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アルフォス目線です。
◇◇◇
「……私には、そんな資格は、ありませんわ」
涙を流しながら、そう告げたネストリアの姿を見た時。
私、アルフォスの胸に広がったのは、やはりこうなったか、という想いだった。
婚約の拒否、そのことに少なくない衝撃を覚えないではないが、私はネストリアはそう答えるだろうことを予想できていた。
いや、それを予想できていたのは私だけではない。
顔に焦燥を浮かべるマーレイアを含めた使用人達、彼らもこの状況になることを想像できていたのだろう。
マーレイアが、こんなサプライズを用意するよう私に進言したのも、何とかしてネストリアに婚約を受けさせるために違いない。
私達が、こうなることを安易に想像できる程、ネストリアは私との婚約を嫌がっていた。
それ以外にも、ネストリアはマストーリ家のために無理をする傾向もあった。
……それは全て、ネストリアの胸の内にマストーリ家が一時味わった地獄に対する罪悪感があるからこその行動。
「いや違うよ、ネストリア。これはマストーリ家に必要な婚姻だ」
そしてそれを知るからこそ、私はここで婚姻を諦めるつもりはなかった。
今まで私は、何度もネストリアへの恋心を諦めようとした。
もう今は昔とは違う。
ネストリアが自分に恋心を持っていないのなら、僕は自分との婚姻をネストリアに強制するつもりはなかった。
だけど、そう言葉を漏らした私に対し、マーレイアははっきりと断言した。
ネストリアは私に恋心を持っていると。
だったらもう、私を阻むものは何もなかった。
「ネストリアとの婚姻を交わせば、僕は正式なマストーリ家と認められる。そして、その婚姻を結べるのは、バーベスト家の騒ぎで貴族達がやけにおとなしくなっている今しかない」
だから僕は、ネストリアにそう言葉を重ねる。
ネストリアも本当は分かっているのだろう。
自分が、わがままを言わなかったとしても、マストーリ家は危機に陥っていたと。
少なくとも、ネストリアの婚約者候補の貴族であれば、それは確実だった。
また、もうマストーリ家の人間は自分を恨んでなんかいないことを。
けれども、あの地獄でマストーリ家の人間が苦しんでいたことを見たから、そしてその地獄のきっかけが自分にあることを知るからこそ、ネストリアは自分を許すことができない。
自分を追い込むことしかできない。
だが、そんなネストリアを見るのは、もう私は嫌だった。
「ネストリア、これはマストーリ家のためなんだ」
ネストリアに婚姻を認めさせるために、私は卑怯だと思いながら、その言葉を告げる。
マストーリ家のため、それはネストリアに対する禁句だった。
一時の出来事で、マストーリ家に尽くすことを自分の贖罪と考えているネストリアに対する。
「………出来るわけが、無いですわ」
「っ!」
……しかしその禁句を言ってもなお、ネストリアは婚姻を認めなかった。
そのネストリアに僕は思わず言葉を失う。
どうしても、ネストリアを説得することはできないのかと、そんな考えが頭によぎる。
けれど、それは大きな勘違いだった。
「それでも、もうアルフォス様に、ご迷惑をかけることなど、出来るわけがないですわ!」
「………え?」
── そして次の瞬間、ネストリアが告げた言葉に、私は自身の勘違いに気づいた。
◇◇◇
「……私には、そんな資格は、ありませんわ」
涙を流しながら、そう告げたネストリアの姿を見た時。
私、アルフォスの胸に広がったのは、やはりこうなったか、という想いだった。
婚約の拒否、そのことに少なくない衝撃を覚えないではないが、私はネストリアはそう答えるだろうことを予想できていた。
いや、それを予想できていたのは私だけではない。
顔に焦燥を浮かべるマーレイアを含めた使用人達、彼らもこの状況になることを想像できていたのだろう。
マーレイアが、こんなサプライズを用意するよう私に進言したのも、何とかしてネストリアに婚約を受けさせるために違いない。
私達が、こうなることを安易に想像できる程、ネストリアは私との婚約を嫌がっていた。
それ以外にも、ネストリアはマストーリ家のために無理をする傾向もあった。
……それは全て、ネストリアの胸の内にマストーリ家が一時味わった地獄に対する罪悪感があるからこその行動。
「いや違うよ、ネストリア。これはマストーリ家に必要な婚姻だ」
そしてそれを知るからこそ、私はここで婚姻を諦めるつもりはなかった。
今まで私は、何度もネストリアへの恋心を諦めようとした。
もう今は昔とは違う。
ネストリアが自分に恋心を持っていないのなら、僕は自分との婚姻をネストリアに強制するつもりはなかった。
だけど、そう言葉を漏らした私に対し、マーレイアははっきりと断言した。
ネストリアは私に恋心を持っていると。
だったらもう、私を阻むものは何もなかった。
「ネストリアとの婚姻を交わせば、僕は正式なマストーリ家と認められる。そして、その婚姻を結べるのは、バーベスト家の騒ぎで貴族達がやけにおとなしくなっている今しかない」
だから僕は、ネストリアにそう言葉を重ねる。
ネストリアも本当は分かっているのだろう。
自分が、わがままを言わなかったとしても、マストーリ家は危機に陥っていたと。
少なくとも、ネストリアの婚約者候補の貴族であれば、それは確実だった。
また、もうマストーリ家の人間は自分を恨んでなんかいないことを。
けれども、あの地獄でマストーリ家の人間が苦しんでいたことを見たから、そしてその地獄のきっかけが自分にあることを知るからこそ、ネストリアは自分を許すことができない。
自分を追い込むことしかできない。
だが、そんなネストリアを見るのは、もう私は嫌だった。
「ネストリア、これはマストーリ家のためなんだ」
ネストリアに婚姻を認めさせるために、私は卑怯だと思いながら、その言葉を告げる。
マストーリ家のため、それはネストリアに対する禁句だった。
一時の出来事で、マストーリ家に尽くすことを自分の贖罪と考えているネストリアに対する。
「………出来るわけが、無いですわ」
「っ!」
……しかしその禁句を言ってもなお、ネストリアは婚姻を認めなかった。
そのネストリアに僕は思わず言葉を失う。
どうしても、ネストリアを説得することはできないのかと、そんな考えが頭によぎる。
けれど、それは大きな勘違いだった。
「それでも、もうアルフォス様に、ご迷惑をかけることなど、出来るわけがないですわ!」
「………え?」
── そして次の瞬間、ネストリアが告げた言葉に、私は自身の勘違いに気づいた。
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