婚約破棄、無かったことにできると思いましたか?

影茸

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 氷結の貴公子、それはお兄様の所謂通り名というものです。
 お兄様は貴族の令嬢、平民関係なく酷く紳士的で、けれどもいくら誘われても決して首を縦に振りません。
 そのつれない態度がまた平民、貴族問わず女性の心を鷲掴みにし、付けられた通り名こそが氷結の貴公子です。
 そしてそんな通り名をつけられる程にはお兄様は女性の方に絶大な人気を誇っています。
 義理ではありますが、家族である私から見てもお兄様の整った容貌に紳士的な態度は人気が出てもおかしくない物だと断言できます。

 「カインさまぁ、私スレアと言いますぅ」

 ……けれども、王子が倒れているにも関わらず、お兄様に色目を使うスレアの姿には流石に私も驚愕を隠しきれませんでした。
 先程の様子を見る限り、このスレアという女性は王子とかなり親しそうにしていました。
 けれども現在彼女は王子が昏倒しているのにもかかわらず、お兄様に言い寄っています。
 それも公爵家に対するにはあまりにも馴れ馴れしい態度で。
 ……いや、本当に王子と一緒に公爵家に乗り込んで来たことといい、自殺願望でもあるのでしょうか。

 「カイン様はぁ、どんな女の子が好きなのか教えてもらえませんかぁ?」

 しかしそんな私の想いなど知るよしもなく、スレアはお兄様へと身体を擦りよせます。
 ……何故か勝ち誇ったように私の方を見ながら。

 「すまない」

 「きゃっ!」

 けれどもスレアの顔に浮かんだ笑みは次の瞬間、お兄様に離されたことで消え去ることになりました。
 まぁ、身体を押し当てるとか明らかに高位の貴族に対して常識を欠いた行動のなので当たり前なのでしょうが。

 「そんな!カイン様は平民の女性にも優しいのでは無かったのですか!」

 ……けれどもなぜか、突き飛ばされたスレアは嘘泣きをしながらお兄様の非をなじり始めました。

 「はぁ……」

 ……もう本当に帰ってくれないですかね。
 スレアのあんまりな態度に私はもはや呆れを隠す気さえ起こらなくなっていました。

 「………すまない。君のことは生理的に受け入れられないようだ」

 「…………え?」

 ……そしてその想いはどうやらお兄様も同じだったようです。
 お兄様の言葉に何を言われたのかと呆然としているスレア。
 私は彼女の顔を見てある確信を持ちます。
 うん。そう思うのは当然のことだと思いますよ、お兄様。
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