30 / 32
【30】
戸惑う二人の空気が部屋を満たして、漸く言葉を発したのはエドガーが先だった。
「一体、何を言っているんだ。
私の妻は君だけだ。この子は私の子だ。」
先程の言葉を繰り返す。
コレットは、これはどういう意味なのだろうかと考えた。
あくまでもコレットと夫婦であると云う体(てい)で、未亡人を愛人のまま手元に置くと言うのだろうか。
何と云う不誠実。
「旦那様、私の知る旦那様はその様な方ではありません。」
しっかりなさってと、叱責したい気持ちを抑える為に、思わず握った拳に力が入る。
「何もかもを正しすのがよろしいのです。私を離縁してあの方を妻に「待ってくれ、以前から可怪しいと思っていたが、君は私が愛人を囲っていると言っているのか」
エドガーに言葉を被せられて、
いけない、いつかの二の舞になってしまうと、コレットは息を整える。
「アネット様をどうなさるのです?」
未亡人の名を告げた。
固く拳を握りしめるコレットの手を大きな手のひらで包んだまま、エドガーは眉間を顰めた。
けれども、流石に妊婦を前に声を荒げる事はしない。
「何度も言わせるな。妻は君一人だ。君も子も私のものだ。」
「アネットさ「何故その名が出て来る。彼女は関係無い。」
また被された。本当に失礼な方だわ。
頑なな夫の無礼に、コレットは苛ついた。
腹の子にこの興奮が障らなければよい。
冷静にならねばと口を噤んだコレットに
「いや、確かに彼女とは関わりはある。」
ですから、と言い掛けたコレットを更に制する。
「ビジネスでだ。彼女はモデルだ。」
続くエドガーの言葉は、コレットの想像を軽やかに超えて海の向こうへ渡ってしまった。
二人の遣り取りを側に控えて見守っていたキャサリンが、熱いお茶を淹れ替えてくれる。
さあどうぞと第二ラウンドの始まりを告げる様に、其々の前にソーサーを置いた。
先制はエドガーであった。
「彼女は、我が社の、モデルだ。」
噛み砕いて幼子に言い含めるという風に、エドガーは繰り返す。
「夜会は披露目であるから彼女の出番だ。夫のいない彼女のパートナーを私が務めていた。」
君は夜会が嫌いだろう?と云うようなエドガーの目線に若干苛つく。
「あれは紳士向けの広告塔だ」
婦人向けは別にいる、と優美な装いで茶会の席でも話題に上る貴族夫人の名を告げた。
「アネットが着るのは我が社の新作だ。紳士の前にあれが立てば、」
「男の視線を集める。説明などしなくとも、奴らはあらゆる箇所を勝手に確認してくれる。黙っていても自慢の婦人(恋人)の為に購入する。」
こんな手の省ける事はないと言わんばかりのエドガーに、
「新作?」
コレットはそこに囚われた。
新作のドレスなど、コレットは贈られていない。
嫌でも解ってしまう嫉妬心に、胸を締め付ける痛みを覚えて、思わず腹を撫でて興奮を治める。
途端に慌てたエドガーまでが手を添えて来た。
「妻の身体を男の眼に晒すような真似が出来るか。」
そう云えば、アネットが身に着けていたドレスは、どれも身体の線が露わになる煽情的なものばかりであった。
幼さが残る面立ちでそんなドレスを纏うアネットは蠱惑的で、清楚なのか妖艶なのか分からない不思議な魅力を感じさせた。
「もし、君が着てくれるなら、君の為にドレスを造ることも吝(やぶさ)かでない。」
え、あのドレスを?あの欲を唆るドレスを?
先程まで抱いていた嫉妬心が、途端に羞恥心に変わって、へなへなと萎んで行った。
「一体、何を言っているんだ。
私の妻は君だけだ。この子は私の子だ。」
先程の言葉を繰り返す。
コレットは、これはどういう意味なのだろうかと考えた。
あくまでもコレットと夫婦であると云う体(てい)で、未亡人を愛人のまま手元に置くと言うのだろうか。
何と云う不誠実。
「旦那様、私の知る旦那様はその様な方ではありません。」
しっかりなさってと、叱責したい気持ちを抑える為に、思わず握った拳に力が入る。
「何もかもを正しすのがよろしいのです。私を離縁してあの方を妻に「待ってくれ、以前から可怪しいと思っていたが、君は私が愛人を囲っていると言っているのか」
エドガーに言葉を被せられて、
いけない、いつかの二の舞になってしまうと、コレットは息を整える。
「アネット様をどうなさるのです?」
未亡人の名を告げた。
固く拳を握りしめるコレットの手を大きな手のひらで包んだまま、エドガーは眉間を顰めた。
けれども、流石に妊婦を前に声を荒げる事はしない。
「何度も言わせるな。妻は君一人だ。君も子も私のものだ。」
「アネットさ「何故その名が出て来る。彼女は関係無い。」
また被された。本当に失礼な方だわ。
頑なな夫の無礼に、コレットは苛ついた。
腹の子にこの興奮が障らなければよい。
冷静にならねばと口を噤んだコレットに
「いや、確かに彼女とは関わりはある。」
ですから、と言い掛けたコレットを更に制する。
「ビジネスでだ。彼女はモデルだ。」
続くエドガーの言葉は、コレットの想像を軽やかに超えて海の向こうへ渡ってしまった。
二人の遣り取りを側に控えて見守っていたキャサリンが、熱いお茶を淹れ替えてくれる。
さあどうぞと第二ラウンドの始まりを告げる様に、其々の前にソーサーを置いた。
先制はエドガーであった。
「彼女は、我が社の、モデルだ。」
噛み砕いて幼子に言い含めるという風に、エドガーは繰り返す。
「夜会は披露目であるから彼女の出番だ。夫のいない彼女のパートナーを私が務めていた。」
君は夜会が嫌いだろう?と云うようなエドガーの目線に若干苛つく。
「あれは紳士向けの広告塔だ」
婦人向けは別にいる、と優美な装いで茶会の席でも話題に上る貴族夫人の名を告げた。
「アネットが着るのは我が社の新作だ。紳士の前にあれが立てば、」
「男の視線を集める。説明などしなくとも、奴らはあらゆる箇所を勝手に確認してくれる。黙っていても自慢の婦人(恋人)の為に購入する。」
こんな手の省ける事はないと言わんばかりのエドガーに、
「新作?」
コレットはそこに囚われた。
新作のドレスなど、コレットは贈られていない。
嫌でも解ってしまう嫉妬心に、胸を締め付ける痛みを覚えて、思わず腹を撫でて興奮を治める。
途端に慌てたエドガーまでが手を添えて来た。
「妻の身体を男の眼に晒すような真似が出来るか。」
そう云えば、アネットが身に着けていたドレスは、どれも身体の線が露わになる煽情的なものばかりであった。
幼さが残る面立ちでそんなドレスを纏うアネットは蠱惑的で、清楚なのか妖艶なのか分からない不思議な魅力を感じさせた。
「もし、君が着てくれるなら、君の為にドレスを造ることも吝(やぶさ)かでない。」
え、あのドレスを?あの欲を唆るドレスを?
先程まで抱いていた嫉妬心が、途端に羞恥心に変わって、へなへなと萎んで行った。
あなたにおすすめの小説
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
* 短編です。4/4に完結します。
ご感想欄は都合により、閉じさせて頂きます。
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。