裏切り者、そう呼ばれた令嬢は

第27話

 「お嬢様、準備は殆ど出来ました。これで、あのことを明かしても問題はないでしょう」

 そう、私へとルーノが告げたのは、婚約破棄から数日が経った時だった。
 そのルーアの顔には、隠しきれない疲労が浮かんでいて、準備を整えるためにどれだけ彼女が苦労していたのかを示している。

 「ありがとうルーノ」

 それを理解していたからこそ、私はルーノへと笑顔で感謝の言葉を告げる。

 ……内心の不安を押し隠しながら。

 「いえ、気にしないでくださいお嬢様。私とて、ようやくお嬢様が仮面を脱がれる時を楽しみにしていた一人ですから！」

 そんな私の内心に気づくことなく、ルーノはその疲労が浮かぶ顔を誇らしげなものにして、そう口を開く。
 その顔に浮かぶ輝いた瞳が、彼女が心の底からこの日を待ち望んでいたことを表していた。

 「では、お嬢様も早く休んでください。あの変人供の対応を任せてしまいましたし、本日はゆっくりなさって下さい」

 最後にルーノは、それだけを私に告げて応接間を出て行く。
 扉を閉める音を最後に、応接間の中は私だけとなる。

 「はぁ……」

 それを確認して、私はため息を漏らした。
 ルーアの言っていた通り、私の身体は今かなりの疲労を覚えている。
 だが、それでも私は休もうという気にはなれなかった。

 その理由は一つ、あの男性に対する心配。

 あの人に勇気付けて貰ってから、もう数日が経った。
 普通に考えれば、それだけの期間で平民が貴族に手を出せるわけがない。
 未だ準備期間にあると考えるのが普通だ。

 ……しかし、そう自分に言い聞かせながらも私は自分の中の不安を拭うことが出来なかった。

 もしかしたら、もう既にあの男性がマーリスに手を出してしまっているかもしれない、そんの考えが頭から抜けないからこそ。
 数日間で準備を整えられたのは、破格の速度だと理解している。
 それでも、準備を整えている最中も私の心の中から焦燥が消えることはなかった。

 何せまだ、どのタイミングであのことを明かすかも決まっていないのだから。

 「っ！」

 流行る心と裏腹に、遅々として進まない状況。
 それに私は思わず唇を噛みしめる。

 「……サラリア、お前に手紙が来ている」

 「………え？」

 ノックと共に、お父様の声が聞こえてきたのはその時だった。