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ローレンの指差す場所を見て、ソフィアは真っ赤に逆上せ上がった。
そ、そ、そんな、で、殿下のそんなとこを指差されるままに視線を向けてしまった!
そんな場所を確かめるだなんて、い、致さなければ無理なのでは?
「君の思っている通りだよ。陛下は私に命ずる事はなさらなかった。王太子を汚したくは無かったのだろう。私であれば、もっと違う方法で確かめられたのを。陛下の退位は早めなければね。判断がぶれ過ぎだ。
ルイは素直な子だよ。命じられた通りにしたまでだ。陛下が自分を軽んじている事を薄々気付いて、何とか成果を見せようと命じられた様に彼女に接近し、そう云う関係を持った。筆下ろしも未だであったのに。閨の教育も済まない内に。
可哀想な事をしたよ。ルイはそんな事を考えずとも良かったんだ。まあ、王族に汚れ仕事は日常だ。君も私の本質を知ったなら、きっと心底忌み嫌う事だろう。
結果を言えば痣は無かった。アマンダの母は祖父の子ではなく、別の種であったのだよ。
祖父も祖父なら女官も女官だ。祖父以外からも種を貰い受けていた。当時の近衛の一人にあの特徴的な髪色と瞳の兵士がいたらしい。
女官は孕むと早々に職を辞した。兵士の子を何処かで産み落としたのを祖父は追っていた。
では何故、初めから髪色で分からなかったか?
アマンダの母は女官に似て、ブルネットに榛の瞳であった。王家の色も兵士の色も、どちらも引き継いではいなかった。
であれば早々に、拐ってでも痣を確かめていたなら今頃ルイの苦悩は生じてはいなかったよ。祖父は初動も出遅れその後の判断も見誤った。
痣の見分けは王族にしか出来ない。
王家の色すら持ち合わせてはいないのに、痣など在る筈もないと主張する祖母に祖父は反論出来ず、まだ成人前の陛下には女の相手は無理であった。
そうやって王家が手を拱く内に、早熟な娘はアマンダを孕んで産み落とした。兵士そっくりのあの髪色と瞳は隔世遺伝なのだろう。
それより、アマンダがあれ程はっきりと兵士の特徴を引継いでいるのに、陛下はそれで終いとはしなかった。最後の最後、決め手となる確たる証が欲しかった。それで愚かな手法を選んだ。
お陰でアマンダから恋人になったと思われたルイは、要らぬ苦労を背負い込んだ。尻の軽い庶子にうつつを抜かしていると酷い噂を立てられた。
折角、気になる女の子が婚約者候補に選ばれたのに、噂のせいでその子に嫌われていると悩んでいたよ。アマンダは、その子を敵対視し始めて、あろう事か窃盗の罪まで擦り付けようとした。」
え?え?真逆それは?
「ソフィア嬢、ルイは君を好いていた。このまま何も無ければ、妃は君に決まっていた。」
「これだけは分かって欲しい。ルイは好き好んでアマンダと関係を持ったのでは無い。残念ながら、その方法しか考えられなかった。悲しい事にね。
だから、ルイを隣国ヘ留学をさせた。あの見目だから必ず王女の目に留まる。王女は私より優しげな風貌のルイがお好みなんだよ。
結局、私もルイを追い詰めたのかな。こうなる事が分かって行かせたからね。
けれども、この国にいるよりもルイにとっては幸せなのではないかな。
ソフィア、私はね。陛下から王位を奪おうと思っている。そうなれば国は暫く荒れるだろう。そんな国の姿を見ずに済むのなら、ルイには隣国で生きる道を開いてやりたい。」
秋の日が落ちるのは早い。
落日の夕日が王太子の頬に濃い影をつくって、その表情を曇らせて見せている。
こんな事を聞いてしまって良いのだろうか。
この国の未来はどうなるの?
秋風の冷ややかさとは違う寒さを覚えて、ソフィアはぶるりと身震いをした。
王太子のほんの少し後ろに付いて、王宮の長い回廊を歩く。ローレンが馬車留まで送って行くと言ったから。
荘厳で麗美な宮殿である。それが近い将来、血を見るかもしれない。平和ボケしていた自分が恥ずかしい。
女の影があるからと、嫌だ嫌いだと喚く自分のなんと幼稚で無知な事か。
二歳しか歳の違わない、まだ学生の身である王太子の覚悟を知って、それさえほんの一端に過ぎないが、ソフィアはすっかり恥じ入った。
方法は間違えてしまったかもしれないが、ルイもまた王族としての覚悟を持っていたのだろう。
いつか会える日が来るのなら、誤解をした事を、傷付けてしまった事を、誠心誠意謝りたいと思った。
結局あの後アマンダは、男爵家から放逐されて学園も退学させられた。
その後は暗部の手の内だろう。彼女が王家の血筋で無ければ害にしかならない。
あちこちでルイとの関係を面白可笑しく吹聴されて困るのは王家なのだ。
そう思うとアマンダも報われない。
結局みんな王家の勝手に振り回されていたのだから。
そ、そ、そんな、で、殿下のそんなとこを指差されるままに視線を向けてしまった!
そんな場所を確かめるだなんて、い、致さなければ無理なのでは?
「君の思っている通りだよ。陛下は私に命ずる事はなさらなかった。王太子を汚したくは無かったのだろう。私であれば、もっと違う方法で確かめられたのを。陛下の退位は早めなければね。判断がぶれ過ぎだ。
ルイは素直な子だよ。命じられた通りにしたまでだ。陛下が自分を軽んじている事を薄々気付いて、何とか成果を見せようと命じられた様に彼女に接近し、そう云う関係を持った。筆下ろしも未だであったのに。閨の教育も済まない内に。
可哀想な事をしたよ。ルイはそんな事を考えずとも良かったんだ。まあ、王族に汚れ仕事は日常だ。君も私の本質を知ったなら、きっと心底忌み嫌う事だろう。
結果を言えば痣は無かった。アマンダの母は祖父の子ではなく、別の種であったのだよ。
祖父も祖父なら女官も女官だ。祖父以外からも種を貰い受けていた。当時の近衛の一人にあの特徴的な髪色と瞳の兵士がいたらしい。
女官は孕むと早々に職を辞した。兵士の子を何処かで産み落としたのを祖父は追っていた。
では何故、初めから髪色で分からなかったか?
アマンダの母は女官に似て、ブルネットに榛の瞳であった。王家の色も兵士の色も、どちらも引き継いではいなかった。
であれば早々に、拐ってでも痣を確かめていたなら今頃ルイの苦悩は生じてはいなかったよ。祖父は初動も出遅れその後の判断も見誤った。
痣の見分けは王族にしか出来ない。
王家の色すら持ち合わせてはいないのに、痣など在る筈もないと主張する祖母に祖父は反論出来ず、まだ成人前の陛下には女の相手は無理であった。
そうやって王家が手を拱く内に、早熟な娘はアマンダを孕んで産み落とした。兵士そっくりのあの髪色と瞳は隔世遺伝なのだろう。
それより、アマンダがあれ程はっきりと兵士の特徴を引継いでいるのに、陛下はそれで終いとはしなかった。最後の最後、決め手となる確たる証が欲しかった。それで愚かな手法を選んだ。
お陰でアマンダから恋人になったと思われたルイは、要らぬ苦労を背負い込んだ。尻の軽い庶子にうつつを抜かしていると酷い噂を立てられた。
折角、気になる女の子が婚約者候補に選ばれたのに、噂のせいでその子に嫌われていると悩んでいたよ。アマンダは、その子を敵対視し始めて、あろう事か窃盗の罪まで擦り付けようとした。」
え?え?真逆それは?
「ソフィア嬢、ルイは君を好いていた。このまま何も無ければ、妃は君に決まっていた。」
「これだけは分かって欲しい。ルイは好き好んでアマンダと関係を持ったのでは無い。残念ながら、その方法しか考えられなかった。悲しい事にね。
だから、ルイを隣国ヘ留学をさせた。あの見目だから必ず王女の目に留まる。王女は私より優しげな風貌のルイがお好みなんだよ。
結局、私もルイを追い詰めたのかな。こうなる事が分かって行かせたからね。
けれども、この国にいるよりもルイにとっては幸せなのではないかな。
ソフィア、私はね。陛下から王位を奪おうと思っている。そうなれば国は暫く荒れるだろう。そんな国の姿を見ずに済むのなら、ルイには隣国で生きる道を開いてやりたい。」
秋の日が落ちるのは早い。
落日の夕日が王太子の頬に濃い影をつくって、その表情を曇らせて見せている。
こんな事を聞いてしまって良いのだろうか。
この国の未来はどうなるの?
秋風の冷ややかさとは違う寒さを覚えて、ソフィアはぶるりと身震いをした。
王太子のほんの少し後ろに付いて、王宮の長い回廊を歩く。ローレンが馬車留まで送って行くと言ったから。
荘厳で麗美な宮殿である。それが近い将来、血を見るかもしれない。平和ボケしていた自分が恥ずかしい。
女の影があるからと、嫌だ嫌いだと喚く自分のなんと幼稚で無知な事か。
二歳しか歳の違わない、まだ学生の身である王太子の覚悟を知って、それさえほんの一端に過ぎないが、ソフィアはすっかり恥じ入った。
方法は間違えてしまったかもしれないが、ルイもまた王族としての覚悟を持っていたのだろう。
いつか会える日が来るのなら、誤解をした事を、傷付けてしまった事を、誠心誠意謝りたいと思った。
結局あの後アマンダは、男爵家から放逐されて学園も退学させられた。
その後は暗部の手の内だろう。彼女が王家の血筋で無ければ害にしかならない。
あちこちでルイとの関係を面白可笑しく吹聴されて困るのは王家なのだ。
そう思うとアマンダも報われない。
結局みんな王家の勝手に振り回されていたのだから。
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