薄幸令嬢は王子の溺愛に気づかない

影茸

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17.お弁当の時間

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 私の少し?強烈な照れ隠しを受けてから青年は少しの間なんだが震えていた……
 だが、さすがに申し訳ないと思った私がお弁当を取り出すと顔色を変えた。
 
 「いや、俺はいらない……」

 その目には何故か私のお弁当に対する恐怖が宿っていた。
 え?何で……と思わず硬直した私に青年は顔を背けながらぼそりと漏らした。

 「………その料理食えるよな」

 「はっ?」

 そしてその瞬間、私の頭の中で何かが切れた音がした。
 確かに青年を叩いたり、脛を殴ったり、照れ隠しで棒で叩いたり私はしてきた!
 うん、やっぱり中々のことしてるな……
 だ、だけど、それでもこんな反応を取られる覚えはない!
 折角頑張って作ってきたのに!
 朝早く起きて、継母達にバレないように神経を使いながら必死に頑張ったのに!
 こんな反応は酷すぎる!

 「ふん!要らないならいいですよだ!」

 「あっ、」

 私は青年が呆気にとられるのも気にせず、青年に手渡していたお弁当を取り上げる。

 「なっ!」

 そして何処かほっとしているような青年の目の前でその中身を開けて見せた。
 その瞬間、今までお弁当を食べないで済むことにあからさまに安堵していた青年の顔が変わった。
 香ばしいサックリ揚げの匂いに驚愕、それから空腹の感情が顔に浮かぶ。
 
 「そ、その……」

 「はい、何か?あぁ、そうだお腹が空いた分はそこにある干し肉を食べてね」

 「っ!」

 青年の目は明らかにお弁当にロックオンされていた。
 だが私は敢えて青年の思惑を悟った上でそう澄まし顔で告げる。
 自分の失言には気をつけなければならないことをこれで青年は学ぶだろう。けけけ。
 そんな風に内心笑いながら、それでも表情は澄ました顔で私はお弁当を食べ始める。
 その名の通り、さっくりと油で揚げたサックリ揚げは歯ごたえがよく凄く美味しい。
 歯ごたえもあり、冷めていても味がしっかりついているのでこれはこれで充分楽しめる。

 「クルッ!」

 どうやらフェリルにも好評らしい。
 このくらいの味付けがちょうどいいということだろう!
 だが、これはもう少し味を濃くしてパンに挟んで食べても、それもまた美味しいかもしれない。
 
 「先程はすまなかった!」

 「ふぇ?」

 そんな風に私がお弁当を楽しんでいた時だった。
 私は突然頭を下げてきた青年の姿に思わず間抜けな声を上げてしまった。
 だが、直ぐにぐぅぅという間抜けな音が鳴り響いてきて、青年が私とフェリルが食べている様子を見て我慢できなくなったことを悟る。ふへへ。私の腕をやっと理解したか!
 そしてそのことで気を良くした私はもう青年にお弁当を渡していい気になっていた。
 このお弁当は最初から青年の存在を計算して作ったものなのだ。
 なのに怒りでそのことを忘れて渡さないなんてあまりにも情けなさすぎる。
 
 「へー。本当に?」

 だが、その時私の心に少し悪戯心が湧いた。
 もしここでうまくことを運べば、青年を次から草原でのんびりし隊(現在発足)に加盟させられるのではないかとそう思ったのだ。
 だから私は敢えて気の無い返事を青年に返して見せて……

 「あぁ、本当だ!この香ばしい匂い!それに見たことがないのに目が離せなく具材!この料理は国王お抱えの料理人にも劣らないっ!」

 「ひぇ?」

 だが、次の瞬間思ったよりも熱く語られた私はその青年の様子に思わず顔を赤らめてしまった。
 いや、自分の料理がある程度美味しいことは知っている。
 何せ自分が食べているのだ。
 分からない訳がない。
 だけどそれでもまさか国王お抱えの料理人よりも、て!
 そんな料理人の料理なんて食べれるはずないからお世辞だと分かっているけれども、それでも嬉しい!

 「そ、そう?」
 
 だがその青年の言葉に嬉しさを感じながらもそれでも私は直ぐにお弁当を渡すつもりなんてなかった。
 当たり前だ!幾ら何でもこんな手のひら返し……
  
 「あぁ!本当に最高の料理だ!」

 「しょうがないなぁ!」

 「うおっ!」

 次の瞬間私は青年に向けてお弁当を手渡していた。
 それもかなりの勢いで。
 そしてそのことに一瞬青年は驚くが直ぐに美味しい美味しいと食べ始めて、思わず私は口元に笑みを浮かべてしまう。
 確かにいつも美味しそうにフェリルは食べていてくれるが、だが口を開く訳ではないのでこんなに反応してくれると嬉しさが隠せないのだ。

 「うん、美味い!」

 そしてかき込むように食べていた青年が途中で、一息ついてそう笑った。
 
 「本当に?」

 「あぁ!毎日作ってもらいたほどに!」

 「っ!」

 次の青年の言葉、それに思わず私は言葉を失ってしまった。
 青年の言葉それは、私には本当に嬉しいことだったのだから。
 
 「………あ!そういえば庶民のプロポーズの言葉にこんな言葉が……」

 「ありがとう!」

 「っ!」

 だから私は何事か顔を赤くして呟いていた青年にそう笑顔で告げた。
 
 「まぁ、でも毎日は無理だけどね!」

 そしてその後、現実的にこの草原だけの関係である青年に毎日は無理だと、笑いながら告げた。

 「………うん。ですよね」

 「ん、どうしたの?」

 「……いや、いつになったら自分は学ぶんだろうなって思って」

 それから何故か青年のテンションは低かった……
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