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本編
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しおりを挟むあれからさらに5年が経ち紅輝は15歳となった…。僕と氷夜の左手薬指には結婚指輪が光っている。幸せの象徴だ。
あの日から月日が経った頃、一度だけ氷夜に聞かれた事がある…。
「もう一人の息子に会いたいか?」と…正直に言うと迷った。
氷夜は僕が会いたいと言えばもう一人の息子である幸信に会わせてくれるつもりで居るのだろう。
「迷っても良いから、じっくり考えろ。けど…寿命が来る前に決めてくれ。」
そう言われた。僕は半年くらい葛藤したが、結局、会うという選択はしなかった。
けれど、聞いた。あの子は今、どうしているのかと…恐らくあの子は20歳、もしくは21歳くらいになっている頃だろう…。
氷夜は事前に調べておいてくれたのか、教えてくれた。
あの子は月宮を出て星宮の養子となっており、星宮の繁栄に尽力しているようだ。
その功績を讃えられ、最年少で星宮の当主を担う事になるらしい…。
襲名は来春になるようだ。それと同時に星宮の長女と星宮本殿で婚礼の儀を執り行うらしい。
月宮にムリヤリ婚約などをさせられたのかと心配したが、どうやら全て本人が仕組んで、実行したようだ。
しかも、驚いた事に、既に星宮家と星宮の分家は信頼できる家臣たちと共に山を下りているという…。
実質な月宮もとい、『本山』との別離とも言える。
それを聞いて安心した。もし、駒のように扱われていたら目も当てられない…。
母である僕の事はずっと気にかけてくれているようだが、僕はもう、『人間』の寿命とは異なるし、『鬼』と共に居ることを選んだ…。
異なる時間を生きる事になる僕はもう、あの子に会うべきではないのでは?
それにあの子なりに前を向いて歩んでいるようにも見受けられる。
生きてるか死んでるかも分からない自分を思いつつも、それを受け入れて、僕が居ない人生にも慣れてきたところだろう…。
今更、あの子の心を掻き乱し、人生を引っ掻き回すのもどうなのか?
氷夜にその気持ちを吐露すると、優しい瞳を向けて僕を見ている。
「ねぇ、氷夜。1つ聞いても良い?」
「ん?なんだ?」
「幸信は…あの子は幸せになってる?」
「幸せの定義は人それぞれ違うからな…断定はできないが、お前の事を除けば笑えている方だと思うが?」
そう言って僕を膝に座らせて優しく頭を撫でている。そして、髪の毛を梳くように撫でた後、横で緩く結い上げる。
「そう、あの子はちゃんと笑えているんだね…良かった」
「う…その笑顔が別の男の為の、というのが気に入らないが…ギリギリ許容範囲だ…。ギリギリな…。ギリギリだぞ…。ギリギリ許容範囲なんだからな!」
ギリギリを強調しまくる氷夜に今度は別の笑みが浮かんだ。『気に入らない』と断言しているのに、許容範囲とかあるのか。などと愚かな事は言うまい…。
「ふふ、ギリギリ許容範囲なんだね。」
「っ…政義が可愛すぎて押し倒したくなる…。」
そう言って僕の肩に顔を埋めてしまった。そして、僕が痛がらない程度の強さでグリグリと額を擦り付けてくる。氷夜が甘えてきている時の仕草の1つ…。
「んっ…、昨日もシたのに?」
「言っただろう…いつでもお前と繋がっていたいって…」
「氷夜のえっち。」
「相手が政義だからな。仕方ない」
そう言ってクスクス笑った氷夜がペロリと紋章を舐めてきて、僕の身体は正直にヒクンと反応した。
『もう!』という意味を込めて頭をグシャグシャに撫で回すと氷夜はクスッと笑って顔を上げた。
「それで?どうするんだ?会うのか?会わないのか?」
氷夜はボサボサになった頭で僕を見る。イケメンはどんな髪型でも仕草でも似合うらしい…。
ちなみに『イケメン』とは『イケてるメンツ』の略で『美男』という意味を持っていると最近、知った…。
小説で読んで知った…。なんと便利な言葉だろうと感動したのは記憶に新しい…。
横文字にも馴れて、横文字を使えるようになった。少し成長した自分に感動したのは秘密だ。
『ふふ』っと笑って氷夜を見ると僕は口を開く…。
「そうだね。止めておくよ。会わない方が良い気がするから…」
「俺の事は気にしなくて良いんだぞ?」
そう言って僕の頬を軽く手の甲で撫でた。何だかんだで僕に甘い氷夜だからその辺は心配していない…。
これは、氷夜を気にしているのではなく…僕の『感』である。
「氷夜の事は気にしてないよ?」
僕がそう言うと氷夜はピクリと固まった。
「え…マジか…気にしないの?」
なんて、ちょっと悲しそうなのが可愛く思えて僕は氷夜の頬に手を添えて、触れるだけのキスをした。
「氷夜は僕に甘いからね。自分が嫌だったとしても最終的に僕の希望を叶える為に動いちゃうでしょ?」
「……否定できない…。というか、知らないだろ。政義、お前の笑顔、めちゃくちゃ可愛いんだぞ。他の奴には見られたくないくらいだ。俺はその可愛い笑顔を見たいが為に動くんだけどな。」
そう言って笑みを浮かべると、氷夜からお返しのキスをされた。
「ン、んぅ…」
しかも、徐々に深くなっていくソレに腰が抜けそうになった頃、突如、別方向から咳払いが聞こえた。
「帰ったんだけど?」
という声は紅輝のものだった。しかも、呆れを含んでいる。
氷夜はというと…ムッとはしているものの、気まずさもあるのか形容し難い顔をしているのが面白かった。
「ほらぁ…直ぐに2人の世界に入ろうとする。おかげでこっちの用事が全く済まん!ちったぁ我慢しろ!!」
「紅輝…お前、見たか?見てしまったのか?」
「は?何だよ?」
「政義の可愛い顔を見てしまったのか?と聞いている。」
「凄っっっく真面目な顔して何言ってんだ?興味ねーよ。」
コントみたいなやりとりを続けている2人を微笑ましく見ている。
「興味ある。無し。の話ではなく…政義がキスで蕩けきっている顔を見られたか、そうでないかの問題なんだ。『番』のそういう顔を見て良いのは自分だけだからな。」
「そういうモンか?」
「そういうモンだ。『番』ができれば、お前も分かる!絶対だ。断言する。」
「俺に寄ってくるオメガなんて『神木』の恩恵に与ろうとしてくるヤツばっかりだぞ…。嫌気がさすね。」
吐き捨てるように放った紅輝の言葉はどこか嘲りを含んでいた。
そう、『鬼』社会は『強い鬼』であればあるほど、恩恵、待遇も良くなる…。『家族カード』に支払われる金額が高くなるとでも言うのか…恩恵は他にもあるが…分かりやすいのであれば、やっぱり『家族カード』と『口座』だろう…。
僕も氷夜から貰った『番』専用の『家族カード』…。『嫁』には発行されないもの。『家族カード』を持っている事によって手続きがスムーズに進む。一々、本籍をおこす必要もない。
後は『鬼の口座』である。ココには上が決めた基準に従って毎月、決まった金額が支給される。
この『鬼の口座』は『神木』は勿論、『下層』の『鬼』までの全ての『鬼』が持っている。
支給される金額は強ければ強いほど高くなる。1番金額が高いのは『神木』である。『上層部』の中で1番強い『鬼』が次に高い金額を得る。1番低い金額の『鬼』は『下層』の中でも1番弱い『鬼』となる。
それとは別に『鬼』独自が持っている口座がある。これは『鬼の口座』とは別のもの。
『鬼』独自の口座には、その『鬼』が働き、稼いだ報酬が入金される。
故に2つの口座を持っている『鬼』は真面目な『鬼』とされている。大体の『鬼』は2つの口座を持っている。
勿論、氷夜も2つ口座を持っている。我が旦那様は真面目なのだ…。
考え事をしていると、紅輝が角形封筒を取り出して氷夜に手渡した。
「これ『神木』宛てだぞ?見て大丈夫なのか?」
「あぁ、もう開けて見ているからな。問題ない。」
氷夜は紅輝の承諾を得て封を開けた。そして書類を見る。僕は未だに膝の上に座っている。降りようとしたがムリだった…。氷夜に阻止されたので諦めてそのまま座っている。
*
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