13 / 32
【13】
コレットは、多分エドガーに何かを褒められた事が無い。容姿だけでなく、何に於いても褒められた記憶が無い。九歳も年下の低位貴族の令嬢であったコレットに、褒められるところなどコレット本人でもなかなか見つけられない。
侍女達が「美しい」と励ましてくれるのをエールと受け止めて、毎回夜会を乗り切って来た。
今夜も夫が無言のまま馬車に乗っても、それはいつもの事であった。
「何故宝石を着けない。」
だから、エドガーから急に言葉を掛けられて驚いてしまった。驚いた余り、暫く反応出来ずにいると
「髪飾りがあるだろう。」
宝物庫にも、と続ける。
「母の物を直しても良いし、気に入らなければ、」
「いいえ、良いのです。花が好きなのです。」
漸く言葉を発した時には、エドガーを遮ってしまった。
「花が好きなのか?」
まるで初めて知ったと云う顔をする。
「ええ、とても。」
エドガーは納得したのか、それ以上の会話は続かなかった。
夜会会場に入ると夫とは別々に分かれる。
それがいつもの事なので、いつもの様に見知った婦人達に会釈をして、飲み物を貰う。
夫婦が揃って挨拶をしたのは、婚姻式の後の僅かな期間であった。
エドガーの仕事に関わっていないコレットを伴っても邪魔になるだけだろう。紳士達には彼等だけの話もあろう。
だから、そんな紳士達に囲まれて華やかな笑みを振りまく女性に直ぐに目が行った。
遠目でも分かる、美しく飾られた黒髪に靭やかな身体の線を強調するドレス。それが下品に見えず、妖艶なのか清楚なのか分からない不思議な魅力を醸し出している。
何度見ても、美しい女性(ひと)だと思った。
エドガーが絡んでいなければ、もっと彼女に好印象を持っていたかも知れない。
女性が美しいと見惚れる女性。
そんな人が本当に存在するのだ。
いつまでも見つめていては、又何時ぞやの様に目が合ってしまいそうで、目を逸らそうとしてそれが出来なかった。
エドガーがいた。
未亡人の隣にいた。
穏やかな笑みを湛えて何やら紳士たちと話しをしている。
話が沸くのか、時折皆が一斉に笑い合う。
そしてそこに彼女が共にいる。
何かの拍子に、エドガーが嗚呼と云う表情をして、未亡人の腰に手を添えた。
自慢の細君を紹介している。何も知らない人にそう言ったなら、きっと皆信じるだろう。
似合いの二人。その二人が視線を合わせて見つめあい、
そこまでだった。
コレットは側を通った飲み物を配る給仕に声を掛けた。
伝言を頼む。
馬車も一台。
それから程なくして給仕から声を掛けられ、ひとつ頷いて、そのままホールを横切るように歩き出した。
すれ違う人も、自分を振り返る人も、誰も目に入れない。
出来うる限りの早足でホールを抜けて、
ホールを出てからは小走りで馬車留まで進み、控えていた馬車にそのまま乗り込んだ。
コレットは一人邸に戻った。
一人戻ったコレットに驚き慌てる執事や侍女達に「少し体調が悪くなってしまったの」今日はもう休むわね、と伝えて軽く身体を清めてもらい、夫人の寝室の寝台に横になる。
髪に飾っていた花は、侍女が小さなグラスに生け替えてヘッドボードに飾ってくれた。
部屋の明かりを全て消して、半月まで痩せた月明かりだけに照らされて、そのまま静かに瞼を閉じる。
途中扉の外が騒々しく感じて目が醒めかけたが、瞳を閉じたまま、そのまま眠りに就いた。
侍女達が「美しい」と励ましてくれるのをエールと受け止めて、毎回夜会を乗り切って来た。
今夜も夫が無言のまま馬車に乗っても、それはいつもの事であった。
「何故宝石を着けない。」
だから、エドガーから急に言葉を掛けられて驚いてしまった。驚いた余り、暫く反応出来ずにいると
「髪飾りがあるだろう。」
宝物庫にも、と続ける。
「母の物を直しても良いし、気に入らなければ、」
「いいえ、良いのです。花が好きなのです。」
漸く言葉を発した時には、エドガーを遮ってしまった。
「花が好きなのか?」
まるで初めて知ったと云う顔をする。
「ええ、とても。」
エドガーは納得したのか、それ以上の会話は続かなかった。
夜会会場に入ると夫とは別々に分かれる。
それがいつもの事なので、いつもの様に見知った婦人達に会釈をして、飲み物を貰う。
夫婦が揃って挨拶をしたのは、婚姻式の後の僅かな期間であった。
エドガーの仕事に関わっていないコレットを伴っても邪魔になるだけだろう。紳士達には彼等だけの話もあろう。
だから、そんな紳士達に囲まれて華やかな笑みを振りまく女性に直ぐに目が行った。
遠目でも分かる、美しく飾られた黒髪に靭やかな身体の線を強調するドレス。それが下品に見えず、妖艶なのか清楚なのか分からない不思議な魅力を醸し出している。
何度見ても、美しい女性(ひと)だと思った。
エドガーが絡んでいなければ、もっと彼女に好印象を持っていたかも知れない。
女性が美しいと見惚れる女性。
そんな人が本当に存在するのだ。
いつまでも見つめていては、又何時ぞやの様に目が合ってしまいそうで、目を逸らそうとしてそれが出来なかった。
エドガーがいた。
未亡人の隣にいた。
穏やかな笑みを湛えて何やら紳士たちと話しをしている。
話が沸くのか、時折皆が一斉に笑い合う。
そしてそこに彼女が共にいる。
何かの拍子に、エドガーが嗚呼と云う表情をして、未亡人の腰に手を添えた。
自慢の細君を紹介している。何も知らない人にそう言ったなら、きっと皆信じるだろう。
似合いの二人。その二人が視線を合わせて見つめあい、
そこまでだった。
コレットは側を通った飲み物を配る給仕に声を掛けた。
伝言を頼む。
馬車も一台。
それから程なくして給仕から声を掛けられ、ひとつ頷いて、そのままホールを横切るように歩き出した。
すれ違う人も、自分を振り返る人も、誰も目に入れない。
出来うる限りの早足でホールを抜けて、
ホールを出てからは小走りで馬車留まで進み、控えていた馬車にそのまま乗り込んだ。
コレットは一人邸に戻った。
一人戻ったコレットに驚き慌てる執事や侍女達に「少し体調が悪くなってしまったの」今日はもう休むわね、と伝えて軽く身体を清めてもらい、夫人の寝室の寝台に横になる。
髪に飾っていた花は、侍女が小さなグラスに生け替えてヘッドボードに飾ってくれた。
部屋の明かりを全て消して、半月まで痩せた月明かりだけに照らされて、そのまま静かに瞼を閉じる。
途中扉の外が騒々しく感じて目が醒めかけたが、瞳を閉じたまま、そのまま眠りに就いた。
あなたにおすすめの小説
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
悪女と呼ばれた令嬢は、親友の幸せのために婚約者を捨てた
由香
恋愛
婚約者である王太子を、親友のために手放した令嬢リュシエンヌ。
彼女はすべての非難を一身に受け、「悪女」と呼ばれる道を選ぶ。
真実を語らぬまま、親友である騎士カイルとも距離を置き、
ただ一人、守るべきものを守り抜いた。
それは、愛する人の未来のための選択。
誤解と孤独の果てで、彼女が手にした本当の結末とは――。
悪女と呼ばれた令嬢が、自ら選び取る静かな幸福の物語。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。