腐っている侍女

桃井すもも

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腐った婚約者

 私は侍女を辞しました。
 正確には、腐った侍女を辞しました。

 公爵邸に戻って数日。
 お父様宛に王城から登城を要請する書状が届きました。

 城から帰っていらしたお父様は、

「君に決まったよ。明日から参内しなさい」

 参内しなさいが観念しなさいに聞こえたのは、全部腐った耳のせい。

 翌日、登城いたしますと、出来すぎ上司もといヒューバート様が出迎えてくださいました。

「貴女のお陰で散々でした」

 殿下のヤキモチを受け流すのに、などと訳のわからぬことをほざいていらっしゃいます。
 働きすぎで、何処か腐っておられるのでは?

 目線で(お大事に)と、微笑みますと、
 それですよ!それ!と返されました。

 んっん、と咳を払う音がして前に向き直りますしたらば。

 麗しの殿下ー。今日もまぶしー!

 腐敗し切った心の内は表に出さず、鍛え抜かれたカーテシーをご披露いたします。

 わたくし、腐ってばかりでは御座いません。
 やる時はやれる子なのですよ。

「メアリー嬢」

 殿下が麗しい微笑みもそのままに、私に手を差し伸べていらっしゃいます。
 途中、出来すぎ君を横蹴りしたように見えたのは幻でしょう。

「我が婚約者殿」

 お止めになって、殿下!
 腐って蕩けてしまいます!!

 甘い微笑みで手を引かれて、そのまま殿下のお胸の中に囲われます。
 蕩けて腐る~!

「殿下!」

 出来すぎ君が要らぬ制止をなさり二度目の横蹴りを受けたように見えたのも、きっと腐敗したまなこが見た幻なのでしょう。

 優しくゆっくり抱きしめられて、胸いっぱいに殿下の薫りを吸い込みます。

 ぶふっ、殿下香でむせそう。

 呼吸の「吸」が強すぎて、若干、過呼吸に陥りました。

 殿下の腕の中にすっぽり囲われて、殿下に耳元で囁やかれます。

「あのハンカチもくれるかな?僕の髪の毛を包んでいるハンカチだよ」

 なんですと? 
 殿下、真逆の千里眼!?

 あのハンカチとは、殿下のお印をひと針ひと針刺繍した私めの渾身の一作。

 殿下を思い浮かべながら、真心と腐った心を織り交ぜ刺繍した、愛と腐敗にまみれたあのハンカチのことでしょうか。

 聡明で賢明で美丈夫で麗しき殿下は、何処までもお見通しでした。
 腐ってばかりの私など、到底足元にも及びません。

「ようやく捕まえた。もう離れられないよ、覚悟をしてね」

 殿下。そんな覚悟。

 腐海の底辺を知る私めにとりましては、覚悟の内にも入りません。

 貴方様が私をおそばにおいてくださると仰るのなら、わたくし、骨の髄まで思う存分この身を腐らせて、貴方様に侍る覚悟でございます。 

 あい  ら腐゛ゆう なのです!




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