15 / 26
親の矜恃 Ⅱ
しおりを挟む
その日記は、お二人が部屋の隅にずっと保管していたものだった。
そして、その日記を手に取ったシャルルの顔が、醜悪な笑みを顔に浮かべる。
……まるで勝利を確信したように。
連れてくるべきではなかった。
そんな後悔が私の胸に広がったのはその時だった。
今の表情から、シャルルはお二人を利用することしか考えていないのは明白だった。
普段の冷静なお二人は、だまされるような人ではない。
何かある前に、私かドルバスに考えを聞く人たちなのだから。
しかし、今に関してはいつものお二人としての行動を求めることなど出来はしなかった。
そんなこと、できる訳ないのだから。
なぜなら私たちは、お二人がまだシャルルのことを愛していると知っているのだから。
だが、シャルルはそのお二人の愛情を利用するきしかないのは、明白だった。
「……バルドス」
「わかっております……」
私とバルドスは、小さく確認しあう。
すなわち、お二人に嫌われたとしても、シャルルを受け入れることだけはしてはならないと。
決意を固めた私の心の中、かつての記憶が蘇る。
それは、シャルルが駆け落ちした当初のお二人の姿。
胸が痛くなるほどに消沈しながら、それ以上の罪悪感に青白い顔をしながら様々なところに頭を下げに行っていた光景。
あれから、ようやく。
お二人の顔に笑顔が浮かぶようになってきたのだ。
安心したような笑顔が。
それをつぶさせるようなことだけは、決して許してはならない。
お義父様が口を開いたのは、そんなことを考えていた時だった。
「……シャルル、その日記に書かれたルクスが生まれたときのことを覚えているか?」
「え? ああ、もちろんですよ!」
「あの時は、ルクスの兄になると何度も私たちに言ってきたものでしたね」
にっこりと笑ったお義母様も、そう続ける。
しかし、その言葉を聞くシャルルの顔に浮かぶのは、不機嫌そうな表情だった。
「……そうでしたね。あの頃は、本当に心から弟の為を思ってましたから」
「まるで今は違うような口振りだな」
「ええ、それは! 今のあのルクスの態度をみればわかるでしょう! 唯一の兄を兄とも思っていない! あいつほど冷徹な人間もいませんよ」
その言葉に、私は反射的に拳を握る。
どの立場でその言葉を言っているのだと。
最初にルクスを虐げ、あげくの果てに駆け落ちで裏切ったのはそっちだろうと。
……しかし、私が何かを言う前にお義父様が手で制した。
信じられず呆然とする私に、お義父様はにっこりと笑って口を開いた。
「そうか。──その本心を聞いて、ようやく私達も覚悟が決まったよ」
そして、その日記を手に取ったシャルルの顔が、醜悪な笑みを顔に浮かべる。
……まるで勝利を確信したように。
連れてくるべきではなかった。
そんな後悔が私の胸に広がったのはその時だった。
今の表情から、シャルルはお二人を利用することしか考えていないのは明白だった。
普段の冷静なお二人は、だまされるような人ではない。
何かある前に、私かドルバスに考えを聞く人たちなのだから。
しかし、今に関してはいつものお二人としての行動を求めることなど出来はしなかった。
そんなこと、できる訳ないのだから。
なぜなら私たちは、お二人がまだシャルルのことを愛していると知っているのだから。
だが、シャルルはそのお二人の愛情を利用するきしかないのは、明白だった。
「……バルドス」
「わかっております……」
私とバルドスは、小さく確認しあう。
すなわち、お二人に嫌われたとしても、シャルルを受け入れることだけはしてはならないと。
決意を固めた私の心の中、かつての記憶が蘇る。
それは、シャルルが駆け落ちした当初のお二人の姿。
胸が痛くなるほどに消沈しながら、それ以上の罪悪感に青白い顔をしながら様々なところに頭を下げに行っていた光景。
あれから、ようやく。
お二人の顔に笑顔が浮かぶようになってきたのだ。
安心したような笑顔が。
それをつぶさせるようなことだけは、決して許してはならない。
お義父様が口を開いたのは、そんなことを考えていた時だった。
「……シャルル、その日記に書かれたルクスが生まれたときのことを覚えているか?」
「え? ああ、もちろんですよ!」
「あの時は、ルクスの兄になると何度も私たちに言ってきたものでしたね」
にっこりと笑ったお義母様も、そう続ける。
しかし、その言葉を聞くシャルルの顔に浮かぶのは、不機嫌そうな表情だった。
「……そうでしたね。あの頃は、本当に心から弟の為を思ってましたから」
「まるで今は違うような口振りだな」
「ええ、それは! 今のあのルクスの態度をみればわかるでしょう! 唯一の兄を兄とも思っていない! あいつほど冷徹な人間もいませんよ」
その言葉に、私は反射的に拳を握る。
どの立場でその言葉を言っているのだと。
最初にルクスを虐げ、あげくの果てに駆け落ちで裏切ったのはそっちだろうと。
……しかし、私が何かを言う前にお義父様が手で制した。
信じられず呆然とする私に、お義父様はにっこりと笑って口を開いた。
「そうか。──その本心を聞いて、ようやく私達も覚悟が決まったよ」
26
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる