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序
1.始まり
しおりを挟む寿美田 幸春、年齢35歳、社畜の独身男性だった…
どうなったかの記憶はほとんどないが、意識が飛ぶ前、うっすらと覚えているのは悲鳴と救急車の警告灯のみだった…
★
目を開ければ、見慣れぬ天井が目に入る。身体に多少の違和感はあるものの、身体の痛みはなく、健康そうなので安心した。
そして、声を出そうとしてビビったね。「あ~」やら「う~」やらしか出ないんだ。
しかも、可愛らしいお声…
訳がわからず、手を伸ばすと―…見知った自分の手とは程遠い綺麗できめ細かい色白な手…赤ちゃん特有のムッチリした手が眼前にさらされる。
そこで漸く自分が小さくなっている事に気づく…
状況を整理しようと顔を振ると、横には小さい男の子…人間だと思いきや、違った。
頭に獣の耳が生えており、見慣れぬソレに状況を飲み込めず、「まさか」と思い、恐る恐る自分の頭に手を伸ばすと、ふさふさした小さめのソレの感触…訳がわからずギャン泣きして熱を出し、今の両親を困らせたものだ…
ちなみに横に居た男の子は俺の双子の兄だった。しかも、耳だけではなく尻尾もあったけど、その他は人間の造りと一緒だった。
この姿は人獣化というらしい。普通はこの姿で生活するが、獣化もできるようになるんだとか…後で確認した…
まぁ、確認したと言っても、『こちらは双子の兄であるフェルノ様ですよ~ウィル様。』やら『この人獣化のお姿も大変お美しいですが、獣化も大変お美しいのでしょうね』なんて世話係たちが、うっとりとして話していたのを聞いただけなんだけど…
……それはさておき、この世界…地球に似てはいるが、違うところも沢山ある。
俺が生まれ変わったであろうこの世界には男しか居ないという女性を知っている身としては拷問に近い世界だった。
言葉に語弊があった。俺は無節操ではないぞ!女を取っ替え引っ替えなんてしてなかったしな!
一途だったと自負している!まぁ、それが仇になったんだけどな!
高校の時に付き合った彼女がいて、結婚も約束して、大学を卒業後、漸く婚約する事ができて…
「あぁ、やっとだ…」と思っていた矢先の式前夜に彼女の浮気が発覚…そして、修羅場になったんだ…
しかも、数人彼氏が居たという驚愕のおまけ付き…
泣きながら土下座まで披露してくれた…
慰謝料などいろいろなものを彼女の実家が立て替える事となった。拒否権なんて無かったけど…
もちろん俺の両親や兄も激怒…俺もキレた。
人生で初めてキレて、その後泣いた気がする…
彼女の実家が経営する会社との契約も取り消し…
彼女両親の顔は真っ青、大激怒に彼女に平手打ち彼女は大泣き…
正式に弁護士を立てて相手方にも慰謝料請求…
既婚者にまで手を出していたのにはドン引きした。
結構な修羅場だったと思う。まぁ、両親の対応が早すぎて殆んど出る幕なんて無かったわけだが…
もう、それから『女恐怖症』になって、『仕事が恋人』って感じで、ただの社畜になったんだけど…
ま、俺は次男だったから重役止まりではあったが―…しっかりと兄を支えていたとは思う…いや、そう思いたい…
前世の記憶として残ってる嫌な事まで思い出したわ…
★
………話がズレたな、話を戻そう…
俺の両親も、もちろん男…ちなみにどちらも美男だった…
容姿の偏差値、すげぇな。と思ったのが第一印象だ…
話が逸れてしまったが、どう子どもを成すのかと言えば…
『婚礼の儀』なるものを執り行い、『契りの盃』なるものを交わし、お互いに飲む。
順番は種付する側から飲み、次に種付される側が飲む。
すると『番』なるものになる。
めでたく伴侶となるわけだ…
嫁いできた側で『婚礼の儀』に望んだ番は子を孕む事ができる身体に変化するらしい…
不思議な現象だと思う。無理に理解しようとするだけムダだと思うから―…そういうものだと思う事にしている。
はっきり言おう…種付なんてされたくないぞ!俺は!
話を戻すと、この世界には多種族が生きているようで、『族』というものがある。
ちなみに俺は本家筋とやらの『狼族』に生まれ、『狼族』に属しているようだ。
両親ともに純粋な狼の血である…
分家筋は片方が別の『族』の者を娶る事が多い。
本家筋は極少数に存在する『狼の血』しか入っていない純血の者同士が『婚礼の儀』により伴侶となる。
分家筋の事で付け足すなら、こちらは数も多い。
混血とも言われている…
例をあげるならば、『分家の狼族』から『分家の猫族』へ嫁いで行った場合には『猫の子ども』しか生まれない。
逆に『分家の猫族』が『分家の狼族』に嫁いできた場合には『狼の子ども』しか生まれない。という事があげられる。
例外はない…
人間は居るといえば居る…極少数しか人間は居らず『人間族』と呼ばれている。
俺の属している『狼族』や『犬族』やら『猫族』、『兎族』など他にもいろいろと『族』は存在しているが、面倒なので割愛しておく。
人口としては、どこかの『族』の生まれの奴が多いという感じだ。
ちなみに人間族はレアではある…ある意味な…
『婚礼の儀』を行わなくても孕む事ができるので、愛人もしくはペットとして迎え入れられる事が多い。
ちなみに 『族』の社会には優先順位があり、頂点に立つのが『ライオン族』である。次に『狼族』など肉食系の『族』が上位を占めている。
肉食系の下には草食系の種族がおり、察しの通り、『人間族』は一番下…最下位だ。
生まれてこの方、『人間族』を見たことがない。
『人間族』はおいといて、日常の生活といえば、元いた世界…生まれ変わる前…前世とでも言うのか…
それと殆んど同じなので、全く困らなかった。勉強もかなりランクが下がっている。
ゆとり教育のゆとり教育と言った感じで覚える範囲も狭い…
これでよく経済が回ってんな!と思った事も記憶に新しい…
家庭教師が出した問題を普通に解いて『神童』扱いされたのはびっくりした…
生きてきた中で1番の痛恨のミスと言っても過言ではなかった…
それはそうだろう…俺には同い年の兄が居る。
弟が褒め称えられるのを恨めしそうに見つめる兄…
皆は気づいていなかったが、俺にはダイレクトに伝わった兄の心情…
故に兄弟仲は、それほどよろしくない…
「『狼族』を率いるのはウィル様かもしれませんね。」なんて言われたことも数知れず…
その都度、「止めてくれ」と心の中で言ったものだ…
言葉に出すと、皆、息を飲む…経験済みだ。
普通に会話も出来ない…それほどまでに俺の顔がヤバいのだと言えよう…
舌打ちしそうな勢いで眉間に皺を寄せると、皆、息を飲み、涙を溜める…そして、俯いて震えながら俺に謝ると、足早に去るのだ…
典型的なボッチとは俺の事を言うのだろうな…
あ、今さらだけど、ウィルとは俺の今の名前…ちなみに姓は無い。
家の者以外からは『〇〇族』の〇〇と表現されるのが当たり前だ。
付け足すなら、本家の〇〇みたいな表現もされる時がある。分家なら混血と表現される…
俺の事なら『本家のウィル』、『狼族のウィル』と呼ぶ。
俺はこのまま、兄弟間の問題を抱えて、ボッチのまま生きていくのだと思っていた…あの日までは…
出会いはそう、あの日記帳と呼べるのか分からないが、ヤバい手帳を拾った中学2年の春だった…
*
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