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【18】
「え?お姉様がお茶会へ?」
セドリックの報告に、それはいつもの事である、何が問題なのだろう、とエリザベスは思った。
「それが、お相手にウィリアム様を同伴されたようです。」
学園は夏の長期休みに入っている。
エリザベスは暑さの中を、涼しい内にと更に早起きをして、せっせと執務や執務に励んでいた。
なんだ。聞いてみれば、考えなし三人組か。
「ですが、今回は奥様は出席されておりません。」
「え?」二人きりで?と思うも、
「放って置きましょう。」
「宜しいので?」
考えるだけ時間の無駄である事は十分に分かった。
「お父様はご存知なのでしょう?何と仰っているの?」
「放って置けと。」
でしょう?
「なら構わないわ。」
考えなし三人組改め二人組は、本当に何も考えていないらしい。
人の目も噂も、おっとり二人組は自分達の美麗な容姿を褒めてくれるものと思っている。とんだナルシスト二人組である。
婚約を解消した妹の婚約者と出歩く意味を解っているのだろうか。ウィリアムは、自分が後継の権利を捨ててまで望んで願って婚約を結んだ男の弟であるのに。
そこまで考えて、しかしと思い返す。
自分も同じではないか。
姉達ばかりを責められない。
心の内に仕舞い込んだとしても、ジョージへの恋心を抱いたまま、共同事業と言っては行動を共にしている。
元婚約者の兄と一緒に二人で過ごしている。
彼は姉の婚約者であるのに。
結局、傍から見れば同じ事をしているのだ。そう思って胸にキリリと痛みを感じた。だから、ふわふわとした恋心が表に飛び出てこないように、しっかり固く蓋をするのであった。
エレノアとウィリアムはそれからも度々共に外出をしている様であった。
当然、父には全て報告されているのだろうが、それを知ってか知らずか、あれほど出先の話を晩餐の席で披露する姉が、ウィリアムとの外出については口を閉ざしている。
そうして父にも、姉に注意を促す様子が見えない。
二人が共に歩く頻度が増せば、当然人の目に付くし噂にもなるだろう。
仮に我が家は良いとして、侯爵家は醜聞ともいえる噂が立つのを許しているのだろうか。
「別に構わないよ。」
週に一度は侯爵家を訪う様になったエリザベスの言葉に、ジョージは些事を聞いた風に答えた。
「君のお父上はなんと?」
「放って置けと。」
「だろう?」
何処かで聞いた会話だ。
「君のお父上が静観されておられるのなら尚の事、放っておいて結構。」
エリザベスは聞かずにはいられなかった。
予てから疑問に思いながら、誰にも聞けず口にも出せなかった。
それが、ぷすぷすと胸の内で燻ぶって、放っておいたら発火してしまいそうであった。
「ジョージ様は宜しいのですか?姉は貴方の婚約者です。貴方はもうすぐ婚「いいんだよ、エリザベス。」
ひやりとする冷たい声音に、思わず身が竦む。
「エリザベス、そこは君が考える事では無い。」
少しばかり親しく距離が縮んでいたからと、思い上がっていたのをすかさず諌められた気がした。ジョージと姉の間には、エリザベスには知り得ない絆があるのかもしれない。
顔から火が出るというのは、こういう事を言うのだ。
恥ずかしさの余り、ジョージの顔を見られずに、エリザベスは俯いてしまった。
滅多な事を聞くものではない。これ以上立ち入ってはならない。
心の蓋は更にきつく閉まる。
「エリザベス様、そろそろお時間です。」
主の会話には余程の事が無い限り口を挟まないセドリックが、エリザベスに退席を促した。
身体を硬くするエリザベスに、逃げ道を差し出す。
「まあ、そんな時間。ジョージ様、遅くまで申し訳ありませんでした。今日はこれで失礼致します。」
上手く笑えたであろうか。己の迂闊さが恥ずかしくて、目を見ることが出来なかった。これで後継者だと云うのだから呆れてしまう。
扉に向かい、すぐ後ろに侍るセドリックの背中に隠される様に退室する。ジョージの表情は分からない。何しろまともに顔を見られなかったのだから。
侯爵家の玄関ポーチを出て、馬車まで歩きながら
「有難う、セドリック。」
そう言えば、
「エリザベス様に恥ずべき事は何もございません。」
セドリックはどこまでもエリザベスの心情に寄り添ってくれる。
馬車まで着いて御者が扉を開く。
セドリックに手を取られてステップに上がり馬車に乗り込む時に、後ろにざわめきを感じた。屋敷で何かあったのかと振り返りそうになったその時、
「ひゃっ!」「エリザベス様!」
身体が宙に浮いてステップから足を踏み外して落ちたのだと思った。
ふわりと身体が持ち上げられて二本の腕に抱え込まれる。
「エリザベス様!」
セドリックの慌てた声を初めて聞いた。って、そうではなくて、抱き上げられている?!
覚えのあるスパイシーな香り、あの日馬車の中で抱き締められて胸にしがみついた時に憶えた香り。
「セブルス、エリザベス嬢は目眩がしたらしい。部屋で休ませるから邸には後で送って行く。馬車は返して良い。侍従も返せ。」
セブルスとは侯爵家の執事の名だ。
馬車もセドリックも邸に返せと言う声に、心臓がひやりと縮こまる。
怒らせてしまった。
「エリザベス。」
抱き上げられて縮こまり固く目を瞑った耳元で名を呼ばれる。
吐息が耳に掛かっている。殆ど耳に口付けされているほどの距離で、
「エリザベス」
もう一度名を呼ばれた。
セドリックの報告に、それはいつもの事である、何が問題なのだろう、とエリザベスは思った。
「それが、お相手にウィリアム様を同伴されたようです。」
学園は夏の長期休みに入っている。
エリザベスは暑さの中を、涼しい内にと更に早起きをして、せっせと執務や執務に励んでいた。
なんだ。聞いてみれば、考えなし三人組か。
「ですが、今回は奥様は出席されておりません。」
「え?」二人きりで?と思うも、
「放って置きましょう。」
「宜しいので?」
考えるだけ時間の無駄である事は十分に分かった。
「お父様はご存知なのでしょう?何と仰っているの?」
「放って置けと。」
でしょう?
「なら構わないわ。」
考えなし三人組改め二人組は、本当に何も考えていないらしい。
人の目も噂も、おっとり二人組は自分達の美麗な容姿を褒めてくれるものと思っている。とんだナルシスト二人組である。
婚約を解消した妹の婚約者と出歩く意味を解っているのだろうか。ウィリアムは、自分が後継の権利を捨ててまで望んで願って婚約を結んだ男の弟であるのに。
そこまで考えて、しかしと思い返す。
自分も同じではないか。
姉達ばかりを責められない。
心の内に仕舞い込んだとしても、ジョージへの恋心を抱いたまま、共同事業と言っては行動を共にしている。
元婚約者の兄と一緒に二人で過ごしている。
彼は姉の婚約者であるのに。
結局、傍から見れば同じ事をしているのだ。そう思って胸にキリリと痛みを感じた。だから、ふわふわとした恋心が表に飛び出てこないように、しっかり固く蓋をするのであった。
エレノアとウィリアムはそれからも度々共に外出をしている様であった。
当然、父には全て報告されているのだろうが、それを知ってか知らずか、あれほど出先の話を晩餐の席で披露する姉が、ウィリアムとの外出については口を閉ざしている。
そうして父にも、姉に注意を促す様子が見えない。
二人が共に歩く頻度が増せば、当然人の目に付くし噂にもなるだろう。
仮に我が家は良いとして、侯爵家は醜聞ともいえる噂が立つのを許しているのだろうか。
「別に構わないよ。」
週に一度は侯爵家を訪う様になったエリザベスの言葉に、ジョージは些事を聞いた風に答えた。
「君のお父上はなんと?」
「放って置けと。」
「だろう?」
何処かで聞いた会話だ。
「君のお父上が静観されておられるのなら尚の事、放っておいて結構。」
エリザベスは聞かずにはいられなかった。
予てから疑問に思いながら、誰にも聞けず口にも出せなかった。
それが、ぷすぷすと胸の内で燻ぶって、放っておいたら発火してしまいそうであった。
「ジョージ様は宜しいのですか?姉は貴方の婚約者です。貴方はもうすぐ婚「いいんだよ、エリザベス。」
ひやりとする冷たい声音に、思わず身が竦む。
「エリザベス、そこは君が考える事では無い。」
少しばかり親しく距離が縮んでいたからと、思い上がっていたのをすかさず諌められた気がした。ジョージと姉の間には、エリザベスには知り得ない絆があるのかもしれない。
顔から火が出るというのは、こういう事を言うのだ。
恥ずかしさの余り、ジョージの顔を見られずに、エリザベスは俯いてしまった。
滅多な事を聞くものではない。これ以上立ち入ってはならない。
心の蓋は更にきつく閉まる。
「エリザベス様、そろそろお時間です。」
主の会話には余程の事が無い限り口を挟まないセドリックが、エリザベスに退席を促した。
身体を硬くするエリザベスに、逃げ道を差し出す。
「まあ、そんな時間。ジョージ様、遅くまで申し訳ありませんでした。今日はこれで失礼致します。」
上手く笑えたであろうか。己の迂闊さが恥ずかしくて、目を見ることが出来なかった。これで後継者だと云うのだから呆れてしまう。
扉に向かい、すぐ後ろに侍るセドリックの背中に隠される様に退室する。ジョージの表情は分からない。何しろまともに顔を見られなかったのだから。
侯爵家の玄関ポーチを出て、馬車まで歩きながら
「有難う、セドリック。」
そう言えば、
「エリザベス様に恥ずべき事は何もございません。」
セドリックはどこまでもエリザベスの心情に寄り添ってくれる。
馬車まで着いて御者が扉を開く。
セドリックに手を取られてステップに上がり馬車に乗り込む時に、後ろにざわめきを感じた。屋敷で何かあったのかと振り返りそうになったその時、
「ひゃっ!」「エリザベス様!」
身体が宙に浮いてステップから足を踏み外して落ちたのだと思った。
ふわりと身体が持ち上げられて二本の腕に抱え込まれる。
「エリザベス様!」
セドリックの慌てた声を初めて聞いた。って、そうではなくて、抱き上げられている?!
覚えのあるスパイシーな香り、あの日馬車の中で抱き締められて胸にしがみついた時に憶えた香り。
「セブルス、エリザベス嬢は目眩がしたらしい。部屋で休ませるから邸には後で送って行く。馬車は返して良い。侍従も返せ。」
セブルスとは侯爵家の執事の名だ。
馬車もセドリックも邸に返せと言う声に、心臓がひやりと縮こまる。
怒らせてしまった。
「エリザベス。」
抱き上げられて縮こまり固く目を瞑った耳元で名を呼ばれる。
吐息が耳に掛かっている。殆ど耳に口付けされているほどの距離で、
「エリザベス」
もう一度名を呼ばれた。
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