暇つぶしのために王子は、ようせいを育てる。

摂政

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覚醒

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 アルブレンド・コビーは夢を見ていた。
 身体をエイクレアのレーザーで貫かれていたため、白昼夢と言うよりかは走馬燈に近かったが。


 これは夢だとコビーが即座に判断したのは、そこがアルブレンド国の王城であり、幼い自分の姿が姿見に映っていたからである。
 背丈からして、恐らくは5歳程度。おおよそ9年前、と言った所だろうか。
 
「(‐‐‐‐だとしたら、多分あの頃だろうか)」

 そんな事を考えていると、トタトタと軽やかな足音で彼女がやって来た。
 自分より5歳年上の姉、アルブレンド・ラムネール。当時10歳、である。

"ねぇねぇ、コビーちゃん! コビーちゃん!"
"どうしたのですか、ラムネールねえさま"

 いつの間にか、コビーの口が動いていた。
 どうやらこれは過去に起こったことを見ているだけなようである。

「(なら、これから起こる事も、ただ黙って見ているしかないようだ)」

"コビーちゃん、聞いて聞いて! お姉ちゃんね、今日は絵を描いてきたの!"
"すっごぉーい! ラムネールねえさま、ボクもきのう、かいたんだよ"
"うん、コビーちゃんが絵を描いたって聞いたから、お姉ちゃんも描いてみたの"

 仲良くなるため、弟と仲良くなるためにラムネールは同じことをしているのだろう。
 自分はこうだった、弟はどうだったの? 同じことをする事によって、共有しようとしているのだ。
 彼女の行動は姉としては正しかった。ただそれをするのが、あらゆる事が万能へと繋がってしまうというラムネールと言うのが問題だった。

"はいっ! これが私のっ!"
"‐‐‐‐っ!?"

「(‐‐‐‐あぁ、これかぁ)」

 子供ながらに、コビーは理解していた。理解して、しまった・・・・
 暴力的なまでの才能、その片鱗を一方的に突きつけられてしまったのだ。
 挑戦する事すら、比べる事すら、馬鹿馬鹿しくなってしまうほどの物凄い才能は、彼の人生に大きく影響を与えすぎた。

"‐‐‐‐あれ? どうしたの、コビーちゃん?"
"えっ? だ、だいじょーぶ。ちょっと、ごめんね。ボク、ちょっとしつれいするね"
"えっ、ちょっと?! そうなるっ?! コビーちゃんっ! コビーちゃん、コビーちゃんっ!
 ちょっと、コビーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!"

 コビーは、走った。
 ただただ、走っていった。
 涙は出なかった、けれども悲しかったのは事実である。

「(‐‐‐‐これ以降、俺は未来を見なくなったんだよなぁ)」

 未来、それは才能ある者だけが見ることが出来る景色。
 それがない者は現在を生きるだけ、今日を生きるだけで‐‐‐‐明日を夢見る権利すらないのだ。



"本当に?"
「ん……?」

 いつの間にか、コビーは別の場所に移動していた。
 ‐‐‐‐真っ白な空間、全てが白で構成された、なにもない空虚な空間。

"マスターは、それで良いとお思いで?"

 コビーのほかには、語り掛ける謎の女。
 その女は彼女自身が発光しているようで顔が見えず、ただ髪が異常に長い事。そして背中に羽根が生えていることだけが分かるくらいであった。

「マスター? だれだ、お前?」
"今はそれはどうだって良いです、必要なのはマスターの意思です。
 マスター、マスターはそれで良いとお思いで? 未来に期待せず、将来を夢見ず、ただ毎日を過ごすだけで良いと思っているのですか?"
「……思ってるわけないだろう」

 現状が良いとは、誰も思っていない。
 ただ、どうする事も出来ないのだ。逆にどうすれば良いのか、コビー自身が教えて欲しいくらいである。

「全ては才能ある者だけが見ることが出来る。本当の才能を持つ天才である、アルブレンド・ラムネール姉様を知れば、そう思うしかやっていけないだろうが」
"天才、それだけが未来を夢見ることが出来ると?"
「いいや、未来を"形作る・・・"ことが出来る、だ」

 夢見ることは誰だって出来る、だがそれを実際に形として作り上げることが出来るのは天才だけだ。
 それがラムネールという才能の塊を知る、アルブレンド・コビーの軸。
 コビーは、そう考えているのだ。

"なるほど、です。でも、私はそうは思いません"
「……?」
"夢は叶えることが出来ます、諦めなければ"
「だから言ってるだろう、夢を見るのは出来る。だがそれを実際に叶える、形作るには才能が‐‐‐‐」

 ばんっ、とその女性は、コビーの顔を両手で思いっきり挟むように掴んでいた。

"‐‐‐‐才能がなくても、それでも仲間と協力すれば出来ます。
 あなたに必要なのは、協力する意思です。協力すれば見えてくるそんな景色がある事を、今からお教えいたしましょう。マスター"

 そして、コビーの身体に彼女はまるで液体のように溶けていって‐‐‐‐

"さぁ、覚醒の時ですよ。マイマスター!"



 目を覚まして、そこでコビーの瞳の中に映り込んで来たのは金色の肉塊だった。
 顔や足は肥大化して元の何倍にも大きく膨れ上がってしまって醜く歪んでおり、腕は身体のあちこちから雑草のように生えており、指は1本1本色も太さも違っていた。
 身体は人間のような柔らかい身体のようだが、所々に金属を思わせる鋼で覆われていた。

【クォォォォォォ!】
「なんだ、あの化け物は……」

 言われなくても分かっている、恐らくは先程の金色妖精だ。
 金色妖精は、金色の金庫を探って中から魔道具【毒にも薬にもなる】で自身の強化を求めた。それによって彼女の身体は、このような化け物に成り下がった、という訳なのだろう。
 背中に生えている羽根は先程までは6枚の羽が生えていたが、今はさらに金属の羽が2枚追加されて、合計が8枚に。

「(トルテッタさんの話を、妖精の話を思い出すな)」


----神は世界に生き物を生み出した
----その生物の流れが綺麗に循環していたころ、妖精を生み出すこととなる別の神が現れる
----神は思った 「最近、お兄ちゃんが構ってくれなくてつまんない!」
----「よーし、お兄ちゃんの真似して生き物作っちゃお!」
----神は妖精という、兄の神が作ったモノとは別種の存在を作り上げる
----八枚の羽根を大きく広げて、妖精という種族を作り出す


 あの伝承では、妖精を生み出した神様の伝承の所には、"八枚の羽を大きく広げて"という伝承があった。
 つまり、妖精の神は背中に8枚の羽を持っているということ。

 人型の妖精は下級から上級になっていく過程で、背中の羽が2枚ずつ増えていった。
 下級の妖精は2枚、中級の妖精は4枚、上級の妖精は6枚……それなら、8枚はその上級よりも上の存在、神、という事なのだろう。
 けれどもあの【毒にも薬にもなる】によって強化された金色の妖精は、8枚の羽を持っているが、化け物にしか思えない。

【グォッ! グォォォ、グォォォォォォォォォォ!】
「流石にこのまま放って置くわけにもいかない、よな。
 ‐‐‐‐と言うよりも、なんだ? この力」

 目の前に現れた巨大な化け物に気を取られてしまっていたが、コビー自身の身体にも変化が訪れていたことに彼はようやく気付いた。
 黄金色の謎のエネルギーは全身を覆っており、さらに髪の色と髪型も前とは明らかに違っていた。

「これはなんらかの強化、か? けれどもいつの間に、後なにも嫌な気分を感じないな」
【グォォォォォォォォォォ!】
"まスた! はヤくしテ!"

 カフェオレに急かされて、コビーは魔法を、あの巨体の化け物を倒すために水の魔法を作り出す。
 
「(‐‐‐‐あれ? いつもより魔力のノリが良いな)」

 いつもだったら同じ魔力だと今の10分の1も扱えないだろう。
 どうやらこの謎のオーラは、想像よりもずっと自身を強化してくれているみたいである。

「まぁ、良い。下手に魔力が暴走するよりかは、ずっと良いのだろう。
 ‐‐‐‐よし、このくらいでっ!」

 いつもと同じくらいの魔力を込めたところで、いつもの10倍くらいの大きさの魔法の球が生み出せた所で、それを黄金色の化け物へと放つ。

‐‐‐‐シュっ!!

「‐‐‐‐はやっ?!」

 自分が出したにも関わらず、その魔力の塊が物凄い勢いで敵の元へと向かっていく速さに驚いていた。
 そして魔力の塊は金色の塊にぶつかり、そして‐‐‐‐

【クキャ?! クキャアアアアアアアアア!】

 ‐‐‐‐当たった場所から爆破されて、そのまま金色の化け物の半分が吹き飛んでいた。
 あまりの威力に、一瞬本当にこれを自分がしたのかと困惑してしまうほどである。

「‐‐‐‐なにかは分からんが、とりあえず使えるモノはなんでも使っておくに限る!
 もう一度、喰らえっ!」

 もう一度、作り出そうとすると、金色の化け物が大きな口を開いていた。
 大きな口に光が、雷が収束していき、そして巨大な光線を放っていた。

【クカァァァァァァァァァァァァ!】

 収束していく雷、そして雷は真っすぐ、直線に向かっていく。
 それはとある世界では超電磁砲レールガンと呼ばれるモノではあったが、誰も知らないのだから仕方ない。とにかく、金色の化け物は光線を発射していた。

"キュィッ!"

 カフェオレは氷の塊を作り出して、そして巨体を支えている足に向かって射出。射出する事によって足に突き刺さり、そして氷が消えると共に足も共に消えていた。

【クフィーンッ?!】
「足を消したのか、よしっ。これなら当てやすくなった!」

 コビーは水の塊を先程と同じように作り出して、そして先程爆破されてなかった化け物の半分に向かて放っていた。
 
----カッ!
【グォォォォォォォォォォ!】

 物凄い雄たけびと共に、化け物は絶命する。
 化け物が絶命したのを確認すると共に、コビーの身体を覆っていた黄金のオーラは消え去っていた。

「いったい、なんだったんだ。ほんとうに……」

 まぁ、使える力だったから良かったんだが。
 ----なにも副作用がなければ、それで良いのだが。

"キュイッ! マすタ、だいジョウぶ?"
「カフェオレ、か。心配してくれてありがとな」

 カフェオレは先程の戦いにて、氷の塊を用いて化け物の足を破壊してくれた。
 それは助かった、なので感謝の気持ちを込めてコビーはカフェオレの頭を撫でながら、魔力を注ぐ。

「(‐‐‐‐そう言えば、カフェオレは氷の塊を撃って俺を助けてくれた訳だが、最初にどれだけ使えるのかをテストするために、彼女に魔法を使わせなかっただろうか?)」

 そう、実際コビーはカフェオレに同じことをさせた。
 最も違いと言えばコビーが用意したのは不定形の雷の的であり、今、カフェオレが当てたのは雷の妖精の身体という固体。

「(もしかして、あの時、俺が用意したのが固体の、たとえば氷の魔法で作った的だったら、今と同じ破壊力が?)」
"キュイ?"

 キョトンとしているカフェオレを見て、「それはないな」と否定するコビー。
 そんなバカげたことなんてある訳がない。きっと肥大化しすぎたため、足の部分の構造が異様に脆くなっていた。あるいはあの、謎の黄金の力の恩恵がカフェオレにも当たった、そういう所だろう。

「うんうん、そうに違いない」
"キュウ?"
「あぁ、大丈夫だ。解決したからな」
「じゃあ、こっちに来てくれないかしら? コビーちゃん?」

 と、カフェオレの頭をうりゃうりゃと撫でていると、後ろからコビーの人生の方向性を変えた姉、ラムネールが話しかけてくる。
 にっこり笑顔の彼女を見て、一瞬なにか言いたげな様子のコビーだったが……止めた。
 彼女の才能がコビーに夢を見ることを諦めさせたが、それを恨んではいけない。いや、一時期はものすごぉぉぉぉい恨んでましたが。
 そういう道を選んだのはコビー自身であるため、彼女を責めることは出来ないのだから。

「派手にやったわね、コビーちゃん。
 流石は私の弟。やるときはやるって私はずーっと前から信じてたよ」
「あぁ、ラムネール姉さん。そっちは?」
「片付いたわ、あの金庫を"開けて"魔道具なるモノも入手しておいたし。これで彼女は余計なことは出来ないでしょう」
「そう、なら問題はないか」

 魔道具らしきモノを持つ姉の姿を見ながら、コビーは妹、交流館に残しておいた妹の事を思い出していた。

「そうだ、姉さん」
「‐‐‐‐? なにかしら、コビーちゃん? なにか他に問題があったかしら?」
「いや、そこまでの事ではないんだが、交流館。あそこにココアが行っただろう?」
「そうね、覚えてるわ。なにせ、私がお願いしたんだし」
「こっちは片付いたし、合流しておこうと思って」

 ココアは腕が立つ、ただし彼女はまだ12歳の子供だ。
 こっちは片付いたんだから、合流しておこうと思うのは当然の事である。

「そうね、コビーちゃん。確かに、ココアちゃんと合流すべきね」
"キュウ! ココア、とゴウりゅう!"
「あら、可愛らしい」

 と、カフェオレの姿を見て、ラムネールがうっとりとした表情を彼女に向ける。

「あの時は流石に事態的に見て、構っているべきではないから止めておいたけど、でもやっぱり可愛いわね~。
 これ、コビーちゃんの? 確か文献とかに載ってる妖精、って奴? コビーちゃんの学校、コールフィールド国からも学生さん来てるからそこで?」
「はい、全部そうだよ」

 質問は1つずつ、と言いたい所ではあったコビーではあったが、全てがイエスで答えられる質問だったので、全部まとめて肯定しておいた。
 と言うより、彼女にとっては質問にもなっていないのだろう。あれはただの確認のために聞いたに違いない。

「かっわぃ~わねぇ~」
"キャィン!

 するりっ。

 ラムネールが妖精カフェオレの頭を撫でようとしたその瞬間、カフェオレが触られるのを拒否して後ろに退がる。
 そして、そのままコビーの身体の後ろに行き、隠れてしまう。ぶるぶると震えており、どうやらラムネールを怖がっているみたいだ。

「あ、あれ? コビーちゃん、私、妖精ちゃんになにか嫌われるようなことをしたかしら? あるいはこの妖精ちゃんはなにか香水とか、嫌いなのがあったり?」
「いいや、なかったと思う」

 ちなみに、恐らくこれも確認のつもりで聞いたに違いない。
 なにせ、全てがノーで答えられる質問だったのだから。

「……う、うーん。これでも私、結構好かれるタイプだと思ってたんだけどなぁ。
 動物とか、お魚とか、私がなにもしなくてもすぐに寄って来るよ? すっごい甘えてくるよ?」

 コビーもその光景を見たことがあるが、あれは好かれている訳ではないと子供ながらにそう理解したのを良く覚えている。
 全員が頭を地面に伏して、獲物を差し出すその様は‐‐‐‐まるで魔王と対峙した村人達のようであった。

「ところで、ココアちゃんの件、だったわよね?」
「‐‐‐‐! あぁ、そうだな」

 迎えが遅くなって寂しがっては……いない、だろう。
 彼女はそういう性格キャラではない。けれども兄として、出来るならば傍にいてあげたい、それくらいの気持ちはあった。

「‐‐‐‐それにさ、心配・・なんだよ。
 あそこに行かせたのは私で、彼女の実力も私も知ってるけどさ」

 と、どことなく心配している顔で、ラムネールは少し溜めてから‐‐‐‐

「ココアちゃん、もしかしたら"死んでるかも・・・・・・"」
「縁起でもないよ、ラムネール姉さん」

 本当に縁起でもない言葉である。
 しかし、ラムネールはその根拠を、弟に話す。

「だってさ、コビーちゃん。
 あの部屋には、私達が戦っていた、世界をしろしめす組織の【私は覗くアイストーク】。
 その構成員であろう人間がまだ1人、居たからね」
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