僕たちの軌跡

スメラギ

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外伝【氷夜の章】

07

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 和也かずなりが死んだりしない限り、この山から出る事は叶わない2代目…。
 この地で決着をつけられるのは良いがー…話をしている間にも惨劇は続いている…。

 直後、けたたましい音が辺り一面に鳴り響く…。天災…一言で表すならば正に『天災』と言う方がしっくりくるだろう。

 「和也かずなり、お前は自分の身を守る事だけを考えろ」
 「氷夜さん?」
 「何だ?」
 「あのモノノケを知っているのか?」

 和也かずなりの言葉に俺たちは顔を見合わせた。

 「ふふ、そーだねぇ。知っているのか、知らないのかを聞かれればー…知ってるね。一応、ね?」
 「同族だった者だし…俺たちにとっては知ってて当然…。」

 葉月に続くように恭介が言葉を発する。華月と聡は頷いて肯定した。夏樹は不機嫌丸出しで騒音が響いている方を睨むように見ているだけだった。

 「氷夜、言ってもよろしいのでは?彼ならば問題ないと愚考致しますが…」

 と言う響に頷いて見せた後、俺は口を開いた。

 「アレはモノノケではなく、狂った『鬼』の成れの果てだ。」
 「『鬼』…」
 「そ、『鬼』だよ。おーにー。」

 唖然と呟いた和也かずなりに葉月は子どもに言うような口調で続けた。

 「同族だと言ったな…という事は貴方がたも『鬼』という種族って事か…」
 「ふふ、飲み込みが早くて助かるよ。」

 胡散臭い笑みを浮かべたまま葉月は和也かずなりへ『鬼』の説明を簡単にしてくれたー…



 そして、話し合った結果…。響と恭介、それから華月が和也かずなりの護衛をする事にした。

 翼は直ぐに和也かずなりたちのもとへ着けるように臨戦態勢で待機という事になった。

 俺を含む他の『鬼』は2代目と交戦する…。

 この決定に異を唱える者は居なかった。アレを外へ出さないための最後の砦であると分かったからだ。

 俺たちが結界の中へと入れたのは和也かずなりが結界の用途を限定して強化したからという…。混乱を避ける為に意識阻害の効果も持続しているようだ…。

 和也かずなり含むここに居る俺たち以外の者たちが全滅したら2代目は必ず生き残りが居るこちらへと来るだろう。

 ただ、歴代の神子みこは1つ誤った。2代目を捕らえ閉じ込める事に成功したのであれば、残酷かもしれないが衰弱死をさせれば良かったのだ。
 そうすれば、生贄などというふざけたモノの犠牲にならなくて済んだ者もいる。助かる命がたくさんあった。今現在もその中に入るのだが…。



 戦いは『本山』の者たちを巻き込んで和也かずなり以外は飲まず食わず…しかも寝ずの三日三晩続いた。

 戦いの余波に消えていった命が大半だろう…。

 瓦礫の下敷きになって潰された者、俺たちの攻撃の範囲内に居た者も、2代目の射程範囲内に居た者も全てが消えた。

 守る余裕なんてなかった。

 聡の『地』を駆使して攻撃を弱め、俺の『束縛』により一瞬だけ動きが止まった所を狙い、夏樹の『影』を利用して葉月の武器ー…暗器を四方八方から飛ばしたりなど…
 仲間の疲れが見え始めたら交代したりもした。

 あの頃よりは格段に衰えているであろう2代目だが…狂っているだけあって自身の身体が傷つこうが、お構いなしで攻撃をしてくる。
 疲労は蓄積されているはずなのだが…疲れを感じていない様子で非常に厄介だった…
 
 咆哮だけで『人間』の大半が成す術もなく消し飛んだ。聡の『地』で威力を弱めなければこちらも危なかった。

 咆哮だけで地を深く抉り、手を地面に叩きつけただけで地面が割れた。

 『不全な鬼化』でこの威力…。これが『完全な鬼化』であったなら弱める事は不可能だったであろう。
 まぁ、初代以外に『完全な鬼化』ができる『鬼』はいなかったが…。

 何回か死にかけたが、その度に翼の『修繕』により回復した。
 終わりが見えない戦いで疲労困憊ひろうこんぱいになりながらも頑張っていると、葉月らしからぬ口調で悪態をつく。

 「ちっ…全く嫌になっちゃうね。この死に損ないが、さぁ!」
 「こればっかりは葉月に同意だな。さっさとっ、くたばれ!!」

 葉月に続くように夏樹が悪態をついた。そして、葉月は、さも仕方ないというふうに言葉を発した。

 「できれば・・・・これは使いたくなかったんだけど…。仕方ないね」

 葉月はそう言うと何処からともなく刀を取り出し、鞘から引き抜いた。禍々しいほどの威圧感を感じるソレに皆が息を飲む。

 刀の柄の部分…つかがしらに近いところに『鬼斬丸おにきりまる』と刻まれていた。

 「それは何だ」と思わず聞くほどにヤバいモノだという事だけは理解した。

 「あぁ、コレ?コレは初代とその『つがい』が眠る墓前からちょ~っと借りて来ただけだよ?拝借って言えばいいのかな?初代が同胞である『鬼』を葬る為に『完全な鬼化』をした自分初代の牙を用いて打ったモノだよ。自分がいない時に『鬼』が現れて『つがい』に危害を加えられない為に、自分が戻るまでの少しの間の繋ぎとして『つがい』に渡していた護身刀だね。」

 サラッと言ったが…大丈夫なのだろうか…。皆が一瞬、何とも言い難い表情を浮かべてしまったのも仕方ないと思う。

 初代の逆鱗に触れかねないがー…葉月は気にしていない様子だった。

 2代目は本能で何か・・を察したらしい。葉月に対して警戒を露わにした。

 「大丈夫だよ。ちゃんと『お借りします』って言っといたから。氷夜は知らなかったんだね。まぁ、仕方ないか。『鬼峠おにとうげ』のさらに少し奥まった所にある初代と『つがい』の墓に祀られている物だったし…。大丈夫だよ。この処理が終わったらちゃんと返してくるし~コレは・・・ね?」

 なんて言っていつもの笑みを浮かべている。他にもあるみたいな言い方だったがー…深く言及する余裕はない…。

 「『鬼』を殺す為のモノだというのは本能的に理解できている。それは2代目も同じようだがー…っ…」

 2代目はもの凄い勢いで距離を詰めてくる。葉月に狙いを定めたようだ。
 葉月は最小限の動きでソレを避けた。

 「危ないなぁ…殺し合いなら負ける気しないんだけど?とは言っても俺が得意なのは暗殺で、ねっ!」

 ガキンっと音がする。葉月が容赦なく振るった刀を2代目はその辺に落ちていた適当な物で受け止めるも、一瞬で手を離し、刀から距離を取る。

 「その、お前は大丈夫なのか?」

 珍しい事に夏樹が葉月の心配をした。

 「ま、大丈夫でしょ。ふふ、ありがとうね~。それにしてもー…2代目がうざいなぁ…。悪いんだけど、皆でスキを作ってくれない?首、飛ばしちゃうから」 

 そう言って身体の一部のように刀を扱う葉月に皆が続いた。
 
 皆が全て・・を巻き込んで2代目と死闘を繰り広げた結果…
 三日三晩で決着がついた…。

 辛勝だった…。和也かずなりを除いた『本山』に暮らす全ての『人間』の犠牲と、俺を含む半数が重傷になった。

 その後、翼は俺たちを治す為に『修繕』の能力を使いすぎてブッ倒れたのだった…。

 
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