薄幸令嬢は王子の溺愛に気づかない

影茸

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5.運命の出会い(笑)

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 いきなり叫び声を浴びせられて、私は動揺を隠すことができなかった。 
 当たり前だ。最初ここにいるのはフェリルと私だけの2人だと思い込んでいたのだから。
 
 「っ!」

 ーーー だがその程度の驚愕など、その青年の姿を見た瞬間吹き飛んだ。

 「何処も女は変わらないっ」

 何故ならそう心底忌々しそうに吐き捨てた青年、彼は酷く美しい容姿を持っていたのだから。
 
 一日中髪の手入れをしているエイシアの髪よりもその青年の金髪はずっと艶やかだった。
 さらにその顔は不機嫌そうに歪められているのに、それでも思わず目を奪われてしまうほど整っていて、思わず私は呼吸さえも忘れてその顔に魅入ってしまう。
 
 そこに突然現れたその青年はまるで周囲に光を放っているかのような美しさを持っていた。
 
 身体は煌びやかな、継母の買ってくる似非もののドレスなどと比べ物にならない服を身に纏っていて、私はその青年が何処かの有力貴族であることを悟る。
 
 「え、えっと、その……」

 だが、私の頭が回ってくれたのはそこまでだった。
 まるで天使のような、そんな輝く美貌を誇る青年が目の前にいる、そのことに私の顔はみるみる赤くなって行く。 
 というののも、実は私はこれまで男性という存在と関わったことがほとんどなかったのだ。
 家に存在するのはメイドや年老いた男性の使用人だけで、唯一交流があった村でも何故か若い私と同年代の男性は何故か私に近寄ろうとしないのだ。
 もしかしたら私が汚い身なりをしているから避けられているのかもしれない。
 そしてそのせいで今まで私は殆ど男性との交流などしてこなかった。
 というか、これが初めてだ。
 初めて話す相手がにこんなイケメンって難易度が高すぎる!
 それでも黙っていて不敬だと罰せられたくはないので、何とか口を開いて継母に強要されている挨拶を行おうとして、だが開いた私の口がその言葉を発することはなかった。

 「お前、貴族か!」

「えっ?」

 私が何かを言う前に、私の服についたセレストア家の紋章に気づいた青年にとんでもない剣幕で怒鳴られたのだ。
 何故怒鳴られたのかわからない戸惑いと、そして怒鳴られたことへの驚きで私は思わず硬直してしまう。
 
 「クル!」

そんな中、フェリルが私を守るように翼を広げて青年との間に立ち塞がってくれたが、そんなフェリルにも青年は何の反応を示すこともなかった。
 
 「召喚獣か、珍しいな。だがそんなものを従えただけで優越感を感じているとは人が知れる!」
 
 それどころか、さらに私へと怒鳴りつけてくる。
 
 「貴方は、何なんですか!」

 そしてその過剰な怒りに思わず私はそう怒鳴り返していた。
 その怒りの理由などわからない。  
 だが先程の言葉には自分とフェリルの関係を馬鹿にされたような気がして。
 
 「はっ!見え透いた嘘を!」

 「えっ?」

 だが、その私の言葉に帰ってきたのはそんな心底見下しような青年の目だった。

 「何だ?そういえば気を引けると思ったのか?それとも純粋無垢を装っているつもりか?」

 「いや、ちょっ、」

 「俺は騙されない」

 何故そんな解釈になるのか分からず、私は青年の言葉を否定しようとする。
 最後にそう告げた青年の声には、何か思い出しているようなそんな響きが篭っていた。
 それだけでなくその青年言葉には詳しくは分からない、けれども様々な感情が込められていることが分かって、私は思わず口を噤んでしまう。

 「俺はお前らの醜さを知ってるんだよ!俺を誘惑することしか考えていない!」

 だが私が口を噤んでも青年の叫びが止まることはなかった。 
 最後に青年は私の身体を見て嘲笑を浮かべながら告げた。

 「というか、本当にその貧相な身体で俺を誘惑できるとでも思ったのか?」

 「っ!」

 それは人の弱みを弱みを容赦なく暴く言葉だった。
 そしてその言葉で青年は超えてはいけない線を超えてしまったのだ。
 人が日々気にして改善しようと日々行なっている行動を、具体的には継母のドレスの偽物宝石を二束三文で売り飛ばして買った牛乳を飲んでいるという、その努力を全否定したのだ。

 「この、勘違い男が!」

 「あっ?」

 ーーー そしてその瞬間私の中で何かの線がプツリと切れた音がした。





 ◇◆◇





 ー ナントシテモアイツコロス。

 そう覚悟を決めた私はまずフェリルへと笑いかけた。

 「フェリル」

 「クルッ!?」

 そして優しく声をかけるが、だが何故かフェリルは震えだす。何故?
 いや、なるほど。フェリルも私の思いが伝わり、女の敵を倒す決意を固めているのに違いない。
 今の震えはその武者震いだろう。
 そう判断した私はお礼の意味も込めて、フェリルへと口を開く。

 「お願いね」

 「クルルッ!」

 「っ、何だ!こいつ!」

 すると次の瞬間悲壮な表情で覚悟を決めたフェリルは青年へと飛びかかった。
 もちろん魔法は使っていないが、それでもフェリルは物語でさえ歌われる存在フェニックス。
 たった1人の青年に簡単に払えるわけがなく、青年は泡を食ってフェリルをと振り払おうと闇雲に腕を振り回す。
 
 そしてその時青年の注意が私から逸れた。

 「ふふふ」

 それこそが私の狙いだと知らずに。
 最初から私は青年への仕返しをフェリルにやって貰うつもりはなかった。
 そんなことをしては私の恨みは晴らせない。
 繊細な乙女の心は酷く傷つきやすいのだ。
 
 そしてそんな乙女を傷つけた青年にはその報いを受けて貰わなければならない。
 
 私は口元に暗い笑みを張り付けたまま、手に魔獣を倒すのに使っていた木の棒を取る。 
 
 「くそ!俺が誰だか分からないのか!」

 「知るわけないでしょ……」

 そして何か喚く青年の言葉を呆れ気味に呟き、それから青年の側へとよる。
 もちろん未だ青年はフェリルに夢中で私が接近することには気づいていない。

 そのことを確かめて、私は私は大きく木の棒を振りかぶって……

 「私は着痩せするタイプですぅ!」

 「アァァァァァィア!」

 その私の渾身の叫びの後に響いた男性のものと思われしその声は、辺りの魔獣が退くほど悲痛なものだったという………


 それから後、その場にいたのは何とか命令を果たせたと珍しくあからさまに安堵していたフェリルと、片足の脛らしき場所を手で抑えながら転がりまわっている絶世の美青年。

 「オーホッホッホ!」

  さらには転げ回る青年の上に足を置いて高笑いする私の姿だった………

 そしてその時の私は知る由もなかった。
 
 草原に広がるあまりにも酷い状況、それがいつの日か運命の出会いだと知ることを……
  
  そして私に叩かれた脛を抑え涙目で転がり回るその絶世の美青年が、自分の切望していた王子であることを私が知るのはまだまだ先のことだった……
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