくりとする。
「――戦争が起きないといいですね。民が傷つくだけですから。」
昔視た"夢"の光景が脳裏によぎる。少し嫌な予感がして、私は深いため息をついた。
今週のユカライネン家のタウンハウスはにぎやかだ。義父のパートナーであるフランの晴れ舞台を拝みに、義父が執事のセバスティアンを伴って、王都に出て来ているのだ。なんでもとても権威のある音楽会でビオラを演奏するらしい。
機密事項もあるので、話せる範囲で義父に魔法研究所のことを報告した。エリアス殿下がリアスだったこと、業務で彼に振り回されていること。もちろん、リアスが子どもの姿になっていることは伏せた。これがバレると、第二王子派から命を狙われる可能性があるからだ。
「第一補佐官のお仕事はまるで第三王子のお守りね。」
「でも楽しいですよ。機密事項は教えてもらえないこともありますが。」
「へえ、エリアス殿下、呪われた状態でも、ちゃんとお仕事をしているのね。あ、そういえば、あんたの元カレ、とうとう皇宮を追い出されちゃったらしいわよ。」
「え、マティアス殿下ですか?」
「これはユングリング侯爵から届いた私宛の手紙。こっちはあんた宛のアードルフからの手紙。」
そう言われて、父と兄からの手紙を渡された。父の手紙には事実が淡々と記されていた。
ライラ嬢が媚薬を盛ろうとしたところを現行犯で逮捕されたこと。オングストレーム子爵家の家宅捜索で、ライラの自室からニオ共和国の使者との書簡が発見されたこと。彼女は裁判すら通さず急ぎで処刑されたこと。そして殿下は媚薬の影響が完全に抜けるまで幽閉され、無期限で国防の要とされるボルタ要塞に送られたこと――。
「……彼女、臨月で処刑されたそうです。お腹の子に罪はなかったんじゃないですかね。」
思わず血の気が引き、顔面が真っ青になった。
「マティアス殿下とニオのスパイの子が生まれてしまうと、厄介だと思ったんじゃない?」
義父は然もありなんという表情で、セバスティアンが注いだ紅茶をすすった。
「殿下がボルタ送りになったのも、むしろ功績を立てて再び皇宮に戻るための機会を与えられているようにも思えます。」
「相変わらず皇帝は第一皇子に甘いのね。」
次に、兄からの手紙にも目を通す。前回と同様、冒頭数枚にわたって「愛している」「会えなくて寂しい」といった言葉が、少しずつ言い回しを変えて綴られている。よくもこれだけの熱量で愛を語れるものだと、もはや感心すらしてしまう。
さて"本題"だ。興味深かったのは、ライラ嬢の逮捕が周到に練られた作戦の結果だという点だ。ニオ共和国に送り込んだボンデ伯爵の諜報員が入手した資料をもとに、使用された媚薬の種類を特定し、その効果の持続時間を割り出したという。そして、ライラ嬢がニオ共和国の外交官と接触した日から、次に彼女が媚薬を使用する日を正確に予測した。
そして迎えた当日、案の定、彼女は殿下の紅茶に媚薬を落とした。護衛の騎士がそれを目撃し、殿下が口をつける寸前で彼女を捕らえたという。もちろん、この捕物もボンデ伯爵とベルナドッテ公爵のお手柄。さすがである。
ライラ嬢は取り調べで、殿下の寵愛を取り戻したくて媚薬を使ったと話した。殿下と深く想い合っていたが、いつの頃からか殿下は急に他の女性にも目を向け始め、自分への関心が薄らいでしまった。だから媚薬を使ったと泣きながら訴えたという。スパイ行為については最期まで否定したという。
「殿下、処刑台でライラ嬢のことを、ネズミかゴキブリを見るような目で睨みつけたって。」
「あなたって婚約者がいながら口説いた相手なんでしょう?媚薬の効果が切れたと言っても、一度は政略関係なく愛し合った相手なのに、下衆ね~。」
あの男から離れることができて本当に良かった。心からそう思った。
「ニオ共和国の外交官も諜報活動は否認しているそうよ。媚薬の件も『ライラ嬢に個人的に頼まれて、同郷のよしみで渡しただけで、まさかそんな用途に使うとは思わなかった』と供述しているって。」
ニオ共和国は長きにわたる内乱で産業は荒れ果て、民も疲弊しているという。総統・レンダールは国内批判を封じるために、軍備を拡張し、常に侵略の好機を窺っている。この国にいてもニオ共和国の脅威は同じ。この穏やかな生活が脅かされるかも知れない恐怖に、背筋がぞくりとする。
「――戦争が起きないといいですね。民が傷つくだけですから。」
昔視た"夢"の光景が脳裏によぎる。少し嫌な予感がして、私は深いため息をついた。
93
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる