鑑定士(仮)の小話らしいですよ?

あてきち

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サポちゃん、頑張る!

サポちゃん、頑張る! INダンジョン

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『もうやだああああああ!』

 こんにちは。私の名前は『スキルサポート』ことサポちゃんです。
 只今私の所持者たるヒビキ様は全力でダンジョン内を駆け回っています。
 なぜなら――

『『『グオオオオオオオオオ!』』』

 ヒビキ様を追って魔物『ミッドナイトハウンド』が迫っているからです。夜行性の魔物で、さっきまでうたた寝をしていたヒビキ様を見つけ襲ってきました。
 幸いヒビキ様の【俊敏性】は中々のもので、魔物を撒くことはできましたが……。

『ハァ、ハァ……撒いたかな?』

 ヒビキ様は汗だくになりながら、膝に両手を乗せて肩で呼吸をしています。顎から垂れる汗が足元の地面に溜まっています。
 私もできることはお手伝いしなくては。

「サポちゃんより報告。技能スキル『気配察知』の有効範囲内に敵の存在は認められません。サポちゃんより以上」

 私『ステータスサポート』にはヒビキ様のステータスにある程度干渉する機能が備わっています。ヒビキ様のステータスを理解し、把握してその能力の一部を私のものとして管理することができるのです。

 今回はヒビキ様のスキル『気配察知』をヒビキ様の代わりに行使し、周囲を確認しました。魔物から逃げるのに必死だったヒビキ様には周囲の状況把握はできそうにありませんでしたので。

『そ、そう……よかった。ありがとう、サポちゃん』

「サポちゃんより報告。謝意を受諾。周辺哨戒はサポちゃんに任せ、少しお休みください。サポちゃんより以上」

『うん、助かるよ。じゃあ、あの交差通路の角で休もうかな……』

 ヒビキ様は満身創痍になりながら、再び小さな寝息を立て始めました。

 先日、ヒビキ様が転移罠に落ちた際、私が付属していたスキル『チュートリアル』がヒビキ様の元を離れてしまいました。そのせいで私もしばらくヒビキ様と交信することができなくなった時の衝撃は今でも覚えています。

 まさか私がヒビキ様から切り離されてこれほど苦しく思うとは……。

 突然の断絶は私自身にも負荷が掛かっていたようで、身動きが取れなくなりました。ですが、あの後すぐにふらふらした様子の主神様がいらっしゃり、私を抱き上げるとどこかへ連れて行きました。

 そこは何もない真っ白な空間。無色透明なガラス製の玉座が設置された場所です。
 ですがそこに鎮座する者はいません。無人の玉座でした。
 主神様は私をその玉座の裏へ連れていくと、そこに置かれた大きな、宝箱のような木箱に私を入れてしまいました。でも、何のために……?

「君だけでもあの子の元へ行ってほしい。しばらくお兄さんは無理そうだからね。あの子の気配を感じたら呼ぶといい。あの子ならきっと君に気が付くから……」

 主神様が何を仰っているのか私には分かりませんでした。こんな箱の中に入ってどうしてヒビキ様の気配を感じることができるというのか。ヒビキ様は神域ではなく地上、いえ、地下深いダンジョンの中にいるというのに……。

 そんな私の疑問を察したのか、主神様は蓋を閉じる直前に優しく微笑んで私に言いました。

「大丈夫。この中にいれば君はきっと何をすればいいのか分かるはずだ。だって君は――」

 蓋が閉じると同時に私の意識も遠ざかり、主神様の言葉を最後まで聞くことはできませんでした。主神様は何を言おうとしたのでしょうか……?

 ですが主神様の言う通り、私は目を覚ました瞬間、何をすればよいのか理解していました。ヒビキ様の気配を感じ、私はヒビキ様を呼びました。
 私がいるこの箱はヒビキ様と繋がっている。ヒビキ様が求めてくれれば、ここからヒビキ様の元へ行くことができる。

 ヒビキ様は私の声を聞きつけ、私は一週間ぶりにヒビキ様の元へ戻りました。

 今私は、壁にもたれかかって眠り続けるヒビキ様を眺めています。『チュートリアル』に帰属していた頃は神域から眺めるだけだった私ですが、今はヒビキ様のスキル『宝箱』に帰属しているので、ヒビキ様の隣にいたります。
 せっかく隣にいるのにヒビキ様の目に私の姿が映らないのは少々残念です。

 再会してから三日、『ミッドナイトハウンド』のせいでヒビキ様の目の下にうっすらクマが浮かび始めています。寝不足なんですね……。

 せめて周囲の警戒は私が代わって差し上げなくては。
 私は『ステータスサポート』。神域にいた頃はスキルやステータスに関する助言が主な仕事でしたが、『宝箱』を通して直接ヒビキ様と繋がった今、以前よりもヒビキ様のスキルやステータスへの干渉能力が向上しています。
 場合によってはヒビキ様の全てのステータスを操作することも……。

 今ヒビキ様の周りにはいつもの仲間の方々はいません。ヒビキ様が頼れるのは私だけ。私の持てる全ての力を使ってお守りしなくては。



 私が決意を新たにヒビキ様を見つめること早1時間――。

『サポちゃんより報告。技能スキル『気配察知』が魔物の接近を感知しました。サポちゃんより以上』

 ヒビキ様が眠りについてたった1時間しか経過していないのに、先程の魔物達がもう追いついてきました。もう、本当に……。

「もう、本当に勘弁して……」

 そう、それです。のそりと起き上がったヒビキ様は再び魔物から遠ざかるためダンジョンを走り出します。

 私に直接戦う手段があればヒビキ様を物理的にお守りすることもできるのですが、今の私には『気配察知』で警告することくらいしかできません。

 それでも、私にできることは少しでもして差し上げたい。
 不思議とそう思いました。

 ……まるで、この世界に創造される前から、私はヒビキ様のためにあったかのような思いです。

 私にできることはまだまだ少ないですが、少しでもお役に立てるよう頑張ります。だから、ヒビキ様もどうか生き残れるよう頑張ってください。









 ………………私が技能スキル『医学書レベル2』に含まれる機能『診療所』のことを思い出したのは、それからさらに2日後のことでした。

『サポちゃん、どうして『医学書』がレベルアップした時に教えてくれなかったの?』
「サポちゃんより報告。さあ、ミミックを探しましょう。サポちゃんより以上」
『え、サポちゃん? だからどうして……』
「サポちゃんより報告。さあ、上層への階段を捜索しましょう。サポちゃんより以上」
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