もしも貴方が

桃井すもも

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視線

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私とマリアンネ様との間には、当然ながら交流など有りません。

気の強い令嬢なら、私の婚約者に近付くなと牽制しても可怪しくない間柄です。

私が彼女にそうしないのは、大元のトーマス様にさえ何も言っていないからです。言えずにいるとも云えましょう。

そしてもう一つは、私自身がマリアンネ様と関わる事を望んでいなかったからです。
どちらかと云うと、こちらの理由が大きいと思います。

彼女に対して、何を思うかということを極力考えない様にしておりました。
考える事は容易いのです。胸のむかつく不快感を抑えているのです。

私の矜持のようなものが私を貴族然とさせているのかと色々考えても、結局は愛されない自分が惨めだから、この一点に帰結するのです。

彼女を瞳に映すと、私は自分が惨めに思えてしまいます。生まれも生家の爵位も差異がない私達に何が違うのかといえば、残るのはトーマス様の心を捉える魅力なのだと、そう思うと心がどんどん曇っていくのです。

私が自分の中で唯一美しいと思える濃い青い瞳を、人を羨やむ羨望や妬みで曇らせたくはありませんでした。

この瞳は、北の地にある雪解け水が注ぐ青い湖、どこまでも澄んで湖底まで見通せる、澄んだ青い湖であってほしいと思っているのです。

一つだけ数えられる自分の長所を、人生のどの場面に於いても大切にしたいと思っているのです。

だから、最近感じる強い視線に迷惑な思いと同時に戸惑いを感じました。

同じ学年ですから、当然出会う事はあるのです。移動教室などで廊下を歩く時、すれ違う事はこれまでも何度もありました。

遠くから彼女の姿を認めると、私はなるべく自然を装い視線をずらします。
私に出来る抵抗など、それくらいですが。

彼女にしても、私の存在は疎ましいものでしょう。
先視で視たマリアンネ様は、トーマス様にあれ程愛され優遇されていたのを、それでも私と婚姻してしまうのを許せずに私を殺めたのですから。

けれども世間的な立場で云えば、マリアンネ様が私に何か物申す事は出来ないのです。彼女がそれを承知しているから、それとも、トーマス様の愛がご自分の元にあるのを確信しているからか、今まで私とは関わることなど無かったのです。
こんな強い視線を向けるなどと。

私の隣で一緒に歩いていた友人が訝しむ程です。すれ違い様のマリアンネ様の視線はそれ程に強かったのでしょう。

勿論、私は目を合わせないように細心の注意を払っておりました。

この青い瞳に邪なものを映したくないと思う本能でしょうか。
彼女の視線を私の瞳に映す必要を感じませんでした。

この世には、目を逸らしてはならないものがあります。

同じ様にこの世には、見なくてよいものがあるのです。
私は、マリアンネ様から向けられる視線がそう云う類いのものだと感じたのでした。







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