あの日、僕らがいた時間は永遠に

runa

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プロローグ


世界の棘から身を潜めるように、僕は生きていた。
丸められた紙、使わなくなった玩具、割れたガラス。
いつか同じように捨てられてしまうのではないかと怯えている。

「あなたは、どう生きたいの?」

黒猫は僕に問いかける。黒目がじっと僕を捉えていることが少し気味悪かった。
「別に、どうでもいい」
僕は目を逸らして答えた。目を見られるのはどうしても苦手だ。
「そうかしら。あなたは何だか苦しそうだけれど」
彼女は頭のいい猫だ。僕よりも生きている時間は短いのに、こうやって真っ直ぐに核をついてくる。
彼女は、「彼女」ではないのかもしれない。猫の性別の見分け方なんて、僕は知らない。
ただ話し方が君を連想させるから、僕はこの黒猫を彼女と呼ぶ。足元に水たまりができている。彼女は、そこで毛並みを整えるのが癖だ。

「ダイヤモンドダスト」

僕は言葉を零す。
「……何?」
彼女は毛を梳かしている。気怠そうな感じに、かえって気を引かれる。この期に及んで、きっと君とは合わないだろうなんて考えてしまう。
「それが、僕がなりたいものだよ」
「あなたはそれでいいのかしら?」
僕は自分に確認するように答える。
「それで、いいんだ。」
遠くの丘のススキが揺れる。
争いなんてない方がいいに決まっている。傷つけたくもないし、傷つけられたくもない。僕が消えることで、世界から争いが一つでもなくなるなら、僕は黙って身を引くだろう。それが、僕に与えられた運命のような気もする。

「可哀想」

彼女は不機嫌そうだった。僕のせいか、なかなか思い通りにならない毛のせいかは分からない。
「そうかもね、僕は愛を知らない」
「あら、あたしに愛情はないの?」
「愛がどんなものか知らないんだ、答えようがないだろう」
「愛が何かを知っていたらいいのにね」
「分からないから懸命に生きてるんだろう」

「綺麗事は嫌いよ」

スパッと話を切られてしまった。
彼女はもうすぐどこかに行ってしまうのだろう。
雲さえ動かないこの世界でも、きっと変わらないものは何も無い。
「そろそろ行かなくちゃ。」
「そうか、またね」
「約束はできないわ。きっと、これで最後だから」
「それなら、さよなら」



僕はこれから大嫌いな僕のことをここに書き留める。
僕の物語というのは大袈裟だろう。僕の心の声とでも言ってもらえれば丁度いい。
君は泣いてしまうだろうか。
恥ずかしいことに、僕は君に悲しんでほしいのだとさえ思う。
僕が探していた変わらないものを、君は見つけられただろうか。
見つけたその時は、答え合わせをしよう。
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