異世界暗殺者の英雄譚

影茸

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16.仲間

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 僕は白川に今まで自分が知ったこと、そしてあったことについて全て包み隠さず語った。
 いや、いつの間にか隠そうと思っていたことも全て話していたというべきか。
 話は僕の説明力のなさのせいで滅茶苦茶で、話終わるのにかなりの時間がかかるというあり得ないほどの聞きにくさになってしまった。
 だが、白川はそのことに文句を言うことはなかった。
 僕は話しながら情けなくも時々声が震えてしまい、その震えを止めようとしても止めれないことに気づき、そして悟る。

 辛いと思っていた、そんな言葉だけでは足りないぐらい、今までのことが自分には堪えていて、そしてそのことを聞いてくれる白川の存在にどれだけ助けられているのかと言うことを。

 だが、それでも常に僕の心からある不安が消えることはなかった。
 それはこの突拍子のない話を信じてくれるのかと言う不安。
 あれだけ必死に僕の為に動いてくれた相手であると言うのに僕の心からはその不安が消えてなくて、自己嫌悪を覚える。

 「ごめね。春人くん……私そんなことがあったなんて全然気づいていてなくて……」

 だが、その不安は僕の話を聞き泣き出した白川の姿に霧散した。
 その目には一切僕にたいする疑いは存在していなくて、ただ僕にたいする罪悪感に溢れていた。
 
 「あは、あはははは!」

 その姿に僕は自分の心配が場違いであったことに気づく。
 そしてそのことに気づいた瞬間僕は笑い出していた。
 どうしようもないと思い込んで1人で抱え続けてきたが、そんなものは全て被害妄想でしなかったのだ。
 そのことが酷くおかしい。
 
 「えっ?何でここで笑うの!?」

 突然笑い出した僕に白川は面食らい、唖然とした表情でそう漏らす。
 
 「いや、今日白川泣いてばかりだなぁて思って」

 「っ!」

 だが、僕はわざと誤魔化す。
 さすがに馬鹿正直に嬉しくてなんて言うのはカッコ悪すぎる。
 
 「まぁ、それにしてもよく信じられたね」

 「えっ?」

 「いや、だって邪神教なんだよ?」

 僕が気づかれないよう話題を変えると、羞恥からか顔を真っ赤にしていた白川は不思議そうに首を傾けた。

 「えっ?春人くん嘘ついてたの?」

 「いや、そう言うわけじゃないけども普通信じられなくない?」

 「ううん、だって春人くんが言ったんだよ?」

 「っ!」

 そうまるで疑うことなど必要ないと告げた白川の顔は本当に何のためらいもなくて僕は絶句する。
 そして何で慎二さえも信じてくれなかったのに、と尋ねそうになって僕はあることに気づいた。

 ー あぁ、そっか。僕は怯えていたのか。

 僕の頭に慎二が僕の言葉を否定した瞬間が蘇る。
 その時は本当にあんな風に拒絶されるとは思っていなくて、だから僕は怯えたのだ。
 その時と同じ拒絶を受けるのが怖くて、だから無意識に他の人間に助けを求めることを諦めたのだ。
 慎二にも無理だったのだと自分に言い聞かせて、そして自分の殻に閉じこもって。

 「本当、どうしようもなく臆病なヘタレだ」

 だが、それは本当に無意味な行為でしなかった。
 そのことを僕は目の前に立つ、僕を信じてくれる人を見て悟る。
 今までの僕は本当に情けなくてどうしようもなくて、だがこれからは違う。

 「さぁ、これからの方針について話し合おう」

 「うん!」

 そして僕は改めて王国の思惑を潰すことを決意した。









 「先ず最初に僕はもうクラスメイト全員を救えるとは思っていない」

 「っ!」

 僕は最初にそう切り出した。
 それは決してクラスメイトにたいする恨みからではない。
 確かに影月や、傍観に徹していたと言うクラスメイトに対する恨みが消えたわけではない。
 だが、明らかに白川が味方になってからはその憎悪は弱くなっている。
 その理由は白川と言う味方を得たからか、それとも白川に全てを話せたからかはわからない。
 しかしそう思えるようになったのは白川のお陰で、彼女が望むならばクラスメイト全員を救ってやりたい。
 
 ーーーだが、それは幾ら俺が強くなろうと絶対に不可能だ。

 そしてそのことをわかっているのか、白川は僕の言葉に衝撃を受けたように唇を噛みしめるが、反論することはなかった。

 「まぁ、恐らく白川も分かっているかもしれないが、

 クラスメイトのかなりの人数が、国王側についている」

 「うん、クラスぐるみの神聖魔法を使う私に対する態度がガラリと変わったのも、それが理由だよね……」

 「あぁ、おそらく」

 僕は白川の頭が想像以上に働くことに少し驚きながらも頷く。
 そう、今までのことを考えてクラスメイトは余りにも王国の方針に好意的だ。
 いや、行為的過ぎると言うべきか。
 それは他のクラスメイトに比べれば軽度ではあるが、慎二でさえ同じ。

 「だとすれば僕達が救えるのは、王国についていない人間だけ」

 それはどうしようもない問題だった。
 そもそも僕らが幾ら強くなろうとも、クラスメイト達本人が望まなければ連れて行くことはできない。
 仮にもチートを持つクラスメイトに対しそんな人手も、存在しないのだ。
 そして何とか説得するとしても王国が邪神教徒であることしか僕らが知っていることはない。
 しかしクラスメイト達はそのことを知った上で王国側についている可能性が高いのだ。
 短期間では絶対に説得できない。

 「っ!それは!」

 そしてそのことを聡明な白川も悟っているはずだった。
 しかし白川はそう声をあげた。
 しょうがないことだろう。
 何故ならば本当にクラスメイトの殆どが王国側なのだ。
 つまり僕の言った通り王国側のクラスメイトを見捨てることになれば、ついてくるのは慎二と赤木くらいだろう。
 そしてそれでは余りにも救える数が少なすぎる。
 
 「でもいけると思うのか?」

 「ぐっ!」

 だが、それでもどうにかする案が思いつかないのか白川は僕の言葉に口をつぐむ。
 そして白川が案を思いつかないことを確認して、

 「だったら、僕に1つ考えがある」

 僕はそう切り出した。










 「っ!それは絶対駄目!」

 僕が自分の考えを告げると、白川は憤慨した様子でそう叫んだ。
 その目には僕に対する怒りが浮かび上がっていて、まぁそうなるかと僕は内心でため息をつく。
 だが、僕の作戦を聞いて怒るのは想像通りだ。
 僕の申し出た作戦、それは役割を分担すること。
 つまりクラスメイトを説得する係と、実力をつけクラスメイト救出の時に働く係に分けることだった。
 そして勿論白川はクラスメイトの説得で、僕は迷宮で実力をつける係。
 その計画を聞いた白川は危険な方を選んだ僕に対して怒っているのだ。

 「でも、僕はおそらく死んだことになっている。それなら僕の方が動きやすい」

 「ううん!先ずその案自体がおかしい!説得なんて無理でしょ!」

 僕は噛み付かんばかりの勢いで僕にそう告げる白川の言葉に頷く。

 「うん、確かに短期間では説得は無理だ」

 「だったら!」

 「でも、長期間ならばいける」

 「っ!」

 僕の言葉に白川は絶句し、そして悟る。
 つまり僕は長期間準備を進め、そしてクラスメイトのより多くを救おうとしていることを。

 「でも、春人くんは外れスキルじゃない!」

 しかし直ぐに白川は反論する。

 「あっ、」

 そしてその言葉で僕は白川に自分のスキルのことを言い忘れていたことを思い出す。

 「まぁ、見せる方が早いか……」

 「えっ?」

 僕はそう漏らすと、白川の腰についてあった剣を借りる。
 そして唖然として未だ状況を飲み込めていない白川の前で剣を振るう。

 「っ!」

 ーーーその瞬間硬いと言われる迷宮の壁にズレが走り、次の瞬間壁を斬撃が切り裂いた。

 神聖魔法の使い手である白川は剣を使わない。
 だがさすがに僕の技量を悟り、絶句する。

 「ごめん、今まで黙っていたけど僕のスキルはかなり上位なんだ。国王に隠していただけで」

 「っ、でも!」

 僕の実力を知って、それでも白川は何かを言おうと口を開いたが、直ぐに諦めたように口を閉じた。

 「絶対にだからね」

 「えっ?」

 そして小さく何かを囁いた。
 僕がそれに聞き返すと、白川はキッと僕を睨みつけ、そして叫んだ。

 「絶対に無事な状態で助けに来てね!」

 それだけを告げると白川は僕に剣の鞘を押し付け迷宮の外へと歩いて行った。
 その姿を呆然と見つめて、僕は頬を叩いて気合を入れる。

 「今から、どれだけ強くなれるか……」

 おそらく下層にもまた入らなければならないことになるだろう。
 だが、白川という味方を得た今、僕の心には何故か不安はなかった……
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