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第8話
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突然の襲撃を受けた白鎧の兵達は、しかしすぐさま冷静さを取り戻した。そして赤い縁どりの白鎧を着た兵のハンドサインに従い、1番後方に居た兵が笛を鳴らす。夜の静寂を切り裂いた笛の音は、隼人達とは家を挟んで反対側に居た兵達を呼び寄せた。相変わらず音も無く静かに走り寄ってきた兵達にあっという間に囲まれた隼人とナツキだが、それでも焦りは無かった。
突如、月明かりが遮られる。そして天から降ってきたのは着ぐるみのような熊。クマゴロウである。クマゴロウが両手を大きく掲げると、ガションという音と共に両手が半分程の長さに縮む。そして再びガションという音と共に元の長さに戻った時には、クマゴロウの手は手では無かった。細かい鋸が無数に連なったそれは、本来は大木を切り倒す為の物。チェーンソーである。
「グルル...」
クマゴロウが唸ると、両手のチェーンソーは甲高い音を響かせて高速回転を始める。それが図らずも戦闘開始の合図となった。
先に動いたのは、白鎧の兵の1人だった。カイトシールドで上半身を器用に隠し、剣先を隼人に向けて距離を詰める。全身を金属鎧で固めた兵のシールドチャージは、その重量と兵自身の鍛え抜かれた筋力で抜群の威力を誇る。しかし剣先が隼人に届く直前、ヌルリとした動きで隼人と兵の間に割り込んだナツキがカイトシールドを左手で押さえ、右手の鋭い爪で兵の首を掻き切った。器用に鎧の隙間を裂かれた兵は溺れるような音を立てて、首を押さえ後ずさる。その兵の頭部向けて、隼人は引き金を引いた。咆哮のような銃声が鳴り、夜の闇に閃光が生まれて兵の頭部を貫き地へと消える。
そんな隼人の背後から、一足飛びで駆け寄った兵が剣を振り下ろした。反応を示さない隼人に、兵が勝利を確信した瞬間。兵は凄まじい衝撃と共に地に叩き付けられた。次に兵の視界に映ったのは、唸りを上げるチェーンソーを振り上げたクマゴロウの姿だった。チェーンソーを兵の腹に叩きつけたクマゴロウは、そのまま辺りに血飛沫を撒き散らしながら兵を上下に両断。その余りの凄惨さに多くの兵が目を背け、そして次の瞬間何かが擦れる鈍い音と共に顔をあらぬ方向に向けて崩れ落ちる。素早さを活かして瞬時に兵の頭を捻り殺したナツキは、身をかがめると再び陽炎のように姿を消す。
赤い縁どりの白鎧を着た隊長は、それをただ見詰めていた。精鋭である筈の部下が、戦場でもあまり見ないような死に様を晒して死んでいる。奇妙なクマの魔物と、変わった鎧の騎士と、長い黒髪の不気味な仮面女に傷ひとつ付ける事無く。ただ、果実をもぎ取るように命をもぎ取られていく。それは隊長の戦意を挫くには充分で。死を受け入れるには惨すぎた。
隊長は踵を返し、一目散に逃げ出した。最早染み付いた筈の無音行動など欠片も無かった。ガチャガチャと耳障りな音を立て、時折バランスを崩しながらも少しでも遠くへ逃げようとした。そんな隊長が最期に見たのは、白い不気味な仮面の奥で煌めく月のような瞳だった。
静寂が戻った宵闇で、王が呟く。
「家仕舞うの忘れてたろ」
「...そんなことない」
突如、月明かりが遮られる。そして天から降ってきたのは着ぐるみのような熊。クマゴロウである。クマゴロウが両手を大きく掲げると、ガションという音と共に両手が半分程の長さに縮む。そして再びガションという音と共に元の長さに戻った時には、クマゴロウの手は手では無かった。細かい鋸が無数に連なったそれは、本来は大木を切り倒す為の物。チェーンソーである。
「グルル...」
クマゴロウが唸ると、両手のチェーンソーは甲高い音を響かせて高速回転を始める。それが図らずも戦闘開始の合図となった。
先に動いたのは、白鎧の兵の1人だった。カイトシールドで上半身を器用に隠し、剣先を隼人に向けて距離を詰める。全身を金属鎧で固めた兵のシールドチャージは、その重量と兵自身の鍛え抜かれた筋力で抜群の威力を誇る。しかし剣先が隼人に届く直前、ヌルリとした動きで隼人と兵の間に割り込んだナツキがカイトシールドを左手で押さえ、右手の鋭い爪で兵の首を掻き切った。器用に鎧の隙間を裂かれた兵は溺れるような音を立てて、首を押さえ後ずさる。その兵の頭部向けて、隼人は引き金を引いた。咆哮のような銃声が鳴り、夜の闇に閃光が生まれて兵の頭部を貫き地へと消える。
そんな隼人の背後から、一足飛びで駆け寄った兵が剣を振り下ろした。反応を示さない隼人に、兵が勝利を確信した瞬間。兵は凄まじい衝撃と共に地に叩き付けられた。次に兵の視界に映ったのは、唸りを上げるチェーンソーを振り上げたクマゴロウの姿だった。チェーンソーを兵の腹に叩きつけたクマゴロウは、そのまま辺りに血飛沫を撒き散らしながら兵を上下に両断。その余りの凄惨さに多くの兵が目を背け、そして次の瞬間何かが擦れる鈍い音と共に顔をあらぬ方向に向けて崩れ落ちる。素早さを活かして瞬時に兵の頭を捻り殺したナツキは、身をかがめると再び陽炎のように姿を消す。
赤い縁どりの白鎧を着た隊長は、それをただ見詰めていた。精鋭である筈の部下が、戦場でもあまり見ないような死に様を晒して死んでいる。奇妙なクマの魔物と、変わった鎧の騎士と、長い黒髪の不気味な仮面女に傷ひとつ付ける事無く。ただ、果実をもぎ取るように命をもぎ取られていく。それは隊長の戦意を挫くには充分で。死を受け入れるには惨すぎた。
隊長は踵を返し、一目散に逃げ出した。最早染み付いた筈の無音行動など欠片も無かった。ガチャガチャと耳障りな音を立て、時折バランスを崩しながらも少しでも遠くへ逃げようとした。そんな隊長が最期に見たのは、白い不気味な仮面の奥で煌めく月のような瞳だった。
静寂が戻った宵闇で、王が呟く。
「家仕舞うの忘れてたろ」
「...そんなことない」
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