動機

昆布

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劣等感

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人を、殺した。

倒れる男を見下ろす俺の息は荒く、耳の奥で、胸の中で心臓が激しく脈打つ音でなにも聞こえない。
内心に広がる言いようのない感情に口から心から、言葉がこぼれてくる。

やった、やった、やってやったぞ。殺した。
俺はずっとこいつが嫌いだった。本当に、大嫌いだったんだ。俺の邪魔ばかりするお前が嫌いだった。死んで欲しかった。
「俺が死ぬかお前を殺すかなら、俺はやっぱりこっちを選ぶよ。」
俺の声がからっぽの部屋に虚しく響いた。

俺はこいつが嫌いだった。
俺よりできる奴で、人に優しく、頭も良く、スポーツ万能で、俺は何も勝てない。
写生大会、習い事のピアノ、バレンタインのチョコの数・・・なにひとつ。

そう、あいつは下駄箱からはみでるほどのチョコを抱えて俺の方を見て、眉を下げた。
「いっしょに、食べない・・・?」
うるせぇ。ふざけんなよ。当てつけかよ。その中には俺の好きなあの子のチョコも入ってた。
人柄の良さで人の好きな人とるし、バレンタインのチョコを他人にあげることしても好かれるし。
イケメンだし。そんな顔良くて、人生イージーモードとかふざけんなよ。せめて性格ハナクソであれよ。

なんでお前、そんな持ってんだよ。

俺はこいつが嫌いだった。

だから殺した、殺してやった。俺にはできる、こいつにはできない。
足元にくたばるこいつはぴくりともしない。動かない。もう起きない。俺に話しかけてこない。俺の息は荒く、こいつの息は___。

俺はこいつが嫌いだった。悩みなんてちっとも無さそうで、幸せそうな顔してのうのうと生きて、なんでもできるくせに、いつも俺を辱めて__。

昨日の事のように思い出せる。こいつの俺にぶつかったときの顔。言葉。俺の名前を呼ぶ声。

「勇樹」

困り眉で、目を細めて、うつくしく笑う。素直なお前の笑顔はいびつじゃない。
昨日の事のように思い出せる。昨日も、今日だって、
そう呼ばれたから。

「にいちゃん」

満面の笑みで、そう言われたばかりだ。

心臓が握られたみたいに苦しくなった。喉のあたりがひどく苦しい。視界がぼやけて、涙が頬をつたって、物語のように熱くもなんともないその温度が現実だと物語る。
「智樹・・・」
掠れた声で呼ぶ。目の前の男は身じろぎもしない。
俺は、取り返しのつかないことをしてしまった。

俺はこいつが嫌いだった。
でも俺にくっついて離れない、弟がずっと___。
「__ごめん。」
俺は弟より、自分のことがなにより嫌いだったんだ。
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