最強の悪役令嬢

影茸

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17.悲鳴

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 「私の、勝ち」

 私は手から双剣をもぎ取られ、呆然と膝をついたアラムの喉元に剣を突きつけそう宣言した。

 「な、何が……」

 そして喉元に剣が触れる冷たい感触に、アラムはそうかすれた声で言葉を漏らした。
 その顔は未だ何が起きたのか分からない、そう言外に語っていて私は少し罪悪感を感じる。

 ーーーと言うのも、最後私が行ったのは純粋な近接戦闘技術では無いのだから。

 アラムも使っていた闘気術と呼ばれる技術。
 それは騎士になるには必須の技術。
 だが、それは魔力を身体に纏わせるだけで決して魔術ではない。
 確かに魔力を身体に纏うということは誰にも出来ることではない。
 騎士のように実家が貴族であるか、商人の家系のなど裕福な家柄で幼少期から必死に訓練し、やっと覚えることの出来る技術だ。
 だが、その闘気術は全身に魔力を纏って仕舞えば、幾ら身体を包む魔力を注ぎ混んでももうそれ以上強化はされない。
 薄く魔力を纏いどれだけ長時間闘気術を発動していられるか、幾ら訓練しようとそんな風に鍛えることしかできないのだ。
 だが、私が最後に行ったことは違う。
 私が行ったのは身体の中に大量の魔力込め魂の核を向上させる、どちらかといえば魔術に近い代物。
 つまり、最後にアラムの剣を弾き飛ばしたのは純粋に私の技量がアラムを超えたからの結果ではない。
 そのことを魔力を感知することなどできるはずのないアラムは知るよしもない。
 そして私は落ち込んだ様子を見せるアラムに罪悪感を感じる。

 「さぁ、約束は守ってもらいますよ。騎士団長」

 「っ!」

 だが、私はその罪悪感を胸の奥にしまいこんでアラムにそう声をかける。
 確かに私のしたことは正しいとは言えないことかもしれない。
 それでも私は絶対にアラムから聞き出さなければならない。

 ーーーだから私は最初から手をうっていたのだ。

 決闘と申し出て、詳細なルールを決めなかった理由。
 それは私がいざという時に魔術を行使するためだった。
 エリスの時のように魔術を禁止する、そう言われないように私は率先して決闘を申し出て、そして報酬だけを決めた。
 それは全て私が魔法を使ったことを指摘された時のための保険。
 私は純粋な近接戦闘でアラムに勝てる可能性は五分五分だと考えていた。
 私はアラムには絶対に勝てると確信した。
 私の狙いにも全く勘付くことが出来ず、決闘を始めたアラムの経験の無さは致命的だった。
 今回に関しては魔術を使ったか微妙なラインで上手く勝利することができたが、

 ーーー初めから魔術と剣術でアラムと戦えば私は恐らく始めの数分で勝利していただろう。

 私がまさに死ぬような思いをして手に入れた、剣術をあっさりと手にしているアラムは確かに天才なのかもしれない。
 だが、その経験のなさは決定的な敗因となった。

 「くそが!」

 「………」

 しかし私は心底悔しそうに床を叩くアラムの姿を目にして、押さえ込んだはずの罪悪感が膨れ上がるのを感じる。
 確かにアラムが経験不足だったのが悪い、とそれだけで済ませてしまえるようなことなのかもしれない。
 しかしそれでも私の頭の中からは純粋に戦っていれば私は負けていたかもしれない、という考えが張り付いている。
 私はその考えを振り払おうと唇を噛みしめる。

 「やっぱりお前男だったのか!胸ないしからそうだと思っていたが、男女でもなかったのか!このマンイーターが!」

 「はっ?」

 だが、次の瞬間私はアラムの言葉に動きを止めた。
 マンイーター、それは人喰いの魔物。
 特徴は身体を鎧のように包んだ筋肉で、よく筋肉隆々なものに対する侮蔑で使われる名称。
 そして最初アラムが私を男だと言った時、胸のあたりに視線が向けられていた気がしたのだが気の所為では無かったらしい。
 私はそこまで理解して、

 ーーーブチギレた。

 「煩いですね。奴隷のくせに」

 「なっ!誰がどれ……」

 「メル」

 私はさらにアラムが何かを言う前にメルに笑いかける。
 するとメルは心底疲れた顔をしながらも、私に鞭を渡した。

 「騎士団長、いえアラム。知ってますか?森の中には精霊と呼ばれる種族がいるんです。ですがある森ではその精霊はある出来事により常に苦しまなくてはならない状況にありました」

 「え、?」

 突然始まった私の話にただならぬ気配を感じたのか、アラムは立ち上がろうとする。
 
 「いてぇ!」

 だがアラムは私に鞭を打たれて蹲った。

 「すると精霊はその状況に適応したのです。

 ーーーつまり、苦痛を快感に感じられるように。さぁ、どこまで苦痛を与え続ければ苦痛が快感に変わるか知りたくないですか?」


 私は満面の笑みでアラムに笑いかけた。
 しかし見る間に生意気だったアラムの顔に恐怖が刻まれて行く。

 「ぎゃぁぁぁあああ!」

 ……その後数時間に渡り、鍛錬場に悲痛な悲鳴が響き渡ったという。
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