再婚約てあり得ると思いましたか? 〜今更元婚約者がすがってきた件〜

影茸

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再婚約

豹変

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「……え?」

 その時になって、完全にマーリクの顔から完全に余裕が消える。
 それでも、何かにすがるような曖昧な笑みを浮かべて口を開く。

「いや、そんなまさか……」

「それじゃ、そろそろ帰る準備をしましょうか」

「……っ!」

 しかし、それを無視してそう告げた私に、今度こそ完全にマーリクの顔から笑みが消えた。

「た、頼む待ってくれ!」

 次の瞬間、マーリクは懇願にも似た様子で叫びながら立ち上がる。

「聞いてくれ、俺も被害者なんだ」

「被害者?」

「そうだ。俺は騙されていたんだ」

 そうこびるような笑みを浮かべながら、マーリクは笑みを浮かべる。

「あの女、アリミナの魅了にかかっていただけなんだよ、俺は! あの女は特殊な力を持っていて……」

「知っていたわよ。そのくらい」

「……え?」

 呆然とこちらを見てくるマーリクを、私は冷たく一瞥する。
 そう、実のところその情報をアリミナの姉、アイリスと交流がある私がしらない訳がなかった。
 そのことを知った上で、ハンスも私もマーリクの話すことに価値がないと考えているのだ。

「確かに貴族の中には、魅了の力の純粋な被害者はいるわ。そう判断されて、もとの立場に戻った人間もいる。でも、その彼等は貴方とは違うのよ」

 マーリクをにらみながら、私はそう告げる。

「全ての責任を投げ捨て、逃げた貴方とはね」

「……っ!」

 その言葉に、マーリクの顔に絶望が浮かび、何か言おうと口が動く。
 けれど、その口から言葉が発せられることはなかった。
 本人だって理解しているのだろう。

 ……同じ魅了された人間でも、自分のように全てを捨てて逃げた人間は決して多くないと。

「今更縋りついてどうにかなると思ったの? ……その段階はもう過ぎ去っているのよ」

 淡々と告げた私の言葉に、マーリクは沈黙する。
 その沈黙が何よりマーリクの内心を物語っていた。
 そう、マーリクもようやく縋りついても意味がないと理解したことを。

「……頼む。待ってくれ」

 しかし、それでもまだマーリクが口を閉じることはなかった。
 一瞬私は何かさらに言おうとして、けれどマーリクの顔を見て、口を閉じた。

「俺たち、幼なじみだろう? ずっと一緒にやってきただろう?」

 なぜなら、マーリクの顔に浮かんでいたのは恐怖と焦燥だったのだから。
 もう後がない、その思いがありありと伝わってくるその表情に、私は小さくため息をついた。
 自分でも馬鹿だと思う。

 それでも私は、この幼なじみのことを完全に切り捨てることができなかった。

「だから、頼む! 今回だけ……」

「……一度だけ」

「っ!」

 その言葉に喜色が浮かんだマーリクの顔。
 それに努めて反応を浮かべないように意識しながら、私は口を開く。

「私の商会の下働きとして雇ってあげるわ。もちろん待遇は……」

 それは今の私にできる最大の擁護だった。
 けれど。

「……は?」

 ──マーリクの顔に浮かんだ喜色は、その説明の最中に消えることとなった。
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