戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう

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第五幕 戦争

9. 凱旋

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 王都に帰ってしばらくは、リアスに振り回されて、研究所に顔を出せなかった。王族の婚約者になるためには、色々な手続きと挨拶が必要なのだ。王のもとへ謁見に行くと、リアスの呪いが解けたことを泣いて喜ばれた。私のことも気に入ってくれているようで、「早く彼女に妃教育を」と仰せになったが、リアスが俺は王太子にならないと譲らず、これを退けた。

 私の身分や亡命に関しても、故・マティアス皇子による私の暗殺計画があったと父が告発したことで、フィーラ帝国から文句を言われることはなかった。婚約の見届け人として、ユングリングの実家からは兄がトヴォーに来てくれた。

「エディットー!会いたかった!」

「兄上!」

「愛する妹が戦争に巻き込まれたと聞いて、気が気じゃなかったよ。怪我はなかったかい?それと婚約おめでとう。」

「ええ、この通り私は元気です!亡命や身分の件も色々手をまわして下さって、ありがとうございます。」

「ああ、あれは父上が上手くやってくれたから。もしエリアス殿下がマティアス殿下みたいに浮気をしたら、いつでもフィーラに戻ってこい。我がユングリング家は大歓迎だ。」

「ふふ兄上、リアスはそんな人じゃありませんよ。マティアス殿下が自爆した時も私を庇ってくれましたし。それに何があっても義父上が私の味方です。そうだ!シーラ様はどうされています?」

 フィーラのボルタ要塞は殿下の自爆で半壊、シーラ様の婚約者であったランデル伯爵の遺体は見つかっていない。

「ああ。シーラ嬢は喪に服しているよ。大丈夫。喪が明ければ彼女ならすぐに新しい婚約の申し込みがあるだろう。そうそう、学院も臨時教員から正式な教員になることが決まったらしい。焦って結婚しなくても、このまま教員を続けるのでもいいし、魔法高等学院に進むのも悪くない。」

「兄上も頑張って下さいね?」

 兄は何を頑張るのか分からないという顔をした。この人は自分のことになるとひどく鈍感だ。

 婚約の発表は、戦争勝利の凱旋と同じ日に行われることになった。王宮の豪奢な一室。目の前にリアスが立っている。胸に勲章がたくさんついた騎士服を着て。私もドレスに魔法大会でもらった王冠瑠璃勲章を付けた。

 リアスが、はにかむように微笑んで言った。

「――愛しているよ、エディット。」

 私はこの場面を覚えている。未来視で視たあのシーン。断罪される未来を回避して、リアスと共に生きる未来を現実のものにできた。そのことがうれしくて、涙が一筋零れた。

「私もよ。リアス。」

 今日はリアスの希望で、髪と瞳の色は元の銀髪と菫色に戻した。少し開いた窓から心地よい風が室内に入り、銀糸のような髪が風に靡く。

「そうだ。ちょっと右手を貸して。」

 私の手を取ると、小指にはめられたピンキーリングを外す。

「どうしたの?」

「トランスムターレ――変成。」

 指輪がまばゆい光に包まれた。思わず目を細めた次の瞬間――光は静かに消え、ピンキーリングが結婚指輪へと姿を変えていた。リアスは静かに片膝をつき、私の左手を取る。そして、薬指にそっと指輪をはめた。宝玉は先ほどまでと比べ物にならないほど大きく、燃えるように赤く輝いている。私は思わずその美しさに息をのんだ。

「――きれい。」
 
「それ、勝手に外せないようになっているから。では、行こうか。」

 リアスが悪戯っぽく笑った。

 その日は大忙しだった。まずは王宮で『王冠紅玉勲章』を受勲され、そのまま婚約発表。会場全体から割れんばかりの拍手が沸き上がった。王の傍らには、王妃、側妃、ユーリアス殿下、カスペル殿下とその妃が並んでいる。リアスがこっそり耳打ちして教えてくれたが、こうして王室が全員揃うのは最近では珍しいらしい。側妃、カスペル殿下とその妃が下を向いたまま、こちらを見ようとしないのが少し気になった。リアスにエスコートされて、そのまま列に戻る。

 私たちの後も戦争功労者の受勲は続いた。すべての受勲が終わると、バルコニーに立って、集まった民衆に婚約の挨拶をした。それから婚約記念パレードのため馬車に乗った。街には戦争の英雄を一目見ようと、多くの民衆が集まっていた。温かな歓声が私たちを出迎える。

「エリアス殿下!婚約おめでとう!」

「戦闘狂令嬢、おめでとう!氷龍みたい!」

 トヴォーは歴史ある国だが、平民と王族の距離感がフィーラよりも近いように感じた。これからは、エリアス殿下の婚約者として、ゆくゆくは彼の妻として、この国にこの身を捧げていく。そんな覚悟を固めていると、軽くエリアスに腰を抱かれた。

「エディットまた、この国を守るとか思っていない?」

「え、そうだけど、なにかダメなの?」

「俺はエディットのそういうところも好きだけど、今度は俺にエディットのことを守らせて。そのために結婚するんだから。」

 そう言うと、リアスが私の額に軽くキスを落とした。集まった民衆から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。この先、リアスとなら、どんな未来を視ても変えていける。キスのお返しに、リアスの胸に飛び込んだ。

***
ここまで『戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました』読んで頂きありがとうございました!!一旦、キリがいいところで完結させて頂きます。
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