上 下
17 / 63
第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

14:ダンジョン-3

しおりを挟む

「ははっ。そりゃ悪手じゃねーか? ゴブリンよぉ」


 得体の知れない相手なら、まずは遠距離攻撃などで様子を探るのが定石だ。そのためにゴブリンメイジが魔法詠唱をしているのかも知れないが、それ以上にゴブリンの方が俺に到達するのが早い。
 横一列に並び横っ飛びなどで回避させないようにしているのか、少し広めに俺を囲うように走ってくる。それならこっちはその包囲を崩させてもらうだけだ。

「はぁっ!」

 真正面にいるゴブリンに一気に近付き、相手の勢いも利用して頭に蹴りを入れる。派手な音と同時にゴブリンの頭が弾け飛び、蹴った足は抵抗感なくゴブリンの頭を撃ち抜いた。
 その光景に、一瞬何が起きたかわからないような顔をして他のゴブリンの足が止まる。その隙をついて、隣にいたゴブリンの頭を殴りつけると、派手な音と共に地面に汚い花火模様を描いた。

「……こんなもんか」

 魔力をレールに乗せて、その都度魔力量を調整し魔素を取り込み攻撃をしていく。振るう拳や脚は魔力で強化され、武器にも劣らないぐらいの強度や鋭さを誇る。
 コレを神剣と呼ばれる剣に纏わせた勇者は本当にめんどくさかったなぁ。俺の魔力ごと切り裂いてくるから、より強固にしたりそもそも近付けないように色々したっけな。

 俺の事をヤバい奴だと認識したのか、ゴブリンが遠巻きに俺を囲んでいる。そこに詠唱の終わったゴブリンメイジが叫んで魔法を発動させてきた。
 3匹とも放った魔法はファイアバレット。俺からすれば込められた魔力量も練度も低いお遊び程度の魔法だ。そんな残念な魔法を放ったゴブリンメイジは、なぜか俺を見て勝ち誇ったような顔をしている。せっかくなので、弾き返すのを近くのゴブリンへ変更してみるか。
 俺はファイアバレットに向かって腕を振るいゴブリンへ魔法を逸らせた。まさか魔法が弾かれるとは思っていなかったのか、弾かれた魔法にゴブリンがそのまま焼かれていく。
 また出来た隙をついて、もう1匹のゴブリンを始末する。特攻してきた最後のゴブリンは尻尾を巻いてホブゴブリンの元へと逃げていった。
 ホブゴブリンは逃げてきたゴブリンを出迎えるのかと前に出てきたが、そのまま持っていた斧で一刀両断した。

「グギャギャー!!」
「「「ギャー!!」」」

 なるほどね。敵前逃亡は許さないってことか。
 ホブゴブリンが雄叫びを上げると、またゴブリンメイジが詠唱を始めている。今度はホブゴブリンがその場から動かず、こっちを睨みつけながら魔法の詠唱が終わるのを待っていそうだ。
 近付いてこないならこっちから向かってやろう。俺は一歩ずつその場から進み始めた。

「「「ゲギャギャ!」」」

 ゴブリンメイジが叫ぶと、魔法が淡い光となってホブゴブリンを包んでいく。どうやら身体能力向上の魔法を付与されたらしい。
 腕力増加、速度増加に防御力上昇……なかなか強化されてるではないか。この世界でも魔法を使って能力を向上させ、一気に戦闘の主導権を握るような戦略があるらしい。

 能力向上魔法を受けたボブゴブリンが雄叫びを上げると、今度こそ俺に向かって突進してきた。
 手に持った斧を大きく振りかぶり、強化された腕力に任せて大きく振り下ろしてくる。
 俺もそれに合わせて手を伸ばすと、一瞬ボブゴブリンがニヤけ顔になったように見えた。
しおりを挟む

処理中です...