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鬼の花嫁―本編―
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しおりを挟むいろいろとあったけど、あれから何度かお義母さんやお義父さんともメールをしたりしている。関係は良好だと思う。
僕はお義母さんとのやり取りの方が多いが、紅輝はお義父さんとのやり取りの方が多いらしい。
惚気を聞かされて顔をしかめている紅輝は素直に可愛い。本人には言わないけど…
本人曰く「政義の痴態なんて例えうっかり氷夜が喋ったとしても複雑になるだけだ…出来れば聞きたくない」らしい。
しかも、痴態をうっかり言った後、「くそっ…俺だけが知っている政義なのに!何か減った気分だ!」と悪態をついてくるのが「うぜぇ」とのこと…
ごめんなさい。うっかりお義父さんの痴態も聞いちゃってます…長年連れ添うと似てくるものなんですね。としか思わない。
まぁ、僕の場合はお義母さんに悪態をつかれることはない…「誰にも言わないでね!」と口止めはされるけど…
いろいろとあったけど、学校も復興し、卒業を近々控えている…
発情期の前日の日……。
紅輝が珍しく軽い風邪を引いた。申し訳ない事に僕の風邪が移ってしまった…
紅輝が風邪を引いたと聞いて皆は驚いていたが、理由を聞くと納得してしまった。
『え、何で?』と思ったが、皆は何か思うような事があったのか曖昧に言葉を濁し「鬼なら普通の事だ」という事を言われた。
これが普通って『ど~ゆ~こと~?』である…
診察した翼曰く、鬼なら1日で治るだろうとのことなので、一応、処方された薬を飲んでベッドに横になってもらっている。
起き上がろうとしてきたが、ベッドに押し込んだ。
珍しい事に紅輝は一切、僕にキスをしてこない。
「風邪が移るとダメだから。」という事で食事の時以外はマスクを着用している。
僕が移してしまったし、大丈夫だよと言うと、油断はしない方が良いと言われてしまったので黙るしかない。
僕がマスクをしていないことに吃驚されてしまい注意をされたので、「大丈夫だよ」と言ったが、紅輝自身が凄く気にするらしい。大人しくマスクを着用した。
今日は紅輝に尽くすのだと意気込んで朝から紅輝のお世話をしている。
流石にトイレは連れていけないので、トイレは普通に行ってもらっている。
トイレから出たら手を洗って寝室に戻る事、今日1日は家事の一切をしない事を約束しているので、今のところ守ってくれている。
その代わりの約束が、『いつきは部屋から出ない事、危ない事はしない』だった。出る理由もなかったので頷いておいた。
僕の発情期に必要な物の手配と準備は紅輝が既に済ませてしまっているので、発情期の事は心配しなくても大丈夫なんだけど―…
★
言い方は悪いかもしれないが、今回のこの風邪を利用して、いつもしてもらっている分を少しでも返そうと思っていた…
なので、朝と昼は消化に良いものを作った。夜は元気そうなので紅輝の好物を…と思ったけど、よくよく考えてみると―…
料理は紅輝と作っているので、紅輝の好物が全く分からない。紅輝はバランスも良いが味も料理も僕の好みをささっと作ってしまう。
何故か僕の事を凄く知っている。紅輝に聞けば見てれば分かるらしい。
味付けはどうする?と聞くと「いつきの好みで良い」なんて言うし…
紅輝は本来、どういった味付けが好みなのかも分からないのだ…
趣向を凝らして作っても全部「美味い」と食べてしまう。ダメ元で好き嫌いが分かれる納豆を出した時もあったが、普通に食べてしまったので好きなのか、嫌いなのかすら分からなかった。
他にも激甘のものから激辛のもの、酸っぱいものとか苦いものまで出したけど…全く表情に出ないし、箸が止まる事もない…食べる量も普段と全く変わらない。
失敗して謝っても「食べれなくはないし大丈夫だから気にしなくて良い。そういう時もあるだろ」というフォローまでして完食してくれるのだ。
これが、他の者ならば、「お前、料理なめてるのか?」という捨て台詞と共に「不味い…お前、もう作らない方が良いだろ。治るものも治らなくなるぞ…嫁に任せろよ」と言ってバッサリ切り捨てるのだ…
これ全部、番が風邪を引いたからと普段は全く料理をしない椿が家に教わりに来た時に横で聞いた台詞だけどね!
椿は半泣きになりながらも「これは俺の役目だ!」と言って紅輝に教わっていた。愛って偉大だよね…
それにしても、紅輝は僕に甘すぎるよ!
困り果てた僕は考えた末、お義母さんにメールを送信した。
そして、今まさに返信待ちである…
★
待つこと数分、電話を知らせる着信音が鳴った。お義母さんからである。慌てて出ると凄く落ち着いた声が返ってきた。
「紅輝でも風邪引く事とかあるんだ。」
「僕が移してしまって…」
「どうせあれでしょ?弱ってる君に我慢できずにキスとかしまくったんでしょ?」
なんて言う少し呆れた声音に対して僕は…「あー」とか「うー」とか意味のない声しか出なかった。
やはりというべきなのか…苦笑いの混じった声で「仕方ない子だね」と言って笑っていた。
電話越しでも、その声と同じであろう、表情は想像できた…
そして、本題である。
凄く真剣な声で紅輝の好物を聞くと、すっとんきょうな声を上げた。
ハッとしたのだろう咳払いをした後、謝ってくれた。
「紅輝の好物、ねぇ…カボチャを使った料理と牛乳プリンが好きだったと思うけど…いつき君と出会って好みが変わってなければの話だからね。見てくれは高級料理食べ飽きてるでしょって感じだけどわりと庶民的だよ。」
なんて言って笑っている。
電話越しで何度もお礼を言って頭を下げまくっているとトイレから出てきた紅輝と目が合った。
不思議そうにはしたものの、一旦、僕の前を通り過ぎ、洗面所で手を洗い近づいてくる。
すると、再び僕の方を見て首を傾げてた。
「誰だ?」という訝しげな紅輝の声が聞こえたのか、お義母さんは「あ、近くに紅輝、居るの?」と聞いてきた…
それを肯定すると、「少し代わってくれるかな?」と言われたので紅輝と交代する。
「あー、政義か。」と言った後、会話している。お義母さんの声は聞こえない。
内容自体は分からないが「………は?仕方ないだろ」とか「……そっちもヤってるだろ。」とか言っており、溜め息をついている。
何度か相槌を打ち会話をした後、僕に代わる事なく切ってしまった。
そして、僕の方を見ると開口一番「政義に何か吹き込まれた?」だった。
特に何も吹き込まれていないのでポカーンとしていると、安堵の息をつき頷くと僕にスマホを返して寝室へ入って行った。
それを見送った後、冷蔵庫を開けて食材を出していく。今日はカボチャメインの料理にしようと思う。
残念ながら牛乳プリンは無い。作る材料も無い…
★
紅輝には先にお風呂に入ってもらった。
その間に料理をテーブルに運んでおく。
お風呂に入ったあと、リビングに来てもらった。
その時に夕飯を見て、少し驚いたようだったが、お義母さんから聞き出した事を察したらしい紅輝は遠慮がちに僕の頭を撫でてお礼を言ってきた。
好物を紅輝に聞いても「いつきが作ったものなら全て美味しく感じる」らしいので、あてにならなかったのだ。
牛乳プリンが無いことを詫びると、これで十分だ。と言って今度は抱き締められた。
好物は変わっていなかったようだ。紅輝は食べた後、歯を磨いて寝室へ入って行った。
僕は洗い物をして、お風呂に入って、洗濯をし、洗濯籠を持って寝室の扉を開く。
ベッドヘッドに凭れてスマホを操作しているではないか…
『じとー』って感じで見ている僕の視線を感じたらしい紅輝は目が合うと困ったように苦笑いを浮かべた。
直後、スマホをサイドテーブルにソッと置くと、おずおずと布団の中に入って行った。ちょっと可愛い…
ベランダのサンルームに洗濯を干し終わると、漸く歯磨きをする。
終わると戸締まりなどを確認してから寝室に向かい紅輝の横に滑り込んだのだった。
*
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