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プロローグ

弱くてニューゲーム!?

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「よし、行くぞ!」

そう言って俺、桜井さくらいりょうは雪の降る寒い中を歩いていった。

(雪も積もってるし、何より寒い…だが!今日だけは諦めるわけにはいかないんだ!)

俺は悪天候など気にせずまっすぐ進んでいく。

(今日は数量限定、ラ○ライブフィギュアクリスマスverの発売日なのだから!)

そうして俺は近くのアニメショップへと急ぐのであった。

…ちなみに職業はニートである。


○●○

「いやー、この雪のせいか客が思ったよりいなかったなー」

俺は袋を目の前に掲げ、独り言を呟きながら帰っていた。

「半年以上ずっと待ち続けて、ついに、ついに!手に入った!」

俺は感動し、ずっとこれを愛でていたい気分であった。

(よし、早く帰って早速開封だ!)

俺はそう思って、交差点を走り抜け、ようとしたその時、横から黒い物体が視界に入った。

「ん?」

横を向くと、スリップを起こしたのか、車がこちらへと向かってきた。

ぶつかる。

そう思った時にはもう遅く、俺は轢かれて、周りの雪を赤く染めていた。

○●○

『こんにちは、桜井綾さん』

俺は目を覚ますと、目の前に1人の女性が座っていて、それ以外はなにもない、薄暗い空間の中にいた。

「…あの、俺はいったい…?」

『あなたは先程車にはねられて、死んだのです』

彼女は、ゆっくりと真実を告げた。

(あぁ、さっきのはやっぱり夢なんかじゃなく、俺は、死んだのか)

こんなに短い人生ならもっと色々やっとけばよかったな、などと感慨にふけっていた。

『それで、桜井さん』

「え、あ、はい」

彼女に声を掛けられ、俺は感覚を戻した。何がくるのか、と構えていると、

『天国に行くか、異世界転生するかー』
「異世界転生!?」

オタクとかやってるとそういう言葉に過剰になるのか、俺は身を乗り出してしまっていた。

『ぅえ!?あ、あの…』

おっとしまった、彼女が完全に怯えてしまっている、そう思って俺は一言「すいません…」と言って俺も座り直した。

『おほん、えっと、それでは聞きますが、あなたは天国に行くか異世界転生するか、どちらがいいですか?』

「異世界転生で」

俺は喜びの気持ちを抑えつつ、キリッとそう答えた。

『はい、わかりました。それでは桜井さんはここに立っていてください』

俺は彼女にしたがって、指差すところに立った。

「あの、あなたってもしかして女神だったりします?」

すっかりテンションが上がって、異世界転生あるあるを聞いていた。

『はい、私は女神、イリスと申します』

おお、やっぱりか!

「じゃ、じゃあやっぱりチート能力で異世界転生とか、そういうのなんですかね!?」

俺はワクワクしながら質問を続けた。

『はい?そんなものはありませんよ。能力も基本的に

……え?嘘?ないの!?そういうのないの!?

俺が軽くショックを受けている中、女神さまは『それじゃあ行きますよ』と言って地面に魔法陣を描く。

どうやら異世界転生はもうすぐらしい。

「え、ちょっと待ってください!?え?無いんですか!?」

『何度も言いますがありません。それではいきますよ!』

そう言うと、魔法陣が輝き、俺を光が包んでくる。

「待って!ちょっと待って!やっぱり取り消させー」

『それでは楽しい人生を』

女神様がそう微笑んだのを最後に、俺は光に包まれて消えていった。

○●○

光が消えると、そこにはよくあるRPGの始まりの街といった感じの景色が広がっていた。

「本当に異世界転生しちまったのか…?」

俺はその光景に感動を覚えるが、先ほどの女神様のセリフを思い出して、やっぱりナイーブな気持ちになってしまう。

(チートの無い異世界転生なんて、今までの人生がハードモードに変わっただけじゃねえか…)

少し妄想にでも逃げたい気分だが、今はそうしてる場合でも無いのでとりあえず歩くことにした。

「とりあえずギルドでも探すか」

異世界に来たならとりあえずギルドに行って身分証を作ってもらう、ってのがテンプレだよな。

(住民に聞くって手もあるけど基本コミュ障の俺には無理だな…)

そう思って俺が歩き出そー

「よう、アンタ見ない顔だな、どっから来たんだ?」

ーうとしたその時、誰かに話しかけられた。俺はぎこちなく、後ろを振り返ると好青年そうな男の人が立っていた。

「俺はライアン、何か探してるのか?」

「えっ、えっとギルドを探してて、あっ、桜井綾です!」

俺はその好青年に、完全にテンパりながら返すことしかできなかった。本当自分で自分が恥ずかしい。

「サクライね、ギルドならこっちだぜ」

何!?特に反応を示さないだと!?学校だったらコミュ障とか笑われたりすんのに…なんていい人なんだ。

「ん、どうしたサクライ」

「あ、いえ、…あ、あとリョウでいいですよ、名前で」

俺はその優しさに心が和らいだのか、ふつうにしゃべれるようになってきた。

「あれ、名前ってサクライじゃなかったのか」

あ、そっか、名前が先にくるのか。これは覚えるようにしとこう。

ーそして5分ほど歩いた後、

「ほれ、ここがこの街のギルドだ」

「お、おぉー」

ギルドは思っていた通り、ザRPGって感じで中々にいいものだった。

「よし、じゃ中に入るか」

「え?ライアンさんも用事があってここに?」

「いや、リョウはなんか人見知りしそうなヤツだらか受付とか大丈夫なのかって思ってな」

そう笑いながらライアンはそう言った。やばい、いい人すぎる、これもう女だったら惚れてるレベルだわ。

こうしてライアンと一緒にギルドの中へ入っていった。

「こんにちは!今日はどのようなご用件でしょうか?」

受付のところへ行き、受付嬢が元気よく挨拶をしてくれた。

「あ、あの冒険者登録をお願いしたいんですが…」

「はい!わかりました。少々お待ちください」

そう言って受付嬢の人はどこかへ行き、すぐに水晶玉を持って戻ってきた。

「料金の銀貨3枚お願いします!」

え?銀貨?お金かかんの!?

焦って俺はポケットにお金がないか探してみる。と、ポケットから金貨がでてきた。

「あ、あの、これでお願いできますか?」

とりあえずよく分からないが金貨を受付嬢に渡した。

「はい!半金貨一枚ですね。それでは銀貨を7枚お返しします!」

とりあえずうまくいったみたいだ。

ふむ、受付嬢の話を聞く限りだと、さっきの半金貨というのが銀貨10枚分の価値があるらしい。覚えておこう。

「それでは水晶に手をかざしてください!」

俺は言われたように水晶に手をかざした。そして水晶が輝きを放ち、下に置かれたカードに光が注がれていく。それはカードに文字を写し、すぐに終わった。

「完成しましたよ!えーと、リョウ=サクライ様ですね、こちらをどうぞ!」

「あ、ありがとうこざいます」

「ん、無事に登録できたみたいだし、俺は帰るわ」

「あ!ライアンさん、ご親切にありがとうこざいました!」

そう言ってライアンは手をひらひらと振って帰っていった。いや、本当にいい人であった。あの人と出会って、こんな優しい人がいるなら異世界こっちでもやってけるんじゃないかと思えた。本当にありがたい。

「さてさて、俺の能力はー」

そして俺はカードにある、自分の能力を見てみた。

リョウ=サクライ レベル1

体力ー3 魔力ー20 筋力ー18 

耐久ー25 敏捷ー22 精神ー16 

運ー18

と書いてある。

(ん?待て、体力だけあり得ないくらい低くないか?)

「あ、あの、レベル1の人の平均の値ってどれくらいですかね?」

俺は恐る恐る受付嬢に尋ねてみると、

「平均はどれも20だったと思いますよ」

「じゃ、じゃあ一番弱いモンスターの攻撃ってどれくらい入りますか?」

「一番弱いスライムで5だったと思いますよ」

それを聞いた俺はその場に崩れ落ちた。そして女神様の言っていたことを思いだす。

『前世の行い等によって決まりますので』

まぁ、たしかに俺はずっとニートをしていた。いい行いではないので少しくらい能力に影響が出てもおかしくない。
おかしくない、が!

「あ、あの大丈ー」
「いくらなんでも集中的すぎんだろうがぁぁぁあ!!」

俺の叫びはギルド中に響き渡った。

あぁ、神様、俺は異世界チートはおろか、スライムにすらワンパンされるような、弱小冒険者に転生してしまったようです…。
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