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贖罪
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「クレア、君、彼に会いに行こうとしている?」
私とユダ様は一緒に馬車に乗っております。
ユダ様のお宅の馬車なので、我が家の侍女は、また別に帰してしまう事になってしまいました。
私の手は、まだユダ様に手を握られたままです。
恥ずかしいですが、ユダ様の大きくて温かな手のひらに心が落ち着いてゆくのが分かります。
邸に着くと、心配していたのでしょう。
母ばかりでなく父までも玄関ホールまで出迎えてくれました。
ユダ様が父と母に挨拶をなさいます。
良く知るユダ様よりも大人びて見えて、少し見とれていた様です。
「クレア、また明日。」
そう仰って帰られるユダ様の背中を見つめます。
「彼が例の?」
「ええ、以前お話ししたクラスメイトのユダ様です。」
そうか、と仰った父はそれ以上何も聞かずに戻って行きました。
翌日、学園でユダ様に昨日のお礼を伝えました。
何だか、まだ手を握られているようで照れてしまい、少々素っ気ない風になってしまいました。
そんな私が気にならないらしく、ユダ様が「彼に会うの?」と聞いていらっしゃいます。
「ええ、少しだけお話ししようかと。」
お見舞いもまだですし。と、私が言うと、ユダ様が眉を寄せます。
その仕草が心配しているのだと、最近分かってきました。
「僕も一緒ではいけないかな?」
「トーマス様のお怪我は軽いと言うことですが、あちらに伺ってみます。二人で訪問してよいかと。」
うん。とユダ様が頷きます。
大きな御身体に黒髪のユダ様は、表情だけは中性的な艷やかさをお持ちです。
そこに幼子の様なあどけなさで眉を寄せて上目遣いをされたなら、大抵の人は嫌とは言えないでしょう。
何処か憎めない可愛らしさが狡いです。そんな特技、私も欲しかったです。そうしたら...、とそこまで考えて、もう終わった過去への未練を振り払いました。
それから少しユダ様とお話ししました。
図書室前の花壇のベンチは、今日は私達の特等席です。
先視の時に手を握られてから、心の距離が縮まったらしく、並んで座る私達の間にあった空間も縮まっております。
「実のところ僕は、」
ユダ様が話し始めます。
「実のところ僕は、視えないものなど信じていないんだ。もしそれを信じてしまったら、天に召された僕の兄達はどうなるんだろう。まるで何かの罪の償いの様に、幼い命が召されたんだ。二人とも。
それが何かの罰で、兄達の死がその贖罪だというのなら、罪人(つみびと)は一体誰だと云うんだ? 父?母?それとも兄達? 死にゆく者に罪があるなんて、そんな馬鹿げた話はないよ。そんな視えない存在から与えられる罪の呵責なんて、僕は真っ平御免だよ。兄達の死は不幸な出来事なんだ。そうでなければならないんだ。そうであれば、両親の悲しみはいつか癒える時が来るかもしれない。兄達の死を不幸な出来事と受け止められる日が来るかもしれない。だから、僕は視えないものは信じないで来たんだ。目に見えて、確かに触れられる、そう云うものを信じて来たんだよ。」
そう言ってユダ様は私の手を握りました。
私は、ユダ様が泣いてしまうのではないかと心配になりました。だから、私のもう片方の手で、私の手を握るユダ様の手を包みました。
ユダ様が私を見つめていらっしゃいます。ユダ様の瞳に私が映っております。
私の青い瞳を、澄んだものを見通す瞳を、ユダ様は暫し見つめていらっしゃいました。
私は、ユダ様の潤んだ瞳から涙が零れはしないかと只々心配で、ユダ様の瞳を見つめ続けたのです。
私とユダ様は一緒に馬車に乗っております。
ユダ様のお宅の馬車なので、我が家の侍女は、また別に帰してしまう事になってしまいました。
私の手は、まだユダ様に手を握られたままです。
恥ずかしいですが、ユダ様の大きくて温かな手のひらに心が落ち着いてゆくのが分かります。
邸に着くと、心配していたのでしょう。
母ばかりでなく父までも玄関ホールまで出迎えてくれました。
ユダ様が父と母に挨拶をなさいます。
良く知るユダ様よりも大人びて見えて、少し見とれていた様です。
「クレア、また明日。」
そう仰って帰られるユダ様の背中を見つめます。
「彼が例の?」
「ええ、以前お話ししたクラスメイトのユダ様です。」
そうか、と仰った父はそれ以上何も聞かずに戻って行きました。
翌日、学園でユダ様に昨日のお礼を伝えました。
何だか、まだ手を握られているようで照れてしまい、少々素っ気ない風になってしまいました。
そんな私が気にならないらしく、ユダ様が「彼に会うの?」と聞いていらっしゃいます。
「ええ、少しだけお話ししようかと。」
お見舞いもまだですし。と、私が言うと、ユダ様が眉を寄せます。
その仕草が心配しているのだと、最近分かってきました。
「僕も一緒ではいけないかな?」
「トーマス様のお怪我は軽いと言うことですが、あちらに伺ってみます。二人で訪問してよいかと。」
うん。とユダ様が頷きます。
大きな御身体に黒髪のユダ様は、表情だけは中性的な艷やかさをお持ちです。
そこに幼子の様なあどけなさで眉を寄せて上目遣いをされたなら、大抵の人は嫌とは言えないでしょう。
何処か憎めない可愛らしさが狡いです。そんな特技、私も欲しかったです。そうしたら...、とそこまで考えて、もう終わった過去への未練を振り払いました。
それから少しユダ様とお話ししました。
図書室前の花壇のベンチは、今日は私達の特等席です。
先視の時に手を握られてから、心の距離が縮まったらしく、並んで座る私達の間にあった空間も縮まっております。
「実のところ僕は、」
ユダ様が話し始めます。
「実のところ僕は、視えないものなど信じていないんだ。もしそれを信じてしまったら、天に召された僕の兄達はどうなるんだろう。まるで何かの罪の償いの様に、幼い命が召されたんだ。二人とも。
それが何かの罰で、兄達の死がその贖罪だというのなら、罪人(つみびと)は一体誰だと云うんだ? 父?母?それとも兄達? 死にゆく者に罪があるなんて、そんな馬鹿げた話はないよ。そんな視えない存在から与えられる罪の呵責なんて、僕は真っ平御免だよ。兄達の死は不幸な出来事なんだ。そうでなければならないんだ。そうであれば、両親の悲しみはいつか癒える時が来るかもしれない。兄達の死を不幸な出来事と受け止められる日が来るかもしれない。だから、僕は視えないものは信じないで来たんだ。目に見えて、確かに触れられる、そう云うものを信じて来たんだよ。」
そう言ってユダ様は私の手を握りました。
私は、ユダ様が泣いてしまうのではないかと心配になりました。だから、私のもう片方の手で、私の手を握るユダ様の手を包みました。
ユダ様が私を見つめていらっしゃいます。ユダ様の瞳に私が映っております。
私の青い瞳を、澄んだものを見通す瞳を、ユダ様は暫し見つめていらっしゃいました。
私は、ユダ様の潤んだ瞳から涙が零れはしないかと只々心配で、ユダ様の瞳を見つめ続けたのです。
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