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第二章
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「はあ」
フルールの溜め息が空に消える。
茜色の空が目に染みる。真っ赤に燃える太陽がまるで胸の奥まで焦がすようだ。
邸に戻ってきてからも、瞳を閉じれば夕日に浮かぶ二人の姿が鮮やかに蘇る。
エドワードはフルールの婚約者である。
いつから彼を慕っていたか、そんなこと思い出せない。敢えて言うなら出会った時か。それくらい出会った瞬間、彼に惹かれてしまった。
二人は同じ伯爵家の子女である。互いに嫡男嫡女でありながら、一人娘のフルールが家を出るには理由がある。
一番には、フルールがエドワードに惹かれたことだ。
フルールには母がいない。彼女が幼い頃に鬼籍に入ってしまった。少しばかり思考が恋愛脳な母だった。恋愛至上主義の彼女が残した言葉が、
「フルールには、心惹かれる殿方と添わせてあげて」だった。
長じてフルールが心惹かれた殿方、それがエドワードだったのである。
だがしかし、エドワードは嫡男で妻を娶る立場にあった。エドワードとの未来を願うなら、フルールは家を出なければならない。
エドワードとの出会いは偶然で、偶々生家の爵位や事業や派閥が同じであり、偶々同じ年頃の男女の子女だったというだけである。
そんな偶然のほうが稀有なのだが、取り敢えず偶々偶然二人は出会った。
フルールは、ひと目会って恋を知った。ストンと恋に堕ちてしまった。フルールは父親似だと思っていたが、思考の片隅に母がいた。隠れ恋愛脳なのである。
だが、なまじ父親似であるから、平素はそれをひた隠しにして冷静を装っている。
そんなだから、あんな甘々なキャラメルみたいな名前の女生徒に婚約者の心を奪われるのだ。
話を戻そう。
出会い頭の事故のように、派閥貴族の晩餐会でエドワードに出会ったフルールは恋をした。
父はそんなフルールに、母の残した言葉を思い出す。後継教育を施して手塩に掛けて育て上げた娘である。
父の心の天秤には、右に亡き妻の残した言葉と左に後継問題が乗って、それは呆気なく右に傾いた。
そこでシリルに白羽の矢が立つ。
シリルは父の弟の息子で、三人男子がいるうちの次男坊。
ふわふわした女の子みたいな見目の割に中身は冷静。頭の回転も速ければ中間子らしく世渡り上手。予てからスペアにするのは惜しいと思っていた。
「三人いるのだから一人くれ」
弟に強請ってシリルを養子に迎えた。
こうしてこちら側の体制は整った。
フルールは嫁げる立場となった。そして両家は互いに互いの価値を見出し、どちらが先に言い出したのか分からないほどのタイミングで婚約を結ぶ運びとなったのである。
それが三年前のこと。
この三年の間に、フルールはエドワードとの親交を深め、シリルは後継教育を受けてきた。
「頑張ったんだけどな」
夕暮は愈々色を深めて茜の空は群青を帯びていた。地平線から一番星が現れてキラリと瞬いて見えている。
「エドワード様……」
一番星に向かってその名を呟く。
貴方はいつだって私の一番星だったの。
貴方のことが大好きなの。
その一言を言えないまま、恋は終わりを迎えようとしていた。
フルールの溜め息が空に消える。
茜色の空が目に染みる。真っ赤に燃える太陽がまるで胸の奥まで焦がすようだ。
邸に戻ってきてからも、瞳を閉じれば夕日に浮かぶ二人の姿が鮮やかに蘇る。
エドワードはフルールの婚約者である。
いつから彼を慕っていたか、そんなこと思い出せない。敢えて言うなら出会った時か。それくらい出会った瞬間、彼に惹かれてしまった。
二人は同じ伯爵家の子女である。互いに嫡男嫡女でありながら、一人娘のフルールが家を出るには理由がある。
一番には、フルールがエドワードに惹かれたことだ。
フルールには母がいない。彼女が幼い頃に鬼籍に入ってしまった。少しばかり思考が恋愛脳な母だった。恋愛至上主義の彼女が残した言葉が、
「フルールには、心惹かれる殿方と添わせてあげて」だった。
長じてフルールが心惹かれた殿方、それがエドワードだったのである。
だがしかし、エドワードは嫡男で妻を娶る立場にあった。エドワードとの未来を願うなら、フルールは家を出なければならない。
エドワードとの出会いは偶然で、偶々生家の爵位や事業や派閥が同じであり、偶々同じ年頃の男女の子女だったというだけである。
そんな偶然のほうが稀有なのだが、取り敢えず偶々偶然二人は出会った。
フルールは、ひと目会って恋を知った。ストンと恋に堕ちてしまった。フルールは父親似だと思っていたが、思考の片隅に母がいた。隠れ恋愛脳なのである。
だが、なまじ父親似であるから、平素はそれをひた隠しにして冷静を装っている。
そんなだから、あんな甘々なキャラメルみたいな名前の女生徒に婚約者の心を奪われるのだ。
話を戻そう。
出会い頭の事故のように、派閥貴族の晩餐会でエドワードに出会ったフルールは恋をした。
父はそんなフルールに、母の残した言葉を思い出す。後継教育を施して手塩に掛けて育て上げた娘である。
父の心の天秤には、右に亡き妻の残した言葉と左に後継問題が乗って、それは呆気なく右に傾いた。
そこでシリルに白羽の矢が立つ。
シリルは父の弟の息子で、三人男子がいるうちの次男坊。
ふわふわした女の子みたいな見目の割に中身は冷静。頭の回転も速ければ中間子らしく世渡り上手。予てからスペアにするのは惜しいと思っていた。
「三人いるのだから一人くれ」
弟に強請ってシリルを養子に迎えた。
こうしてこちら側の体制は整った。
フルールは嫁げる立場となった。そして両家は互いに互いの価値を見出し、どちらが先に言い出したのか分からないほどのタイミングで婚約を結ぶ運びとなったのである。
それが三年前のこと。
この三年の間に、フルールはエドワードとの親交を深め、シリルは後継教育を受けてきた。
「頑張ったんだけどな」
夕暮は愈々色を深めて茜の空は群青を帯びていた。地平線から一番星が現れてキラリと瞬いて見えている。
「エドワード様……」
一番星に向かってその名を呟く。
貴方はいつだって私の一番星だったの。
貴方のことが大好きなの。
その一言を言えないまま、恋は終わりを迎えようとしていた。
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