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鬼の花嫁―本編―
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しおりを挟む目覚めると先程よりも朝日が昇っている。てっきり紅輝は起きているのかと思ったが僕を抱き込んだまま眠っていた。
その表情は穏やかで、あどけない表情だった。普段と違う表情に顔が勝手ににやける。
抱き込んでいる腕の力は全く緩んでいない。
紅輝は扉に背を向けており、僕の背は壁に向いている形で布団に寝ている。
護られている感じがして凄く安心する。
まぁ、実際そうなんだろう。
ホッと息をつき紅輝の背中に腕を回して抱きついた。
自ら紅輝にぎゅうぎゅう抱きついていると背中に回っていた手が僕の背中を撫でた。
少し強めに抱き締められ密着した後、ソッと離れていく。見上げると目があった。
「ごめん。起こした?」
「いや、いつきが起きると自然に起きるから。起こされたうちに入らない」
なんて言いながら優しく笑んでいる。いたたまれなくなってしまったので紅輝の肩口に顔を埋めて擦り寄った。リアクションに困る。
紅輝はクスリと笑って僕の頭を撫でている。
匂いを吸い込んでゆっくり息を吐き出すと顔を上げて起き上がる。
すると紅輝もそれに続いて起き上がった。
「起きるのか?」
「うん。今日はどうするの?」
「いつきはどこか行きたい場所とかあるか?」
というその問いかけに『うーん、うーん』悩んでいると、紅輝は微笑ましそうに僕を見つめている。
今日はホテルに泊まるから。目的地に行く道すがら適当に観光地巡ってホテルに行くか。という話しになったので、朝食を食べて出発することにした。
着替えて朝食を食べている。夕食はガッツリ食べる感じだったけれど朝食は軽く食べられるものだった。
だから思わず食べ過ぎてしまった。だが、紅輝はいつも僕より食べる量が多いので、食べた料理の量はいつもと同じくらいだと思う。
いつもお互いが食べる分量しか料理しないから、食べ過ぎたとはいえ食材の量が多かったので完食できず、残した時はどうしようと思ったけど、紅輝がペロリと食べてくれた。感謝しかない。
★
朝食を食べた後、チェックアウトして車に乗り込むと車は緩やかに発進した。
車で走りながら観光スポットを探してそこへ向かう。という話になったので観光ガイドもしっかり買った。
今日、巡れるだけ巡って、明日はホテルでゆっくりしてから帰ろうという事になった。
最初は学業に関する事で有名な神社に行こうという話しになった。
僕は道中のルートなんてからっきしだったけれど、紅輝は違ったようで、普通に行く事が決定した。
僕は生まれてから1回も旅行なんて経験したことなかったから何だか嬉しくてニコニコしていたと思う。
何より紅輝が一緒というのが凄く嬉しい。
おみくじを引いたり、お守りを買ったりもした。舞さんたちにもお土産を買おうという話しになった。
「要らないだろ」
「お世話になってるから買いたい」
「そうか。なら、いつきが選んでやれば良い。俺からなんて気味悪がって受け取ったりしないからな。」
なんて言いながら目尻を下げた。僕の好きにさせてくれるらしい。
僕が何をしても優しく見守ってくれている。失敗しても怒ったりしない。
それどころかアドバイスをくれたり、然り気無くフォローしてくれたりする。
何だかそれが凄く申し訳ない気持ちになって落ち込んだりもした。
「いつきの笑顔が見たいからしているだけだし、気にしなくて良い。いつきが楽しいと俺も楽しい。そんな悲しい顔されると俺も悲しくなる。」
なんて愁いを帯びた顔で言われて泣きそうになった。
これには紅輝が凄く焦ってしまって、あれやこれやと手を尽くして僕を笑顔にしようと頑張ってくれた。
喜ばせ方が子どもにするやつだったので思わず笑ってしまったけど。
どこの情報かと聞けば雑誌やら本やらネットで調べたらしい。ご機嫌取りとかしたことないし、なによりする必要もなかったから分からなかったのだとか…
「まぁ、笑ったんだから結果オーライだろう」と言ってばつが悪そうに頭を掻いて明後日の方向を向いたが、その耳はほんのり赤く染まっていた。
微笑ましい限りである…なんて暢気に考えていたけど…
次にこちらを見た時に「今度はもっと上手くやるから」と意気込んで、ふわりと笑みを浮かべるものだから、何だか心が落ち着かない、むず痒い気持ちになってしまって、今度はこちらが赤面する番だった。
紅輝は僕に甘すぎると思う。
いたたまれなくなって、強引に話を反らしたが多分バレている。僕が恥ずかしがった時に見せる表情だったのがその証拠。
他にも食べ歩きもしたし、最初に行った所とは別の神社も一通り巡ったし、世界遺産を見に行ったりとかもした。
観光ガイドを見ながら「ここからならこっちが近いから~」とか「このルートだとこっちにも行けるね」とか話しながら次の目的地を決めるのも楽しかった。
僕が興味を持ったお土産ものを片っ端から買おうとするから止めるのに苦労したけど、それも引っ括めて楽しかった。あの頃の僕では考えられなかった事だと思う。
紅輝は言葉通り僕が楽しそうに笑っていると優しい雰囲気を醸し出す。心なしか本当に紅輝も楽しそうに見える。
それを見て更に楽しくて嬉しい幸せな気持ちになるのだから僕も相当だな、なんて思う。
楽しい雰囲気だったんだけど、1回気にしてしまうとどうしても気になって仕方ないことがある。
周りの視線だ。僕は地味だから目立たないんだけど、紅輝はイケメンというやつで、歩いているだけで振り向かれるし騒がれる。
紅輝自身まるで気にした様子はないが、僕は周りの目を気にしてしまう。
これはお土産を選んでいる時だった。相変わらず紅輝は僕から離れなかったけれど、たまたま、本当にたまたま僕の耳が拾ってしまったんだ。
「あの人、かっこ良くない?モデルさん?」
「ヤバい超イケメンなんだけど!絶対αでしょ」
「声、かけてみる?」
狙っちゃおうかな。なんて声もあった。
他にもいろいろ騒いでいたけど、僕の存在を認識すると途端に怪訝そうな顔をする。
「あの地味なの誰?」
「連れでしょ?」
「いや、でもあれって噛み跡でしょ?」
「何か刺青までいれてるんだけど?」
「違うよ。あれって鬼の紋章でしょ?」
「えっマジ?初めて見たんだけど紋章ってやつ」
「あの地味なのが勝ち組とか何かムカつく。」
「隣のイケメンって鬼って事になるね。」
「あの地味なのがあの鬼の番ってこと?」
「いや、いや、あり得ないでしょ。あんなΩが番とか…ほら、あれだよ!あれ!たまに居るんでしょ?地味な鬼!それの番でしょ?」
「私なら絶対に選ばないわ。あんなの。立場弁えろよΩのくせに」
なんて言いながら嘲りを含んで嗤っている。
その言葉で楽しかった気分が萎んでいく。紅輝はその心境の変化に気がついたのだろう。
心配そうに「どうした?」とか「何かいつきが嫌がる事をしてしまったか?」など聞いてくる。
紅輝の言葉に違うと首を振るが納得していないような顔をしていたので、意を決して理由を話す。
「女の人、紅輝の事を見て騒いでるよ?」
「そうか?俺はお前しか見ていないから他は興味ないし、視界にも入らない…だから、幾ら騒いでいようが俺にはどうでも良い…」
なんて即答されてしまい思わず両手で顔を覆ってしまい赤面してしまったのだが、次に紅輝の口から飛び出した言葉に固まる事になった。
「だが―…いつきとの時間を邪魔されるのはいただけないな…気になるなら消えてもらうか?穏便に…な…」
そう言った紅輝は本当に行動を起こしそうだったので、必死に止めた。それはもう凄く必死にだった。
思い止まってくれたその際に紅輝が僕の方を向いて見せた笑顔が不意打ちすぎて、さらに真っ赤になり思わず膝から崩れ落ちそうになったのは仕方ない事だと思う。
崩れ落ちる前に紅輝に支えられてしまったが…
いろいろとあったけれど、ホテルに向かう。
ホテルに着く頃には太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。
*
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