異世界勇者はこの手で殺す!ー勇者を殺す魔剣の使い方ー

悩み猫

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黒刃の剣と奴隷 3

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「奴隷……市場!? ま、待った待った! 奴隷って禁止されてるはずだろ! なんでそんなものが公に出てるんだ」

 俺がガイウスに住んでいる時には奴隷というものは禁止されいると聞いていた。
 奴隷を手に入れただけでも罪になる。
 いくら田舎の街に住んでいた俺でもそれぐらいは知っている。

「おや? あんたアインドラからの出身かい」
「え? そ、そうだけどなんで?」
「奴隷の所持は禁止……それはアインドラのみ。ここレインディアではそんな条例ないのさ。金さえ払えば奴隷なんていくらでも手に入る」

 老婆はくるくると手のひらで銀貨と金貨を転がしながら机に置く。
 そのまま、ひひひと笑いながら、今度はその硬貨を机の上で転がす。

「金さえ……。世の中金ばっかりだな」
「それが世の中さ。だが、悪い事だけじゃない。奴隷といっても飼っている動物も含まれるし、家の手伝いをさせるメイドにする奴や狩りに同行させ共に戦う奴もいる。まぁ、性的趣味で楽しむ輩もいるがねぇ。それが毎月一度、さっきの笛の音で市場が広げられるんだよ」
「そんなのが毎月一回もやってるのかよ……」
「まだ見た事が無いのなら行って見るのも暇つぶしにはなるさ。それに開始してしまったら大抵、街の至るところで露天のように開いてしまって見ない訳にもいかないのさ。これは普通と思うしかないね」
「普通……か」

 俺は外に出ると朝の光景とは大分変わっている事に気付く。
 店の前に檻、更には首輪を繋がれた動物が商品のように並べられている。
 奴隷というより、ペットを見せているようだ。
 だが、その中にも首輪を付けられている俺より年上の屈強な男もいる。
 筋肉質だが、体中に切り傷や火傷の跡、それを見ただけでどれだけ戦闘に繰り出されてきたのか見えてくるようだ。
 しかし、何があったのか知らないが、男の表情は怒りで満ちており、今にも噛み付きそうな勢いだ。

「あの首輪……服従させる魔法でも付与されているのか?」

 そんな考察をしていると、店の前ではパンパンと手を叩きながら、寄って来る客に奴隷を紹介していく。
 内容は色々だが、どんな奴隷? 値段は? このような内容ばかりだ。 

「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今回の奴隷はこの男、武器を持たせたらどんな敵でも一撃だよ! 金貨10枚! 冒険のお供にどうだい!」
「そこのお兄さん、見ていってよ。この可愛いわんこ! 今ならこのわんこが金貨5枚だよ! 生まれたばっかりだから長生きだよぉ!」

 奴隷か……。なんで金まで払って奴隷を……。

「お兄さん、どうだい? わんこなんて調教しちゃえば、お金を持たせて店に買い物に行かせるなんてことも出来るんだよ!」

 店に、買い物……。

 俺は茶色に変わっている髪に触れる。
 もし、それが可能ならば、わざわざ髪の色を変えなくても問題はなくなる。
 それに人目を気にすることも無くなる。
 それで金貨5枚なら安い買い物なんじゃ……。
 奴隷といっても、これは犬だ。ペットと見ても何も問題は

「あ、でも調教には約10年、寿命が12年ぐらいだから結構大変かと、ちょっとお兄さん何処行っちゃうの!」

 そんなにやってられるか。

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

「コート……こんなのしかないのか?」
「えぇ、とても可愛いものばかりでしょう!」

 ヴィルンの街中に発見した服屋。
 中には求めていたコートもあるにはあるのだが、それを手にした俺はただ、困惑するしかなかった。
 何故なら全てのコートが可愛いフリル付きものしかなく、花柄の刺繍までしてる。
 どう見ても男の俺が着るような物ではないからだ。
 しかし、店員はそれを薦めてくる。
 
「どうです? 魔術も組み込んであって、様々な機能まであるんですよ。どんな機能があるかは買ってからのお楽しみ! くじ引き感覚で引けるのもあって面白いって話しも来てるんですよ!」
「い、いや……これみたいに飾り気の無い感じのコートは」
「無いです」
「……この花やフリルを取ることは」
「無いです」
「……」

 俺は無言でコートを元の場所に戻すとその場を後にする。
 あれを着るぐらいなら、今のコートのほうがマシだ。
 ……っと、そろそろ時間か?
 俺はスキル発動欄を見つめると残り時間が丁度10分を過ぎる所。黒髪を気にしない時間ももう終わる。 

「結局何も買えず仕舞いか。あの店以外にコート売ってる場所、宿屋に戻ったら聞いてみるか」

 その時だ。
 背中にドンっという衝撃と共に何かがぶつかって来た。
 俺が後ろを向くとそこにいたのはボロボロの汚れた服を纏う少女。
 見た目は人だが、狼の耳と尻尾が生えている。
 獣人というものなのだろう。見るのは初めてだ。
 よく見ると、首には奴隷がつけている首輪。
 誰かの奴隷なのだろうと思いながらふとその少女の目が合うとその目には光が無い。
 俺の目をじっと見るが、ちゃんと見ているのかがはっきりしない。

「お前……」
「見つけた! そこの人、そいつ捕まえてくれ!!」

 その言葉にやってくるのは、いかにも貴族という格好をしているぶくぶくと太った中年のおっさん。
 赤い衣装に金銀の刺繍が見た目を余計悪くしている。
 だが、あまりにも突然の事に俺はその子供の肩を掴んでしまう。
 子供は逃げようとするが、体が弱っているのか、抵抗しても俺の手を振りほどく事は出来ない。
 まもなくして、その貴族は俺の下まで来るとその少女の首輪に鎖をつける。

「いやぁ、助かったよ。もう少しで逃げられてしまうところだった。こんな場所まで逃げおって……手間を取らせるな!」

 バシンという音と共に少女は倒れ、貴族の容赦ない平手打ちに声も上げず、ただ必死に耐える。
 その後も抵抗も出来ず、何度も貴族に叩かれ、体を丸める少女はただ苦しそうに体を震わせる。

「お、おい……子供相手にやりすぎだ。やめろ!」
「ん? あぁ、いいんですよ。奴隷にはこれぐらいしないと聞かないんで。それよりもあんたには本当に感謝しないとな。これに懲りたら足の一本でも折っておくよ」

 その言葉を聞いた少女は貴族の方を向き、ただ首を振るだけ。
 しかし、貴族の手は少女の足へと伸びていく。

 お、おい……なんで誰も止めない?
 こんな街中でそんなこと許されるはずが……。

 そう思い、回りにいる人に気付かせる為に声を出そうとする。
 しかし、街の連中はそれを見ていた。見ていて、何も言ってこない。
 その表情は普通……。まるで日常生活の風景を見るかのように、何も言わないし、可笑しい部分がないと見ているかのようだ。

 その風景は、少し目によく見た事のあるものだった。 
 ガイウスにいた時の俺を見る目と同じ。 
 誰も助けてくれない、ゴミと同等しか見てない、そんな目だ。

「た、助けて……っ!」
「奴隷は奴隷らくし、大人しくしてろ!」

 足を掴んでいた貴族がその手に力を入れようとする。
 少女は涙を浮かべながら目を必死に閉じ、一時の痛みを我慢するかのようにぐっと耐えようとする。
 だが、貴族の手は動かず、足も折られることは無かった。

「いたた、兄さんどうしたんだ? 俺の腕なんか掴んで」
「え……」

 俺の手? あれ?
 いつの間にか貴族の腕を掴んでいる。ぐぐっと勝手に力が入っていく。
 無意識の事なのか、自分自身、何をしているのか分からない。
 だけど、貴族の行動を止めている、という事だけははっきりしていた。
 その行動を見られると、街人がざわざわし始める。
 何故止めたのだろう? 何をしているんだろう?
 そう言った感じでひそひそと呟く。

「え、っと……その……」
「ん? なんだ?」

 何だこの雰囲気。
 これではまるで俺が可笑しい事をしているかのようだ。
 貴族もそんな俺を見て、首を傾げる。
 そして何かに気付いたかのようにポンッと手を叩く。

「あぁ! もしかしてあんたこの奴隷買いたいんだな!」
「えっ!?」
「そうかそうか、それで足を折られるのを止めたのか。そりゃ、歩いてくれた方が楽だもんな!」
「ちょ、待ってくれ! 俺は」

 俺は相手の勘違いを止めようとするが、既に商人のようにテキパキと話し続け、俺の声が届いていない。
 すると、貴族は胸元から一枚の紙を取り出し、俺に手渡す。

「いいよいいよ! 情報はこれに書いてあるが、この獣人、最近起きた魔族の襲撃を受けた村の生き残りでな。最近、獣人ってのは身を隠すばっかりで姿すら見る事が少なくなっていたんだよ。買うか迷ってる奴がいるんだが、中々答えが貰えなくてな。もうここで売ったほうがいいから……少し負けて金貨50枚でどうだ!」
「ご、50枚!?」

 俺の手持ちの半分。
 一気に金をそこまで減らすなんてことしたくない。
 勇者を追う手立てをどうにかしないといけないのに所持金を一気にそこまで減らすなんて冗談じゃない。

「まぁ、悩んでいるのならここでじっくり……ん? 兄さん、なんか髪、変じゃないか? なんか色が変わっているような……」
「え!?」

 俺は目の前に表示されるスキル欄をもう一度見る。
 まだ発動している[擬装]の文字がいつの間にか赤色に変わっており、残り時間が2分を切っている。
 すぐに俺はフードを深く被り、誰にも見えないようにする。

「い、いや! 別になんでもない! 俺は忙しいからこれで」

 俺はすぐにその場を逃げ出そうとするとおっさんの手が俺の肩を掴む。

「待った待った、ここまで話してそれは無いだろ。あと10分ぐらいは話をさせてもらうぞ。っと、いうより、その髪、もしかして色を変えたりしてるのか? それだったら犯罪になるんじゃ……」

 するとおっさんのもう片方の手が今度は俺の腕を掴む。
 その行動に周りは俺に視線を向けてくる。
 髪の色を変えるのは一種の犯罪行為。国がそう決めている。
 ここで捕まったりすればそれこそ厄介だ。
 っていうか残り1分切ってるじゃねぇか!

「さぁ、兄さん! ゆっくりと話を」
「か、買った! ほら50枚の金貨! 早く数えてくれ!」

 これ以上、この場にいて黒髪だとバレれば最悪、国に身柄を拘束される。
 残り1分を切った時点で俺が考えられる策はほぼ無く、出来るとすればこの商談をすぐに終わらせることのみだ。
 すぐに金貨の入った皮袋を取り出し、それを貴族に渡す。
 そのまま、にこやかに笑うと俺は急いで少女の手を掴み、その場を逃げるように走っていく。
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